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みえないものを、みる視点。

Participatory Design Conference 2016に参加してきた

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2016年8月15日から19日までデンマークのオーフスにて開催された14th Participatory Design Conference(参加型デザイン国際会議)に参加してきた。2年に一回開催されていて、前回は南アフリカ。そして今回は米国カリフォルニアでの開催のはずだったけど、キャンセルになって、地元オーフス大が引き受けたとのこと。オーフス大のPIT(Participatory IT )は伝統的なPD研究の一大拠点である。

僕はサバティカルの時につくったワークショップキットをArt& Designのインタラクティブセッション枠で投稿してなんとか採択されたのだけど、前期の激務の中ではとてもじゃないが実践も発表準備もできず涙の辞退。でも、ちょうど開催時期はお盆期間でスケジュールは空いているし科研費も残っているので、次回の発表のためにも見ておくか、という気持ちで参加してきた。

 

参加者は世界中から300人ぐらいで、外見的にアジア人っぽい人は片手ほど。日本人は僕だけである。

 

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参加型デザイン(以下PD)は、これまで何度も書いてきたようにスカンジナビア社会民主主義の思想がベースになっており、過去の運動でもある。そういうわけで会議のテーマも、"厳密な"PDから発展して、それらの知的資産を活かしつつ現代社会の問題に適合させて実践していこうじゃないの、というものだった。

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PDは一体どうやって評価するのか、というセッションより。デザイナーのパースペクティブだけではなくて関わった人々だけの判断基準があるわけで、参加者がデザイナーを評価する、という視点が必要だとすると教育や政治のような評価に近付いていく。

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ITUでお世話になったLone,Jorn,Erikの発表。Negotiation of Values as Driver in Community-Based PD

アクターネットワーク理論を援用しながら、ステークホルダの価値感の衝突が、"もの"への変化と新しい価値を生みだしていて、それが繰り返されてコミュニティの中での生産的な議論が進んでいることを3つのケーススタディを元にモデル化したもの。ふむふむ。やはり分析のためにはANTをもっと勉強しなければ

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ITUで同室だったベルギーのLiesbeth。Counterfactual Scripting: Acknowledging the Past as a Resource for PD Counterfactual Thinkingとは日本語で反事実条件思考・・・難しい言葉だが彼女がよくやっている「今が未来だ」という仮定で議論を進めるというものらしい。

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こちらもGive&TakeのチームメイトだったポルトガルのRita。認知症患者を巻き込んだCoDesignプロジェクトにおけるパーソナライズとオープン性のある遊びについて。以前にも書いたが、ますます研究を進めていて興味深かった。今我々の学部でも認知症のデザインプロジェクトが進んでいるので紹介したい。

 

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ここからインタラクティブセッションをいくつか紹介。

参加型デザインのカンファレンスらしく、プレゼンターは30分の短いワークショップを数回実施して、オーディエンスとも参加を通して議論することが出来る。この形式は日本でもあれば面白い。

これは日常経験から算数を理解するカードゲームのワークショップ(スウェーデン)。自分の経験をシェアするときに僕が「コンビニでおつりもらう時、できるだけ枚数を減らすように暗算しながら小銭出す」と言ったら、なんで日常生活が現金なの、いろんな国の人からむちゃくちゃバカにされたのはこのセッション。

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ナミビアのCoDesign事例。アフリカも最近共創が盛りあがっているらしく、ボツワナ、エチオピアなど、いろんな国から参加者が来ていた。f:id:peru:20160917162224j:plain

地元オーフスの誇る大規模図書館Dokk1の発表。

Dokk1: Co-Creation and Design Thinking in Libraries

ここは世界最高の図書館と言われており、そりゃ建築がいいだけだろ、と斜めから見ていたが。IDEOと共同でDesign Thinking in Librariesを出版したらしい。ソフト面でも頑張っているようだ。

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Public Collaboration Lab(UK)

トランク一つで携帯できるワークショップキット。ここまでやるか・・・。

 

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ブラジルのリオデジャネイロ大学。コペンハーゲンの王立デザインスコーレとの共同研究でCoDesignは南米にまで広がっている

Design and its Movements in Times of Widespread Participationf:id:peru:20160917162438j:plain

ベルギーのリビングラボAndre Market。

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地元レゴ社の発表も興味深かった。レゴの幼児向けシリーズのDUPLOは参加型デザインでつくられているという。子供だけでなく一緒に遊ぶ親にもまた着目しているとのこと。

 We noticed that this approach has potential to bring to the surface important key dilemmas and needs, which do not emerge out of facilitated conversations but rather by confronting themselves with the challenge of designing for their children.

One of the key phrases we use in relation to this is “don’t ask, engage”, to stress how parents’ wishes, fears and peer pressure might come over as a blanket on their perception of their kids. It is by playing together and seeing how their children react to different play experiences, that parents are triggered to think “what if” and see it from the eyes of their child.

 

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ポスターを拡大。こうやって企業のデザインのノウハウを公開してくれるのはあありがたいことである。

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最後。シンガポールの名門、NTU(南洋工科大)のNanciの発表。An Investigation into the Systems of Traditional Laotian Textiles
ラオスの人々が自立できるようなテキスタイル生産の仕組みを協働でつくる。Design for Meaning, Design for Making, Design for Sharingの三段階で分けていたが、なんと彼女は日本に留学して杉浦康平の教え子でもあるそうで、「この研究はすべて杉浦先生の影響」と言い切っていた。たしかに伝統的な文様がなぜそんな形をしているのかを読み解き、その意味に着目して自分たちの文化として育てていこうとするのは杉浦哲学に通じるものがある。彼女の取り組みを知り、出会えたのがPCD最大の収穫だった。香港のYanki LeeシンガポールのNanciとアジアにも尊敬できるアクティビストが何人もいることを知ると、やる気が湧く。

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カンファレンスのパーティ。こういうヨーロッパ的な食事会は気後れしがちだが、幸いにも去年の友人達のお陰で楽しく過ごすことができた。でも時差ボケで夕方はもう頭が働いてなかったのは残念だ・・・。

 

というわけで、まとめ。

デンマークだけでなくて、昨年フィンランドスウェーデン、ベルギーなどの各地で出会った研究者達は自分の実践を発表して熱く議論していて、みんなこの分野のフロントランナーだったんだな、気付かされる。

そしてCoDesignの潮流は南半球にもかなり広がっていて、多くの興味深い事例を知ることが出来たが、こういう議論の場から日本が取り残されているのはやっぱり切ない。日本でもCoDesignに関心持っている人がとても増えているのだが、外国の事例を輸入するだけでなく、我々の活動ももっと他国に出して貢献することを意識しなきゃと思わされた。