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みえないものを、みる視点。

Discordで構築する(ネトゲより楽しい)オンライン協調学習環境のデザイン

5/11から大学のオンライン授業が始まった。ここまでいろんな実験や準備を重ねてきたので、「とうとうこの日が」となんだか感慨深い。全国の大学がオンライン授業実施に突入しており、それぞれでできることが模索されているのだけど、組織ごとにいろんな問題を乗り越えていかなければならない。どの大学も関係者は死ぬほど頑張っているが、それでも容赦無くトラブルは起こる。

www3.nhk.or.jp

幸いながら僕の勤務先は情報学部ということもあり、教室だけに依存しない学習環境には積極的に取り組んできた。これは同僚が優秀な方々なのも大きい。例えば松永学部長は自ら全学18000人が同時に使うシステム運用の陣頭指揮に当たっているし、教育工学が専門の望月先生は、3月末にはいちはやくオンライン授業の知見をまとめたガイドを公開し、全国の大学でひろく参照された。

 

www.nikkei.com

加えて、うちの場合はデジタルカルチャーに詳しい学生たちが多いのも助かっている。僕なんかはむしろ学生に教えてもらっているぐらいだ。というわけで、比較的スムースにオンラインに移行できているほうだと思うが、僕のほうでも、いくつか試行錯誤しながら取り組んでいることを書いておきたい。特に意識しているのは、学習者側のレディネス(準備状態)と、授業に参加しようとする態度の部分。自分自身の経験をもってみても、ここに尽きる気がする。学生の立場で言えば、オンライン授業は普通に受けているだけでは喋る機会が極めて少ないので、受け身にならざるを得ない。しかし、受け身になってしまえば、学ぶ面白さは生まれない。

 

1)「情報表現演習」1年生全員必修(240名/6展開)

メインは教科書代わりの自作授業教材サイト(音声や動画埋め込み)。なるべく通信量を減らし、スマホからもみれるような設計にしている。集合と解説はGoogle Meet(ほぼ音声)で課題提出はClassroom。初回は全く問題なく完了した。

 学生には積極的にチャットをつかって質問し、反応してもらうようにしている。音声中心のガイドで自分のMacで教材に向かう、というのはけっこう好感触のよう。ただ、チャットで「だんだん提出物が集まっています」とか状況をこまめに伝えるのは、進行遅い学生はかなりあせってパニックになってしまったそうで、配慮したいところだ。meetのチャットログは残らない(=どこかに意識的に残さないと欠席者が追えない)のも課題と言える。

 

2)「基礎演習D」2年生選択必修(170人/4展開)

こちらもメインは、教科書代わりの自作教材サイト(Youtube埋め込み)。作り方などの解説は小分けにして動画を埋め込んでいるが、これがとてもしんどい。30分ほどの動画つくるのには半日以上かかるのだ・・・。2コマなのでそれを2〜3つづつ載せていくことになる。GWには妻と子供を拝み倒し、妻にカメラを回してもらい、子供をポケカで買収して出演してもらい、撮影に1日。編集に1日。むちゃくちゃ大変だが、学習者側は一時停止しながら操作していけるので、かなり作業やりやすくなったとおもう。

 

そして演習なので、グループワークになる。オンライン上に協調学習を促進するような環境をどうつくるか?(これが最大の難問で、多くの先生たちが頭を抱えているところだと思う)いろいろ試した結果、Discordを導入。もともとゲーム実況につかわれてるもので、ゲーマーの学生たちにとっては思わず笑ってしまう選択だ(例えて言えば、ニコニコ動画でレクチャーやるようなもの)。メイン画面を紹介。(クリックで拡大します)

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 zoomもteamsもmeetも、真面目なUIだし、なによりもトンネル抜けた先に個室があるような、閉鎖的な空間である。

 その点、Discordは、ゲームカルチャーが反映されていて、全体がゆるい雰囲気でつくられ、遊びゴコロも多い(画面のウェルカムメッセージ参照)。学生たちがいまこの場に集まっていて、わらわらと小部屋と全体会場を行き来したり、隣同士で「これでいいのかな」と相談する感覚。我々教員がするっとグループに割り込んで「どうよ?問題ない?じゃ終わったら報告においで!」と去っていく感覚、となりのクラスの進行の様子を見に行ってアシスタントと気軽にだべったり、「わー、K先生はまだたくさん学生の相手している!うちはもう学生返しちゃったけど、もっとちゃんとフィードバックしなきゃ!」など、普段の教室で起こっているのと同じ体験が、ほんの1クリックで実現できてしまう。この自分と隣人、さらに自分の教室と隣の教室の全貌を見渡せる体験は、他のどのツールにもなかった。最高だ。

 

 黙って聞く講義のスタイルと違って、オンライン型の演習で学ぶべきお手本や競合関係にあるものは、ゲームなのかもしれない、と思っている。オンラインゲームの中では、遠隔で楽しくコミュニケーションとったり、画面内のアバターを介して協力し合ったりすることが、ごくあたりまえにできている。それとおなじようにオンライン演習でも、参加者が自分から積極的に参加しようとする態度や、いっしょに取り組む中で楽しさを生み出すような学習者体験(Learner Experience)を作っていく必要がある。

 

 そんなわけで、いろいろな工夫を試みている。学籍番号+呼んで欲しいニックネームで登録してもらい、学生をニックネームで呼んでネットコミュニティ感を高めたり、個人課題でもパーティ組んで横の関係をつくれるようにグループにしたり。クラスのアイコン揃えると統一感もでる。まあまだ導入なので、3週目のグループワーク始まってからが本番なのだが・・・。

 

 Discordは、ボイスチャットは100名以上も可能で、ビデオ通話は25名まで、画面共有GoLIVEは50名まで(いまのところ臨時で増えている)ということで、小規模のクラスであればほとんど問題ない。音も抜群によくて疲れも少ない。マイナス点として通信はあまり安定してないようなのと、セキュリティはちょっと心配ではある。臨時で増えている制約緩和はいつまでだろう?

www.4gamer.net

 

 というわけで、表題の「Discordで構築するネトゲより楽しいオンライン協調学習環境のデザイン」でオンラインセミナーやってみようかな、と思っている。いまは自分も必死なので、そのうち。

 

僕にDiscordを教えてくれた某友人にも期待されているようなので!

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 3年生のプロジェクトと4年生の卒業演習でもまた別の実験してるので、後半をご期待ください。余力があれば書きます。

 

Discord公式ブログ

Discordを授業に使う方法

 

市谷さんのDiscord記事が面白いです。

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