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みえないものを、みる視点。

【後編】ノンデザイナーは、いかにデザインに関わっていくか?

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 前編の続き。

今回は、デザインプロジェクトに参加するけれども、トラディショナルなデザインとはスキルセットが異なる専門職種をいくつかとりあげます。

 

1:デザインリサーチャー

もしデザインファームで働くことを目指してる場合には、デザインプロセスの前半部分を中心に磨いて得意分野にする、というのが良いのではないかと思います。まず、どのようにデザインを進めるか(デザインプロセス)はいろんなモデルが提唱されていますが、とりあえず僕の授業のスライドを掲載します。

 

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これは富士ゼロックスの発表しているモデルを引用したもので、社会人向け大学院の産技大人間中心デザインプログラムの「発想法」の資料として描きました。(黄色の部分が見にくいですが、ここはアニメーション込みでどこに発想が関わるのかを解説している部分です)というわけで、少し文脈は違うのですが、とりあえず、1〜6はいわゆる人間中心デザインプロセスとしては極めてスタンダードなものと言って良いでしょう。この中で個人的に重要だと思っていることは、具体的な世界から抽象化して発想し、抽象的な概念をまた具体化していくという、具体と抽象を行き来するところです。ラダーアップしないで具体から直接具体を考えると、しばしば短絡的な答えになりがちです。

 

知り合いの美容師は、

「始めてのお客さんからは"おまかせ"を受けてもなるべく引き受けないようにしますね。なぜなら、人の満足感は『その人が他人にどう見られたいか』によって決まってくるから。その人を理解しないうちには最適解は出せない。

と言っていたことをよく覚えてますが、顧客の表面的な姿ではなく、その裏を洞察すること(インサイト)が大事、というのはデザインに限る話ではないのでしょう。

 

最近欧米では、デザインプロセスの前半部分を主にリードするデザインリサーチャと呼ばれる独自の職種として位置づけられることが増えてきました。やや強引ですが、図にするとこんな感じです。

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代表的なデザインリサーチャには、ヤン・チップチェイス氏がいます。

www.dhbr.net

 

デザインスクールではデザインリサーチは例えばどんな授業として行われているのかは、CIIDに留学中の木浦さんが詳細に紹介して下さってますが、以下の記事は暗黙になりがちなところが記述されていて興味深いです。

ddcph.hatenablog.com

 

丹念に事実をあつめ、そこから仮説を導いていく、というのはもともと人類学や社会学などのアカデミアの方法がデザインに移植されてきたものです。現代のデザインプロセスではデザインに含まれますが、決して20世紀の頃の日本のデザイン教育で重視されてきたとは言えませんし、手を動かすのは得意でもここが得意という人はそれほど多くないでしょう。一方で時々、 本職のエスノグラファーのデータの取り方や視点を知る機会があると、さすがに凄いと唸らされることが多いのですが、彼らは彼らで精緻な理論を好む傾向があって、インサイトへの発想のジャンプが得意なわけではないようです。要するにこのインサイトを見出すプロセス(上の図の黄色と青が重なっている部分)は永遠の問いというか、みんな苦労するポイントです。それを刺激する方法のひとつが多様性のあるメンバーによるディスカッションと言われますが、そんなディスカッションすれば簡単に出るというものでもありません。そんなわけで、この段階を対処できるような人材というのは今後もっと求められるようになる、と僕は思っています。

 

2:プランナー(含むディレクター)

このへんは業界や人の特性によってさまざまですので、一概に説明しにくいのですが、おおまかなビジョンを立ててプロジェクトを企画したり、トラディショナルなデザインを担当する人と協働してプロジェクトを進めている人達です。デザイナーとはフラットな関係というより、指示を出す立場である場合も多いです。

代表的な人として、真っ先に思い出したのが、渡辺保史さんです。いち早く情報デザインの普及に貢献され、さらに地域コミュニティの中で優れたプロジェクトを進めていました。残念ながら2年前に若くして亡くなられました。

techwave.jp

彼はデザイナー出身ではありませんでしたが、デザインの本質を深く理解していましたし、広義のデザインを意識した活動を行い、たくさんの人に影響を与えました。検索すれば知ることができますが、彼の活動は参考になると思います。

 

IT業界では、デザイナーやエンジニアとチームを組み、全体を把握しながらプロジェクトを進めていくディレクターという職種がありま す。現場の人の話を聞く限りこの職種も人材不足のようです。EC系サイトのWebディレクターをやられている知人のazumiさんは、たしか政治系の学部出身ですが、学生時代からずっと続けてこられたノートテイキングのスキルを展開して今ではグラフィックレコーダーとしても活躍されています。彼女の活動がwebディレクター全てをさすわけではないですが、とりあえずブログはとてもおもしろいです。

www.webd-labo.com

 

 

3:トランスフォーマー/ トランスレータ

ちょっと昔の話ですが、今から100年近く前に、ピクトグラムの源流である視覚言語のISOTYPEが産み出されました。これを提案した人としてOtto Neurathというオーストリア出身の哲学者が知られてます。

https://robertgrantstats.files.wordpress.com/2013/03/isotype-race.jpg

 

ですが、彼は一人で実現したわけではなく、グラフィックデザイナーのGerd Arntzに加えて、のちに奥さんとなるMarie Reidemeisterが重要な役割を果たしていたことはあまり知られていません。ちなみにISOTYPEが世界に広く知られるようになったのも、急死したOttoの志を継いで普及に努めた彼女の功績が大きいです。彼女が担当していた役割は、統計的なデータをつくるData collectorと、最終的なビジュアルを作るGraphic designerの間を繋ぐ編集者のような役割で「Transformer」と呼ばれました。

 Marie is not mentioned by name but as Neurath’s “chief statistical assistant to whom he is engaged”. In fact she was known as a “transformer” – a role that mediated between researchers and artists, combining artistic and design ability with understanding of educational theory, statistics and science.

 

www.holywellhousepublishing.co.uk

 

Marieの書いたスケッチが残っていますが、これには驚かされます。

http://www.designhistory.org/Symbols_pages/images_symbols/Marie_Sketch.jpg

The History of Symbols : Isotype

これを見ると、言語のバリアを越えるコミュニケーションの可能性を示したOtto、美しいピクトグラムを作ったGerd Arntzだけでなく、彼女もまたプロジェクトに不可欠なキーパーソンだったと強く思わされます。Marieは、専門家同士の溝を埋めるような役割や、サイエンスを一般の人が理解できるようにする役割、今で言うサイエンスコミュニケーションに近いことをしていたのでしょう。つまり異なる分野をつなぐ「翻訳」ということです。縦割りの多い社会ですので、これに類する仕事は現代社会こそたくさんあるのではないでしょうか。

 

デザインのプロジェクトは、外部からは目に見えない役割も含めて、さまざまな専門性のコラボレーションで為されます。そのどこかに得意分野を持つことを心がけていくと良いのでは、と思います。