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みえないものを、みる視点。

「情報デザイン」という言葉の説明

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DMM社のジャングルのようなオフィスにて収録された,デザイナー源賢司さんとの対談がDMMのオウンドメディアに掲載された.

inside.dmm.com

こうやってさらっと読める記事になってしまっては見えないことだけれども,僕にとっては記事になる前の対談の体験と比較できるのでなかなか興味深い.あちこちに飛びまくった当日の話が(スミマセン),ひとまとまりの流れをもった会話へと再構成され,それでいて部外者にもわかるような言葉使いになっている.質の高いプロフェッショナルな仕事ぶりを見させて頂いた.

 

それにしてもまったく,冒頭の「情報デザイン」の言葉の説明はなんど経験しても難しいものだ.

上平:情報デザインをひと言で説明するのは難しいのですが、言葉が生まれた経緯は説明できます。90年代ぐらいからコンピュータが一般の人々の生活に入って来るようになり、webサイトをはじめ、いろんな新しいメディアが生まれました。その中で『プロダクト』や『グラフィック』という言葉では扱えない、新しいデザイン領域が注目されるようになりました。当時はまだITも草創期で未分化だったし、一部の人以外みんなよく分かっていなかったので、それを全部ひっくるめて『情報』のデザインとして扱ったわけです。そのため、何を指すのか解釈が曖昧になっているという事情があります。

 

と簡単に説明したが,当時はインターネットもまだ本当に発展途上だったし,この言葉が生まれた頃とはもう状況が変わりすぎている.2000年頃の情報デザインには,UX,UI,IA(情報アーキテクチャ),コミュニティデザイン,wayfinding(案内・誘導),インストラクション(説明),マニュアルライティング,編集術,インフォグラフィックス,データビジュアライゼーション,グラレコetc,今ではそれぞれ名前が付いているものが全部含まれていたように思う.一言で言うならば過渡期の言葉だったのだ.それをいま簡単な説明で収拾つけられるわけがないし,説明されてもみんなピンと来ないのは当たり前でもある.

ちなみに,その後広く普及したUser Experience(UX)は情報デザイン分野でも草創期から重要視されていて,2000年頃には相次いで重要な書籍が出ている.

・Nathan Shedroffの「experience design」は2001年

・J.J.GarettのThe Element of User Expericeceの図は2000年

渡辺保史「情報デザイン入門」2001年

したがってインタラクティブな情報メディアのデザインを行う場合には,自分がつくる対象だけではなく,それを使うユーザの「使う」という経験まで含めた「かたち」を頭に描いておくことが欠かせないことになる.
—情報デザイン入門P52

 

 その後20年ほど経過し,情報デザインはたくさんの言葉へと枝分かれして普及していった.UIやUXはIT企業やメーカーなどが先導して新しい専門領域として急速に業務に取り入られて今に繋がっている.その一方で,ビジネスにつながりにくいパブリックなデザインや教育の分野は動きが遅かった.そして新しく参入する人もそれほど増えなかった.僕が渡辺さんの遺稿「Designing Ours 自分たち事のデザイン」を出版することに燃えたのは,ビジネスではない方の枝にかろうじて実ろうとしていた,貴重な成果物(となるはずのもの)だったからに他ならない.

 

そんなわけで「情報デザイン」という言葉を蘇らせるのであれば,新しい解釈が必要だ.特に教育の場向けの基本や原理を考えるために,である.記事の中で書いた「分解」「再構成」,そして「態度」というあたりは,ひとつの指針となるかもしれないと思っている.

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2001年のデザイン学会オーガナイズド・セッションのリアルタイムドキュメンテーションを後日整理し直したポスター(おそらく原田先生のお仕事)