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みえないものを、みる視点。

オンライン演習でのチェックイン/チェックアウト

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 前期授業が終わりに近づいている。強制的なオンライン授業、受ける側だけでなくする側も初めての経験ながら、なんとか無事に終了することができそうだ。オンラインではやはり限界があるなという感覚と、逆に効果的なこともあるなという感覚、いろんな気づきがあったが、仮想的な「場」の感覚を醸成するための工夫については、毎週強く考えさせられた。

 その中で僕が特に気付かされたのが、ワークショップでよく使われるメソッド、「チェックイン/ チェックアウト」の意味である。今日はその話を書いてみようと思う。

 

チェックイン/ チェックアウトとは
 チェックイン/チェックアウトとは、通常は、ホテルへの宿泊や飛行機搭乗の際に、顧客が到着し、そのサービスに入る手続きのことを指す。この言葉をメタファとして、ワークショップでは、参加者がその場の本題に入っていく際(チェックイン)、また出ていく際(チェックアウト)に、自分の状態や心理を調整するための技法として取り入れられている。

 

 「技法」と書いたが、特にスキルが必要なものではない。時間を少々とって、車座になり、例えば「今の気分は?」とか「今日は何を期待してここに来ましたか?」などの参加者それぞれの状態を簡単に共有する程度のことである。
 なので、基本的にはやろうと思えば誰でもできる。ワークショップに参加したことがある人は、ファシリテータがわざわざチェックインと言ってなくても、それに近い導入を取り入れていたことを思い出す人も多いと思う。

 

 ではなぜ「場に入る」ために、わざわざそんな儀式的な行為が必要なのか。ワークショップ設計所の小寺氏は「チェックインは、存在確認なのだ」と書いているが、まさしく僕もそう思う。

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 人々が一か所にただ集まっていても、それぞれがお互いの存在を受け入れているとは限らない。また、よく知っている間柄だったとしても、人の気分は毎日すこしづつ異なっている。他者の心のありようやプレゼンス(存在感)は、それほど自明なものではない。

 

 したがって、これからいっしょに何かをやるぞ、というときに、お互いの様子を確認し合い、お互いの存在を受け入れる態度を示し合うことは、当たり前のことに見えて実はとても重要なプロセスだ。逆に言えば、場作りのプロは、だれもが暗黙にしがちなところにまで丁重に気を配っていることが、プロたる所以なのだろう。

 

オンラインこそ、そんなきりかえが必要だ
 翻って、オンライン授業はどうか。受講生たちは同じ場所にすわったまま、デスクトップの上だけでビデオ会議システムに出たり入ったりを繰り返す。多くの場合、マイクもビデオもオフにしたままだ。なので、システムの中でアイコンが並んだり、視聴者数が表示されていたとしても、そのインタフェースの向こうに実際に生きた人がいることを、「直接」感知できるわけではない。


 しかし、演習に際しては、オフラインであろうがオンラインであろうが、目的のために力を合わせ、気持ちを分かち合う「仲間」となることが求められる。オンラインでは同じ場にいるはずの他者の心の機微を全く感じれないからこそ、その場に入る際には、意識的にお互いに「ああ、こんな人がいるな」と存在を確認し、受け入れ、それによる気持ちの切り替えを行う儀式が必要なのである。

 

オンライン授業で取り入れる
 そんなわけで、演習では毎回、最初と最後に必ずチェックイン・チェックアウトを試してきた。みんなにそれぞれ発言してもらうと時間かかるため、タイミングを揃えて一言チャットに書いてもらうという方式である。感覚としては、みんなで「しまっていこー!」「おー!」をやっているようなものである。
 いろんなお題を試したが、お題を毎回考えるのもなかなか難しいので、2年生の演習ではそれぞれで教員やTAで出題を分担しあった。


僕が出題した中でのお気に入りは、以下の3つ。

 

■第1回チェックイン(初回)

「いまの気分を、顔文字ひとつだけで表してください」

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■第10回チェックイン(演習終盤)
「あなたは、先生の代わりに授業始まりの掛け声をするとします。みんながラストスパートに向かって「超」やる気を出すために、どんな言葉を叫びますか?」

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■第11回チェックアウト(次回が最終回)

「ラストスパートに向かって、他のチームのみなさんに盛大な励ましの声援を!」

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 こんなふうに一瞬でタイムラインが埋め尽くされる(キャプチャは一部分)。

一斉にコメントすることによって、お互いのキャラクターが目に見える存在となり、結果的にみんなが同じ状況の中で相互に励まし合っている感覚がうまれる。(テキスト越しでもみんなの熱気や感情は感じるものであり、僕ですらそれなりにゾワゾワする)

 ZoomもMeetもチャットが毎回リセットされるため、こういった一瞬起こったムードもクラスの土壌につなげにくいのが難点だが、その点、我々はDiscordを使っているので、専用チャンネルをつくっておけば、ログが残る。こんな風にキャプチャも取って共有できるし、いつでも見直して元気になることもできる。

 

おわりに
 オンライン演習でのチェックイン/チェックアウトの事例を紹介した。実空間ではキャンパス内に教室の外側の空間が存在することで、ドアを介して内側に「入る」という感覚はあった。さらに時間になったら教員が現れたり去っていくことで、無意識的に授業のオン/オフの切り替えが起こっていたように思う。しかし、そういった手がかりがない場合には、相互の存在の感じ方や場の雰囲気の生まれ方に対して、もっと気を払い、小さな工夫をすることが求められている。