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みえないものを、みる視点。

単著『コ・デザイン―デザインすることをみんなの手に』を上梓しました

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12/21に、NTT出版から『コ・デザイン―デザインすることをみんなの手に』を上梓しました。3月頃にはほぼ書き終えたものの、いろいろあって時間が経ってしまいましたが、お陰様でなんとか無事に書店で販売されています。

 

"コ・デザイン"とは耳慣れない言葉だと思います。コ(Co)とは、「ともに」や「協働して行う」という意味で、簡単に言えば、デザイナーや専門家と言った限られた人々だけでデザインするのではなく、実際の利用者や利害関係者たちとプロジェクトのなかで 積極的にかかわりながらデザインしていくアプローチのことです。

 

・・・と、こんな風に説明すればまあ普通のデザインの解説書に見えるのですが、この情報の多い時代、わざわざ本にする意味を考えなくてはならない。そんなわけで、いろんな仕掛けが埋め込まれています。

 

4つのポイント

1)ほのぼのした装丁とタイトルで、手触りとともに読む愉悦があります。一般的にデザインの本の表紙を考える場合、関西でいうところの「シュッ」としたものに寄せがちですが、僕はこの本において、そうではない方向性、つまりカッコよくはなく目立ちもしないけど、実は大事なデザインのあり方を意識して文章を書いていたのです。明確には書いてなかったと思いますが、そんな僕のメッセージをデザイナーの上坊菜々子さんが見事にすくいあげ、かたちに落とし込んでくださいました。画像だけみたらピンとこないと思いますが、実際に本を持ち、ページをめくってみると、ハトロン紙(クラフト紙)の手触りがデジタルにはない自然な温かみを感じさせます。白い帯も、わざわざ白インクで印刷されています。著者の僕ですら、最初からこの存在としてあった気がするほどフィットしているように思います。

 

2)こういった取り組みで見落とされがちなのが、参加する人々、つまり専門家ではない側の視点。しばしばデザイナーは「巻き込む」と言いますが、巻き込まれる側は迷惑ですね。そういう台風みたいな強引さで近づけるのではなく、ちゃんと自分の意思で関与する必要性を理解できるような言い方をしなければなりません。そこで、専門家側と非専門家側の両方の視点に立って、それぞれが自分の視点から楽しく読めるようにまとめました。スルスルと読めるように易しく書いていますが、双方ともに「ドキリ」とさせられ、冷や汗がでてくるはずです。コンテンツはほのぼのしていません。おなじ文章の中でも、別々の方向から解釈が交わることで、新しい対話を生むでしょう。

 

3)そして、コ・デザインを説明するだけでなく、そこから「いっしょにデザインする」ことの意味を巡って議論を展開しています(それが主題です)。デザインを批判したり、ヒトが協働する基盤を数百万年遡って探ったり、民主政治の議論に踏み込んだり、「みんな」とは実は人間だけを指していなかったり・・・。目指したのは、寺田寅彦「茶わんの湯」(1922)。何の変哲もない一杯の茶碗の観察を起点に、どんどんスケールアップしていき地球上空から見た気候現象の視点まで到達する、読者をクラクラさせる名随筆です。文豪にはとても敵うわけはないですが、当たり前のものから、いつのまにか世界の見え方が切り替わっていくような感覚は、読んだ人にはなんとなく影響が感じられると思います。

 

4)タイトルでよく誤解されるのですが、単なる協働や共創のススメを説きたかったわけではありません(本文でもしつこく書いています)。どう考えても、これからは厳しい時代です。そんな中でわたしたちは生きていくための可能性を、様々な方向から考えなくてはなりません。困難な状況の中で新しい活動を起こそうともがく人々が一筋の希望を見いだせるように、迷う一歩を少しでも力づけられるようにと願って書きました。なので、デザイン解説書に見えて、実は思想書です。一般的なデザイン論におさめようと思って書いた内容ではありません。

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さっそくの反響

出版されたばかりなのに、早くも読んでくださった方にレビューして頂いています。

ありがたいことです。読むのを迷っておられる方は参考までに、ということで引用致します。

上平先生のこちらの本、本当に素晴らしい本だと思いました。穏やかでありながら、力強くデザインの未来を考える本でした。

まず、自己批判的であること。デザインを推奨する本でありながら、デザインを批判している。これができるデザイナーは実は少ない。デザインに向き合うこの態度が誠実だと感じました。

そして、学際的であるにもかかわらず、読みやすいこと。参照する分野が多岐にわたり、イリイチフルッサーなどにも言及しているにもかかわらず、やさしい文体で読みやすい。読む人の視野をいつの間にか広げてくれると思いました。

一見ゆるそうに見えて、なんとなく手に取るとどんどん深みに入っていく。読む人を引きずり込む罠のような(褒めてます)本でした。多くのデザイナーに読んでもらいたい一冊です。

Fumiya Yamamoto on Twitter: "上平先生のこちらの本、本当に素晴らしい本だと思いました。穏やかでありながら、力強くデザインの未来を考える本でした。 | コ・デザイン —デザインすることをみんなの手に https://t.co/3SU4FcT3NF"

 

そこを何とか、ある程度の素養をもつ人たちが峠越えのための説得に回って欲しい、願わくば行動して欲しいとの願いで書いたのであろう本が、『コ・デザイン —デザインすることをみんなの手に』だと思います。

<中略>

 上平さんは、コ・デザインに似た言葉としてみられやすい「コ・クリエーション」「インクルーシブデザイン」との違いを丁寧に説明しています。彼が概念の成り立ちの背景や周辺事情にとてもセンシティブなところに好感がもてます。学者としての姿勢もさることながら、この輪郭と深みをしっかりと説明することで、読者がここを起点として次が考えやすくなっています。

note.com

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試し読み

NTT出版のnoteで、本書の「まえがき」が公開されていますので、試し読みできます。

note.com

あと、CULTIBASEでの全5回の連載も、実は本書の原稿から編集さんが切り出して再構成したものです。まえがき/3章/5章の一部が掲載されています(無料ですが、要会員登録)

 

cultibase.jp

 

 

というわけで、関心を持たれた方、どうぞご一読していただけますと幸いです。

いくつかネタがあるので、執筆裏話も書いてみようと思います。

https://www.amazon.co.jp/dp/4757123841/