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みえないものを、みる視点。

認知症の人々と共につくるデザイン

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日本から高齢者のコミュニティの調査に来られた研究者と飲んでいる時に,ふとRitaのことを思い出した.元気にしているかな.彼女はグラフィックデザイナーで,高齢者の認知症の人々を対象に,コミュニケーションデザインは如何なる可能性を持つのか,という研究をしている.5月末頃に僕らのリサーチグループにゲストで来てくれて,彼女のトークを聞いたんだった.

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Ritaはポルトガル人の女性.もうすこし詳しく言うと,ポルトガルの名門ポルト大とアヴェイロ大が共同設立したID+(The Research Institute for Design, Media and Culture)という研究所に所属している,エリート博士課程プログラムの学生である.

春の時期に王立デザインスクールのCoDesign専攻に研究で滞在していて,同じGive&Takeプロジェクトに参加していたのだ.

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認知症の進行過程をみんなが理解できるように視覚化する.なんとインフォグラフィックス.こんな風に展開できるのか!

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認知症の人と一緒につくったボードゲーム.コマの部分をみんなでつくってストーリーを語り,遊びながら記憶を蘇らせるというデザイン.患者自身がつくることに参加することが特徴で,ただ使うだけでないのが素晴らしい.

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身近な人の名前を思い出すためのカードゲーム.

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置き場所を思い出すためのテーブルクロス.これが一番自分が研究室で取り組んでいる方法と近くてツボだった.シンプルで美しいのもナイスだが,使い込むごとに,汚れやシミ,使い込みの触感などがそのままこの布地には写し取られていく.子や孫にとっても共に過ごした記憶を蘇らせる思い出の品にもなるということだろう.

 

他の作品は彼女のウェブサイトで見ることが出来る.

 

彼女の研究動機は,祖父がアルツハイマーになって,それに対してなにができるのか,が出発点だそうだけど,彼女の取り組みは,ビジュアルのデザインとしてもとても美しい.身近な人を起点に同じような問題をかかえる人々に対して展開し,貢献しようとする彼女の姿勢の真摯さには心を打たれたが,何よりも同じバックボーンを持つ者として,グラフィックデザインにできることは,まだまだ沢山あることを改めて気付かされて勇気付けられたことを強く思い出す.しばしばクライアントの依頼が始まりになりがちだけど,そうではなく,自分から提案して動くことができるのだ.僕も負けてられない.

 

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