Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

【前編】ノンデザイナーは、いかにデザインに関わっていくか?

f:id:peru:20160325011721j:plain

 

ちょっと間が開いたが、ブログ読者からのお問い合わせに答えてみよう、の第2弾。質問者の方は大学では文系の学問を学んでいたそうで、社会人になってしばらく経ってからデザインを学びたいと考えておられるそう。そこで頂いた質問は、「いわゆる"デザイン"のバックグラウンドがない者ができることには,例えばどんなことがあるのか」。

 

近年、"デザイン思考"という言葉が普及したのに伴って、デザインは「デザイナー」だけがやるものではない、という共通理解も徐々に出来てきたように思います。しかしながらその一方でデザイン思考を学んでも旧態依然とした社会の中でどのように活かせるのかのイメージが持ちにくいというのは多くの人が感じていることでしょう。特に「どういう仕事に繋がるのか」が見えないようで、学生達にもよく聞かれることです。というわけで指導してる立場としては、この質問にはちゃんと答える必要性を感じています。

 

結論から先に言えば、医療、教育、介護、看護、自治体、農業、林業、漁業、飲食店経営・・・・数え切れないほどの多くの社会の現場でデザインの力は必要とされていますし、そういった場で多くのデザイナーが越境して問題の創造的解決に取り組んでいます。ですが、本当はデザイナーじゃなくて問題の「当事者」がデザインできるのであればそうするのがいいはずですし、どんな関心事にもデザインを学んだことはきっと活かせるはずです。

 

ユニークな取り組みを5つほど紹介してみましょう。いつもはデンマークの事例ばかり紹介していますが、今回は身近に感じれるように日本人の個人レベルの事例に絞ってみます。いずれも以前からあるような仕事ながら、あたりまえを疑い、自分で魅力的な仕組みをつくりあげた人達です。こういった取り組みに、僕はデザインマインドを感じます。

 

 

1:メサグランデ

カフェ経営にもデザインはあります。運営している田代美香さんは僕がとても尊敬している人で、カフェという場を起点にして食と農を通じた地域コミュニティづくりを実践しています。誰でもカフェを開けるワンデイシェフや、夏休みに給食が無く困っている親子のためのサービスなど、地域密着型だからこそできる、興味深い取り組みばかりです。

mesa-grande.blogspot.dk

 

2:小泉農園

農業におけるデザインは世界的に見てもホットなトピックです。研究室でもお世話になったことがありますが、小泉農園の小泉博司さんは農園フェスを企画するなど、斬新な試みを続けています。

www.advertimes.com

 

3:未来食堂

だれもが当たり前だと思っている「食堂」をリフレーミングして新しい価値を創り出した、一種のスタートアップです。

www.projectdesign.jp

 

4:マミオン有限会社

高齢者のパソコン教室とシニアマーケティング業を併置するというありそうでなかったビジネスモデルを持つ会社です。パソコン教室にやって来た高齢者達にお願いしてリサーチに協力してもらい、そのデータを活かしてコンサルティングする。高齢者はテストに協力することで安く学べるという互酬性があります。

mamion.net

 

 5:専修大附属高校 杉山比呂之先生

高校の日本史教員・・・と聞くと、デザインとは全く関係のない人のように見えます。それでも面白い人は独自の取り組みを行っています。知人の杉山先生は、土曜講座という私立高校独自の仕組みを活用して、高校生向けにチームビルディングのワークショップや大学生と連携したワークショップ活動を行っています。大学に進学した教え子たちを巻き込んで、異年代交流のコミュニティを創り出し、相互に刺激を生みだしているのがとても上手いと思います。

www.s-teamdesign.org

u17.shingaku.mynavi.jp

 

 

さて、ここまで紹介したところで、これらの人々は創造的であるとはいえ、いずれもデザイン(含むデザイン思考)を学んだ結果として生みだした、というわけではないことに気付かれたでしょうか。そう言う意味では答えになってないのかもしれません。ですが、デザインを学ぶことは、上の事例のように、誰もが当たり前だと思っていたことの関係を組み替えていくようなマインドセットの基礎となるはずだ、と僕は信じています。

 

デザインというのは専門性を持った縦軸というよりは横軸であるというのが僕の解釈です。最も大事なことはそれぞれの場所にいる人々に対する視線であり、さらに言えば"愛"です。デザインマインドを携えることで、「自分の目の前の仕事を創造的に変えるプロ」になれるはずです。ですので上に挙げたような仕事だけでなく、デザインが要ると思われてない未開拓な職種ほど、チャレンジングな可能性を内包しているのではないでしょうか。

 

 

後編では、デザインに関係するけれどもトラディショナルなデザインとはスキルセットが異なる専門職種をいくつか紹介したいと思います。

kmhr.hatenablog.com

 

遠慮なんかしてちゃだめだ

f:id:peru:20160323000730j:plain

僕がデンマークに来た1年前から気になっていたクリエイターに、ルネ・フィヨルドがいる。うちの近所にあるOrdrup Schoolや、LEGO PMD(レゴ本社)、マインドラボ(デンマーク政府のイノベーションラボ)などの斬新な空間をデザインした人である。

それと同時にアーティストであり、こちらでは作風は違うが、社会に問いを投げかける深い作品を発表している。

kmhr.hatenablog.com

www.archdaily.com

 

ハイレベルなデンマークのインテリアデザインの中でもトップにいるようなデザイナーなので作品を見て勉強するぐらいだったのだが、以前、キュレーターをしているAndreasから「会いたかったら、紹介しようか?」と思わぬ機会をもらったことがある。その時は、ちょっとビビりが入って「忙しい人だろうし、わざわざ僕のために時間とってもらうのは恐縮なので、なにかトークなどの機会が有るときにでも・・・」とやんわり断ってしまった。

 

後になってみて、やっぱり図々しくも会っておくべきだったよなぁ、とずっと後悔していたのだが、先日お別れパーティを開いてもらった時に、そのことをAndreasに伝えたら「未だ間に合う。彼の工房に行くといい」と、土壇場で紹介してくれて会いに行くことに。

 

というわけでデンマーク建築センターの中にある彼の工房を訪ねてきた。天井の高い、とてもステキなスタジオだ。ルネはとても気さくな人で、丁寧に進行中のプロジェクトやアイデアの秘密を解説してくれた。

f:id:peru:20160323000747j:plain

とある美術館併設のインスタレーションのプロトタイプ。いま地元民の間ではオープンすることが話題になっている場所である。彼はアイデア検討の初期段階では、スケッチから始めるか、モデルから始めるか、の割合は50:50だそうだ。興味深かったのは、彼はスタイリッシュで遊び心あふれる造形を得意としているが、そのインスピレーションの源泉となっているものの多くは「自然」なのだという。ふむふむ。

 

彼自身は天才肌の人なので、CoDesignのようなアプローチは採っていないないけれども、人々が参加することで徐々に育っていくような場をつくることにはとても関心を持っているようで、今制作中の"カップルや夫婦が分かれたあとに残るリング(指輪)をつかった参加型アートなどの構想を話してくれた。

f:id:peru:20160323000803j:plain彼と2ショットをパチリ。彼はこの日は、4つの仕事(受託したデザインワーク2つと、自主企画のアートワーク2つ)を同時にこなしていた。自分の持つ二つのスタイルをお互いに影響させあいながらパラレルに進めている姿はとても励みになる。

 

たぶん今日が最後の調査となるが最後にここにこれてよかった。まだ大事な仕事はふたつほど終わってないが(汗)。

 

忙しいところ、わざわざ時間割いて会ってくれたルネには感謝してもしきれない。そしてなによりも、人生においていつでもどこでもチャンスが巡って来るわけじゃないのだから、あとで後悔するぐらいなら遠慮してる場合じゃない、図々しく行かなきゃ、ということを改めて思わされた。

 

言葉を使わないストーリーテリング:ハンブルクのミニチュアワンダーランド

f:id:peru:20160320232238j:plain

ハンブルクでの目的のひとつ、ミニチュアワンダーランド。ここを訪問した大人達がみな鼻息を荒くして「本当にすごい」「うん、マジですごい」と興奮した感想を語り合っているので、子ども達を連れて行くふりをして実は僕が楽しみにしていた。事前にネットで予約した上で平日の朝イチで到着、という準備のお陰でご覧のようにガラガラの中で心ゆくまでじっくりと堪能できた。(まあ昼過ぎには身動きとれないほど混雑して来たのだが)

 

確かに、ここの作り込みは大人の目で見ても素晴らしかった。世界各国のステレオタイプをうまくカリカチュアライズ(戯画化)しつつ、とことんディテールまで精巧につくられているばかりでなく、人々の波乱万丈を含んだ生活の様子まで丁寧に描いている。これはまるで言葉を一切使わないで表現される物語だ。特に「見付けた人だけが楽しめる」ようなユーモアをあちこちに埋め込むことに特にこだわっているようで、見る側としても、能動的に見つけよう、その場で何が行われているか解釈しよう、わかったことを共有しよう、という気にさせるところがとても良くできている。

f:id:peru:20160320232005j:plain

電車待ちをするペンギンの親子。ペットのシロクマも同行しているようだ。彼らはどこに行くのだろう。

f:id:peru:20160320232020j:plain

スイスのLindtという高級チョコレート工場。ボタンを押すとベルトコンベアに乗っているチョコが実際に出てくる。

f:id:peru:20160320232024j:plain

アメリカでは発掘された砂金が、そのまま繋がって金ピカの車に変化している。

f:id:peru:20160320232036j:plain

ベルリンの壁が出来ていく過程。時代を分けながら同じ場所が変化していく様子が作られている。

他にも山ほど細かい仕掛けがあるのだけど以下省略。

f:id:peru:20160320235313j:plain

制作中のイタリア模型。制作プロセスを公開していて、これも興味深かった。

 

たぶんだけど、この制作チームは、メンバーの「冗談」を促し、それを吸い上げるいくような組織の仕組みを作っていると思う。ディレクターのトップダウンではなく、メンバーの相互関係で練られていくインプロ的なカルチャーの匂いを感じた。

 

ここの模型は、

1)どんな順番でも読める

2)見る側の態度・好奇心に応じて見え方が変わる

3)特定の言葉に頼らない非言語コミュニケーションによる

4)その地域の文化や成り立ち、科学技術などの正しい知識に基づいていて、

  新たに学ぶことが出来る。

5)見付けられた秘密のストーリーを誰かに語りたくなる

という意味での一種のインフォグラフィックス、と僕は解釈した。

 

allabout.co.jp

無事に退園しました

f:id:peru:20160316040025j:plain

バタバタしていますが、なんとか家族全員風邪から回復して元気になりました。・・・といいたいところだが、月曜の夕方から上の子が急病になって最終日は朝一で病院にいくはめになった。なんとか診察終えて昼頃には行くことが出来て、ちゃんとみんなとお別れできた。

 

子ども達も今日でデンマークの幼稚園に通うのも終わり。1年間、彼らだけでなく僕もいろんなことを学んだな。子供の友人たちもみんなハグして別れを惜しんでくれた。だいたいの仲間達は忘れちゃうんだろうけど、親友になったガブリエル君とはお互いに忘れないでいてほしいものだ。

 

さて、明日から幼稚園がないので子供たちの相手をする必要があって、明日から3日ほどドイツのハンブルグに行ってきます。

引っ越し準備をしなければ、と思いつつ

f:id:peru:20160309035014j:plain

この頃、急速に日が長くなっていくのを感じる。真冬なんてオフィスの窓から日の出をみたものだが、最近は朝食の時に既に明るくなった。

 

さて、残り20日を切ってそろそ荷物をまとめ始めなければ・・・、というタイミングでどっかから悪いウイルスもらってきて寝込んでしまった。僕は週末でなんとか回復したが、結局家族全員にうつしてしまい、結構なバッドエンドが近付いている。

 

そして引っ越しの手配と新学期の準備がちょっとやばい状態だ。なのに済ませておくべきいくつかの仕事が終わってない。うーん、この流れはなんだか去年の離日直前のバタバタを思い出さざるを得ない。まったく成長がないな。

 

そんな中、来週は我々はすでにチケットもホテルもとってあるハンブルクに行く予定なのだが。無事に新学期を迎えられるか、乞う、ご期待。

 

市民に開かれたアートスクールの制作環境:GODSBANEN

f:id:peru:20160306004407j:plain

2月19日。デンマークで二番目に大きな街、オーフスを訪問した際に、GODSBANENに連れて行ってもらった。ここはオーフス市営の「カルチュラルプロダクションセンター」とのことで、クリエイティブ関連の場所がたくさん設置されている。GODSBANENは「アートとビジネスと教育の間をつなぎ、人々が出会うためのプラットフォームとして、誰にでも開かれた空間で、いつでも(毎日)機会を提供する」そう。

200人が常時働いていて、毎年17万5千人訪問するという大型のセンターだ。

f:id:peru:20160306004414j:plain

この建築は外側も奇抜だが、内側も負けずと奇抜な空間である。

f:id:peru:20160306013631j:plain

吹き抜けの奥にはしゃれたカフェが位置している。

f:id:peru:20160306010046j:plain

1923年に作られ、もともと貨物列車の中継地点だったそうだが、数年前に方向転換して、文化の中継地点になるように作られたという。オーフス建築学校がここの横に移転を進めているそうで、さらに大規模な中心地となっていくことを想定しているようだ。

f:id:peru:20160306004421j:plain

内部には、木工、金属加工、テキスタイル、陶芸、デジタル工作、印刷などの工房、写真と映画の暗室、絵画のアトリエなど。音楽と演劇のホール、ギャラリースペースもある。ほぼ網羅しているじゃないか。もちろんワークショップは頻繁に開かれているし、さらに要請すれば専門家からのアドバイスももらえるそう。

f:id:peru:20160306004430j:plain

プロジェクトメンバーがレーザカッターで彫られている。合体して矢印にみえる。メンバーも入れ替え可能で、格好いい。

f:id:peru:20160306004429j:plain

文学関係のセンターまであるのだな。

f:id:peru:20160306004437j:plain

2階はスタートアップ育成のためのコワーキングスペースになっている。会員なら誰でも使えるが、だれでも会員になれるわけではなく、ポートフォリオなどで審査されるそうだ。

f:id:peru:20160306004505j:plain

案内してくれたKokoさんはイラストレータ兼デザイナーで、ここの会員だそうで中まで見ることができた。

f:id:peru:20160306004453j:plain

ウロウロしていたら、オーフス大の社会学部の学生からインタビュー調査をうけた。外国人から見てGODSBANENのどこが魅力的か、自分ならここで何をするか、などを聞かれたので、異文化を組み込む方法として「ものづくり」はどんな可能性があるかを探っているのだろう。

 

それにしてもこの充実した環境が市による運営だということには思わず言葉を失うが、これらがアートの全部の分野にわたって徹底的に揃えられている意味を解釈してみると、いわゆるMakerSpaceを越えて、ほぼアート&デザインスクールが持っていた設備・教育・知見共有などの機会を市民全体に提供している、と言えそうだ。あとカリキュラムと教育体系を整備すれば、この環境の中にオープンにアクセスできる新しいタイプのアートスクールができてしまう。

GODSBANENは運営してまだ数年だそうでまだまだ育てている途中だと思うが、ここで何が起こっていくか楽しみな場所だ。

 

godsbanen.dk

 

がん患者と未来の化学治療をCoDesignする試み

f:id:peru:20160304045431j:plain

3月3日午後。王立デザインスコーレのCoDesign専攻の研究室公開を見に行ってきた。昨年のコソボの若者達とのプロジェクトも凄かったが、今年も凄い。今年のプロジェクトは、がん患者、そして医者達とコラボして未来の化学療法の姿をデザインするという挑戦である。

f:id:peru:20160304045436j:plain

がん患者は手術が終わったあとに、抗がん剤を点滴し続けるという化学療法のフェーズがある。そして症状次第では自宅治療したり仕事に復帰したりする。その際に持ち運びする必要があるわけだけど、どうもファッショナブルで機能性に飛んだバッグはない、とのことで、がん患者といっしょにデザインした、という。デザインゲーム、ダイアローグ、プロトタイピングなどを繰り返しながらデザインしていった。なんと織機使って布地を織るところから手作りしている。

f:id:peru:20160304045909j:plain

紹介パネルの上半分。

f:id:peru:20160304045448j:plain

下半分。(クリックで拡大すれば字が読める)数回の手術や、長い長い治療過程を経て生き残ることができた経験をインタビューを通して描いている。

 

今後、プロジェクトで提携した二つの病院でテストしていくそうだが、なにより驚いたのが、シリア難民の女性達が、この布を織ってバッグを作ることを想定していること(!)なるほど、なんでわざわざ手織りしているんだろ、と思ったらそう言うことか。難民達が作ることで、自力で収益を得て経済的に自立していく。クールなバッグを得ることによって、がん患者は外出をもっと楽しめるようになる。患者も難民も相互に良い関係になる。凄い。

そして、この辺のアイデアを学生の提案に終わらせないで実現に向けて着々と進めているのが、実にデンマークらしい。以前、日本の大学病院の倫理委員会の高い高い壁に跳ね返された経験のある人間としては、そのパートナー関係が羨ましい。

 

バッグの横に置いてあった分厚い報告書が内容もエディトリアルデザインも秀逸だったのだけど、残念ながらもらえなかった。

プロジェクトのウェブサイトがよくできているので紹介する。

www.chemotogoplease.dk

 

ページの中程にあるメイキングムービー(6分ほど)は必見。僕を受け入れしてくれているLoneも患者として出演している。

このムービー見てて思ったけど、このアプローチは利用者を実際に長期間巻き込んでしまうことで最終的に使う人も納得するものになっていくのが、力業というかなんというか。ペルソナの場合は運用を失敗すると途中で消えたりしてしまうのが弱点でもあるからな。

f:id:peru:20160304045455j:plain

プロジェクトのチームは修士の2年生2人と1年生2人の4人の女性達。世代を分けておくことで研究室のマインドを継承することを意識しているようだ。

 

毎度ながら、学生達の活動を社会の中で展開している事例を見させて頂いて、ドイツからわざわざ来たという研究室志望の韓国人の学生とふたりで「我々も頑張らなきゃねぇ」と励まし合って帰ったのであった。

ラーメン屋にて、Placeの問題を見出す

f:id:peru:20160303041852j:plain

先日のこと、リビングラボのことを議論している最中にふと思い立ったので、夕方に話題の期間限定ラーメン店Hrímnir Ramenに行ってみた。コペンハーゲンでは、ラーメンブームが到達して今年になってから新規開店が相次いでいる。このラーメン屋はその中でも特殊なコンセプトを掲げていて面白いのだ。

 

店主のDavid Quist氏はもともと微生物の研究者だそうで、勤めていた研究所を辞めて、サスティナブル社会や地産地消を推進する方法としてラーメンに着目し、北欧ならではの新しいラーメンのスタイルに挑戦しているそうだ。

 

ラーメンの内容については木浦さんがレポートした下の記事に詳しい。

ddcph.hatenablog.com

 

取材が終わったばかりのDavidと話すことが出来た。僕が推測したことは当たっていて、自分の思想を具体化し、研究するラボとしてのサイクルと、その結果を人々に提供し、ビジネスとして資金を得ていくサイクルとしてのレストランというダブルのサイクルを一緒に回すことを意識しているそうだ。

 

オーガニックとか地産地消はNomaなどの新北欧料理にも共通するデンマークらしい考え方だが、一方でデンマークは世界でも指折りの高品質な豚肉の生産地ながら豚骨を使った料理は見たことない。普通に棄てられているんだろう。これまで省みられなかった食材を応用した、新しい食べ方を提案するためのラーメン。持続するビジネスとしてのラーメン屋。なるほど。いい着眼点だ。

 

「俺の実験の成果・・・それがこの一杯だ!どうだッ!(意訳)」と漫画チックに語ってくれて思わず笑った。

 

日本人からの評価は気になるらしく、感想を求められたので「トッピングはほぼパーフェクトだけど、スープはもうすこし、麺がまだまだだね」と答えたら、彼らもその課題はすでに把握してて、期間限定というのもそういう課題をクリアするために試行錯誤しているそう。「かん水使えばいいのに」と言ったら「もちろんそれが簡単なんだけど、ヨーロッパ人にはあのケミカルな感じは違うんだよ」と。あの薬臭さががいいのに。

 

ラーメンコンサルの日本人(というのがいるらしい)を雇って彼が作り方をサポートしているようだが、実際彼はプロに任せるだけではなくて日本で英会話の先生しながらラーメンの研究したそうだ。徳島の拉麺たくみやに影響受けたとか、炙りチャーシューはどこどこの影響だとか、僕も知らないようなラーメン屋の話を振られて吃驚した。

 

彼と話しながら、これからはますますPlaceの問題が重要になっていくだろうな、と思った。

すなわち、

1)ここだからこそできること

2)何の場をつくるかということ

3)そこに宿る文化を継続的に醸成していくこと

である。

 

ちょうど僕が行った時に彼が取材受けていたのは、たぶんこの記事か。プロのライターって凄いな・・・。

cphpost.dk

“I didn’t want to fight in a place where there was no will and only financial obstacles. That’s why I decided I should empower the communities by myself to provoke change by educating and raising awareness about food integrity and ethics,” he said.

 

廃棄物専門スーパーWeFoodでの顧客体験を考えた話

f:id:peru:20160301010249j:plain

先週のこと、世界初の廃棄物専門スーパーマーケットwefoodが大学の近くにオープンした。いわゆる賞味期限間近のものを格安で仕入れるディスカウントストアとは違って、「廃棄物」扱いになった品物を提携先から寄付してもらって売る、という世界初の試みらしい。

 

ほとぼりさめた頃に行こうかと思っていたのだけど、日本の皆さんもすごい勢いでシェアしているので気になってちょっと予定を早めて行ってきた。人気で品薄との噂を聞いて開店(15:00)と同時に行ってみたら、すでに結構な行列がw 地元でも話題になっているのでみんな物珍しさで来ているんだろうな。

f:id:peru:20160301010319j:plain

たしかに品数は少なく、日本の農産物直売所よりもだいぶ少ない。いくつか野菜買ってみた(葱、パプリカ、レタス)けど、普通に見切り品ぐらいの値段である。

f:id:peru:20160301010255j:plain

スタッフはみんなボランティアだそうだ。まだレジにも慣れてないようで一生懸命操作していてほほえましかった。

f:id:peru:20160301010304j:plain

パイ生地のアイス(?)箱入りで3DKK(50円ぐらい)。

f:id:peru:20160301010553j:plain

瓶入りジンジャーエール。10DKK(170円ぐらい)。デンマークは元が物価高いので我々にとってはあまりお得感を感じないw

こんな感じでロットがやたらと多いものを並べてあるのが印象に残るが、基本的にはこういう在庫処分品をどこまで集められるか、ということにかかっているのが実状か。

f:id:peru:20160301010435j:plain

ただ、デザインにはだいぶこだわっていて、しゃれた店舗設計やショップのグラフィックもクオリティ高い。・・・・なのでなおさら実際の運用が負けている感じが際だつ。

f:id:peru:20160301010323j:plain

まだ部分開店なのだが、まだオープンしていない部分の窓から大量に先程のジンジャーエールが積まれているのが見えた。一体どれだけ売れなかったんだろうか。

そしてなんと隣は八百屋で、閑古鳥鳴いている。店主は複雑だろうw

 

www.independent.co.uk

・日本のメディアはスルーしているけど、転載されてバズってる記事の写真の女性、皇太子妃のメアリーだ。日本で言えば雅子様の立場の方で、佳子様ぐらいの絶大な人気がある。この店の先週のオープニングセレモニーに出席したらしいが、王室まで見に来るってのは相当関心高いのだな。

 

・ライターっぽい女性が写真とっていたので、話かけてみた。なんとチェコから(何かのついでらしいが)取材に来たそう。チェコでもこの取り組みは話題を呼んでいるの?と聞いたら「もちろん!この間フランスが法律つくったように、ヨーロッパ中が食品ロスの問題には関心高いわね」と答えてくれた。「日本はどう?」と聞かれたが・・・・うまく答えられなかった。このスーパーができたという話題は、いろんな人がシェアして何度も流れてくるから関心高い人はきっと多いはずだが。

 

・日本でも食品ロスの問題に一人一人の人間が関心をもつ地点までは来ているとしよう。しかしそこからさらにデンマーク人はそういうアイデアを「仕組み化」するのがめっぽう上手い。単純な利益以外の目的を持つNPOやソーシャルベンチャーが盛んだし、そういう人達だけでなく政治家や企業トップもすぐ即決して行動に移す。このあたりのスピーディな動きや社会のポジティブな解釈を見ていると、日本のがんじがらめの法規制や、お腹壊したら誰が責任とるんだ的な世論からはだいぶ先を行っていると思わざるを得ない。

 

・さて、お店自体の印象としては、上でも書いたように企画運営者のオペレーション以上に社会の期待もあって話題性の方が先走っている感じだが、それに加えて、よく考えればこの店は難しい問題を抱えている。

 

・まず顧客に求められている商品は大体売れてしまうわけで、大量に残って寄付されるのは不評だった(?)商品が中心だろう。そうなると、お客さんが面白がってお店に来てみたはいいが、不人気商品ばかりで買いたいようなものがない、ということになる。安いとは言っても、あのくらいの値段なら他のディスカウントストアでもそれほど変わらない。

 

・同じように食品ロスを減らす活動をしているRub&Stabの場合は、売れ残りの食材をコックによってその時その時の食材の組み合わせによって可能な、どこにも代替のない美味しい料理、という即興的な創造性によって作られた体験をサービスとして提供している。

 

・つまり期待値が低いことを逆手にとった驚きを作り出しているわけだ。食品ロスを減らす、という目的は同じでも、このwefoodのコンセプトがこの後も持続できるかは、そういう意表をつける体験をつくりだせるかどうかだろう。チャリティーだけではリピーターをつくっていくのはちょっと難しそうだ。

 

・これらはあくまで現状の問題だし、まだスタートしたばかりで、これからトライアンドエラーを繰り返してしていくんだろうけど、むやみに不人気商品で棚を埋めるよりも、まずそのあたりを考えることが鍵になりそうだ、と思った。

 

www.noedhjaelp.dk

 

大陸を繋いだプロジェクト

f:id:peru:20160229174439j:plain

2月23日(火)、arki_labのオフィスでミーティング。

デンマーク、オーストラリア、日本を繋いだプロジェクトの構想についてディスカッションする。予算とれるかの問題も大きいし、実現するかは未だ未知数だが、いっしょにやろうよ、と言ってもらえるのはありがたいことだ。うちの学生達はあまり国際プロジェクトする機会は少ないけど、いいチャンスだと思うし是非巻き込んでいきたい。

 

なんだか帰る頃になってだんだん日本に持ち帰ってやらなきゃならない仕事が増えてきた。あとは時間だな。ただでさえ私大教員は忙しいので想像すると恐ろしいが、なんとか生きられますように。