Rolf Faste(1943-2003), Stanford University professor
自分が影響受けたことの系譜を記述する、という超個人的なシリーズを思いついたので、時間みつけて書いてみたいと思う。
初回はロルフ・ファステ教授。日本ではほとんど知られていないけれども、デザイン教育者として歴史に残る重要な人物である。ファステは、スタンフォード大工学部のプロダクトデザインプログラムのディレクターを長年務め(1984-2003)、在任中にがんで急逝した。ちなみにファステの前任はロバート・マッキム(ビジュアルシンキングの創始者)で、後任がデビッド・ケリー(IDEO Founder)である。
彼が中心となり、工学部の学生達の創造性を高めるために開発しつづけた教育は、単なるデザイナーの職能育成を飛び越えて、異なる領域と領域をつなぐ共通言語となり、非専門家のためのデザイン教育として体系化されていった。それらは、のちの時代にDesign Thinkingと呼ばれるものになる。異質なものを組み合わせてハイブリッド的に取り入れる斬新な教育の取り組みや、言葉にならないものを言語化していく論考は他に比類のないもので、僕は大きな衝撃を受けた。
例えば、デザインの学びの文脈で即興演劇を取り入れるというアイデアはファステによるもので、しかもそれを論文にして1992年に発表している。僕は彼の真似ごとをしているに過ぎない。
Rolf Faste, “The Use of Improvisational Drama Exercises in Engineering Design Education,” Cary A. Fisher, Ed., ASME Resource Guide to Innovation in Engineering Design, American Society of Mechanical Engineers, New York,
僕がファステを知ったのは今から10年以上前のこと。櫛勝彦先生(京都工繊大教授)の研究室を訪問した際に、まとめられたばかりの博士論文を頂いた。そこにはインプロを取り入れた身体的エクササイズと、それによってブレストの心的メカニズムを理解することの学習効果が論じられていた。櫛先生は、ちょうどファステが教えていた頃のスタンフォード大のMaster Programに留学されており、ファステから学んだ経験をリアリティたっぷりに書かれていた。僕はそれを食い入るように読んだ日のことをよく覚えている。
ファステは惜しくも60才という若さで亡くなってしまったが、彼の残した創造性教育の知見や教材などは、ファステ財団(息子さん達)によって丁寧にアーカイブ化されてウェブ上で無償公開されており、我々も自由に読むことが出来る。
ファステの仕事の中で、最後の10年をかけて書いていたという未完の書籍「Zengineering」(禅×エンジニアリング)なんて、今聞いてもコンセプトが斬新すぎる。
Engineering applies known principles to assure our creations are functional and safe. Zen courageously moves beyond conventional understanding to engage life in real time. These two opposites are explored as an inextricable Yin/Yang pair. One promotes critical thinking, the other non-judgmental mindfulness. One values logic, the other sees past it.
Zengineering addresses the problem of what to do next, both as an individual or as a corporation. It is concerned with being creative about what to be creative about.
こんなレベルでこれまでにない組み合わせを探り、新しい概念を創造していたことは唸るしかないが、先人の叡智を引き継ぎながらちょっとでも前に進んでいきたいものである。
余談だが、藝大の須永先生は、1995年スタンフォード大で在外研究した際、ちょうど同じ時期に在外研究で留守にすることになったファステ教授の研究室を1年間まるまる貸してもらって研究していた・・・という嘘のような本当の話。須永先生の論文にはファステの部屋のスケッチがでてくる。