今年から、新カリキュラム3年生向けの新しい演習「フィールド演習」をはじめている。われわれは長年、学生起案型のプロジェクト演習を続けてきたけれども、それに安住することなく、時代の動きに合わせたもうひとつ先を展望した新しい学びを作っていこうという試み。演習企画とチーフは僕で、ここ最近の研究で得た知見を全投入している。
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1. なにをやっているのか
教材サイト(学内google site)より。
テーマは、"Designing with Other Beings" この世界に存在している「人間以外のものたち」と、自分(学習者)がコラボすることによって、なにかのはたらきを持つものをつくってみる。また、それがはたらくことによって何が起こるかをよく観察する、というもの。
我々が渦中にある「気候変動」や「パンデミック」は、人間だけでこの地球環境がつくられているわけではないことを強く突きつける。テーマからわかるように、こっそりとマルチスピーシーズ人類学や存在論的デザインのエッセンスを混ぜつつ、学部生が必要以上に身構えず、身の丈でトライ&エラーができるような内容にしている。
そして4つのプログラムの教員4人による共同運営。ちなみにコース必修なので人数も多い。履修者計、150人超。上のテーマをそれぞれのプログラムで同時進行し、時々ミックスしながら進めていく。
デザインの学生だけでなく、「フィジカルコンピューティング」「ITビジネス」「メディア・コミュニケーション」と多様な学生たちが同じテーマに別々の解釈と専門性を持ち、交流しながら制作に取り組んでいくところがポイントである。そして手前味噌ながらも、(日本においては)けっこう先進的な取り組みなのではないかと思う。
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2. 演習の様子
いくつか写真を紹介。
5月12日。上の写真は課題ガイダンスは屋外にて青空教室。クラス全員がスマホでGoogle Meetに入って音声配信していて、こう見えて実はオンラインとのハイブリッドである。(一度やってみたかった)一年で一番いい季節なので、柔らかい朝の日差しと爽やかな風、鳥の声が気持ちいい。
5月19日。学内フィールドワーク。いまや廃墟となっているキャンパスの外れにある「万葉植物園」を歩く。万葉植物園は万葉集にちなんだ植物を植えたもので、古典文学と植生をつなげる試みでもある。
学生たちは整備された都市とは全くちがう空間に投げ込まれることで、先週のキレイに整えられたキャンパス内の中庭との違いを肌で感じることになる。自然は強烈な生命力に溢れており、ここではむしろ我々のほうが邪魔者だ。
道をふさぐ倒木に絶句しつつも、乗り越えて歩いていく。それがこの演習内の課題。山の中にしか見えないけれども・・・生田キャンパスの中である。
・自然の中で様々な草花・木・虫を観察してみると繁殖を止めないように生命活動をしていることがよくわかった。
・「自然は緑」と言っても緑にもたくさんの色の種類があり、よくみると黄緑だったり濃い緑だったりして面白かった。
・街で繁殖している植物たちもきっと子孫を残そうと必死に活動しているはずだ。
・風が吹くことは自然界の植物にとって種を遠くに飛ばすための移動手段
・雨上がりの森は自然の色が映えて見える、空気も澄んでいる(学生のフィールドノートより)
他の先生は、あんなところに行くのは危ないんじゃないかと眉をひそめていたけど、僕はこの思い通りにならなさが大事なんだ、と押し切った。「そういやなんでかわからないけど、授業で倒木を乗り越えたなぁ」ってのは10年ぐらい経っても忘れないよね。
5月19日。ビデオレターをみんなで見る。
まさしく課題テーマそのもののプロジェクトをすでに実践されている方々、
1)独ベルリンのスタートアップ、Dycleの松坂愛友美さんと佐藤チヒロさん、
2)花人の山本郁也さん
3)調布みつばちプロジェクトの児島秀樹さん
から素敵なメッセージをいただいた。(ありがとうございます!!)
本当は講演に来ていただきたいところだが、こんな情況でもあるので、ビデオレターという非同期のかたちに。
5月26日。フィールドワークから見つけた多様な対象をみんなでmiroに共有し、そこからひとつにしぼってアクタントマッピングキャンパスを描いてみる。
ACTANTの南部さんが紹介していたワークシートをアレンジして使ってみた。(画像はの僕が作ったサンプル)
「アクタント マッピング キャンバス」は、利害関係者を人間だけに限らず、ノンヒューマン(地球や動物といった自然環境)まで広げて描けるようにカスタマイズされている。通常、ステークホルダーマップは円で描かれることが多いが、これまで、人間やデジタルテクノロジー以外の要素は円の外側に置かれ、事業の骨幹からは除外されてきた。このキャンバスではノンヒューマンな要素も人間と同様の扱いとして円の内側に配置して、ビジネスの検討をスタートする。自然環境への細やかな共感を促し、環境負荷が低く、かつ実行可能なプランを導き出すことが主要な目的となっている。
6月2日。アクタントマッピングキャンパスで注目したところを起点にアイデアシートを描き、プログラムを超えて少人数ブレストする。
教室移動や相手を探す時間を省くためにオンラインミーティングを取り入れてみたら、むしろ初対面の気まずさが減って話し合いは盛り上がったらしい。写真は、Macでmeetにつないで、スマホで文字起こししつつ、アイデアシートを練っていく学生・・。教室にいながらこれが当たり前にできるとは、なかなかすごい時代になった。
3. 利用しているデジタルツールなど
対面演習だけど、Discordも併用した仮想教室をつくっている。また各プログラムの学生が乗り入れて全員がフィールドノートやワークシートを共有できる仕組みをつくっている。
個人チャンネルをつくると活動が可視化されてなかなかよい。G Suitesだけだと学生間の横のつながりや他クラスの学習の様子がみえないので、演習としてはものたりないのだ。
また フィールドノーツは、CodiMDというオンラインのメモサービスを利用。 みんなmarkdownで毎週の活動をまとめている。まだ試行錯誤ながら、時々教員の想定をはるかに超えて面白い記録を書く学生が現れてきた。
↓この学生さん(フィジカルコンピューティング・プログラム)の観察力と資料探してつきとめていく探究心、マジすごい。読みながら思わず変な声が出た。
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こんな感じで現在進行形で、6/2からだんだんプロトタイピングにはいろうとするところ。学生たちも迷いながらも、この謎な取り組みの意義に反応してくれていている(と思う)。
やはり、プロジェクトのような「ゴールを決めてから、「やる」という順番の組織的な活動と違って、個人ワーク中心なので、「やってみてから、ゴールを決める」ことができることをもっと体感してほしいかな。
ちなみに、この演習は2単位だけども、プロジェクトの繁忙期と重ならないように通年科目として変則運用している。なので夏休みを含んで11月までかけて試行錯誤や運用の観察をつづけていくことになる。面白い活動が起こりそうで楽しみだ。