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みえないものを、みる視点。

2020年以降,高校で情報デザインが必修へ

先日聞いて衝撃を受けた話.

2020年に改訂される予定の次期学習指導要領では,小学生からプログラミング的思考の学習が始まるということは割と知られているが.高校生への「情報」科目も大幅刷新される見通しだそう.2016年末に中央教育審議会が提出した「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」によると,

 

新しい情報科目は,情報Ⅰ(仮称)と情報Ⅱ(仮称)の二つになると記されている.

・共通必履修科目として「情報Ⅰ」(おそらく1年生配当)

・選択科目として「情報Ⅱ」(おそらく2年生配当)

とのことで,項目の構成案に,なんと「(2)コミュニケーションと情報デザイン」が4つの柱の一つとして明記されている.

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2単位ということで50分授業を35回×2の70回.単純計算して17回程度はこの項目に割り当てられるということになる.詳細には,

情報デザインに配慮した的確なコミュニケーションの力を育む。
ⅰ)情報とメディアの特徴、情報のディジタル化、情報デザインのルール(ユーザビリティアクセシビリティなど)、情報の信頼性や信憑性、著作権などへの配慮、情報化によるコミュニケーションの変化
ⅱ)情報デザインを適切かつ効果的に適用してコミュニケーションする力
ⅲ)情報を吟味しその価値を見極めていこうとする態度、情報モラルなどに配慮し情報社会に主体的に参画しようとする態度

 

Q:「学校や部活動を紹介するWebページを作ることを通して、見やすく、使いやすく、内容が的確に伝わるWebページとはどのようなものかを考えてみよう。」その際、情報を整理しルールに従ってデザインすることの有用性を実感するようにする。

 となっており,わりと狭義に「情報デザイン」という言葉を使っていることがわかる.情報デザインと言う領域は立ち上がって20年ほど経過し,細分化を経て最近では積極的に啓蒙する人も減ってしまったが,上述されているような「伝えることの基本」を学ぶことの意義は今でも十分に大きいと言えるし,この項目が普通科において必修の内容になるということは,非常にインパクトは大きい.普通科の1年生は日本全国でおよそ80万人.その数の生徒達が授業でデザインを学ぶ時代になるということだ,

 

そして発展的な「情報Ⅱ」の方では,最後の課題研究に注目.

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「問題の発見,解決に取り組み,新たな価値を創造する」とまで記されている.このプロセスはむしろ情報Ⅰの項目「コミュニケーションと情報デザイン」よりも本質的にデザインを意味していると言えるだろう.

 

当該文書では,

情報Ⅰ(仮称)及び情報Ⅱ(仮称)の(1)~(4)における学習を総合し深化させ、問題の発見・解決に取り組み、新たな価値を創造する。
※ 独立した項目として位置付けるか等は引き続き検討する

 となっているからまだ決定されたわけではないようだが,なかなか挑戦的なことで良いことじゃないか.新しい学習指導要領においては,しばしば議論されているように「問題解決だけじゃなくて問題発見も!」とか「マイナスをつぶすだけでなく新しい価値をつくりだすこと!」など,今後の時代において重みを増していくだろう学習の観点についてはなんとか反映しようと試みているようだ.

 

掲載されている「学習の過程のイメージ図」もなかなか興味深い.

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「協働での意見の整理」とか「学んだことを活かして情報社会に参画・寄与しようとする態度」とか,「かならずしも一方通行の流れではない」とか.日頃我々が感じている課題感が的確に整理して言及されているように思う.

 

また,この改革を議論している教育課程部会情報ワーキンググループ委員の小原先生の記事では,入試との関連まで.

今後、情報系の大学入試で情報の入試科目が増えてくる可能性がありますが、その場合、出題範囲が「情報I(仮称)」までということは考えられませんので、「情報II(仮称)」は当然、大学入試で出題される範囲となる科目となるでしょう。つまり、いわゆる「進学校」と呼ばれる学校の多くは、この「情報II(仮称)」の内容を、授業として教えることが求められるのです。

 

ICTE情報教育セミナーみなとみらい講演
次期学習指導要領で教科「情報」は、どう変わろうとしているのか

 情報はすでに一部大学・学部では入試科目になっているが,こういった学習内容の改訂は当然試験の内容にも影響してくるわけで,つまり一部の設問はデザイン領域から出題されるようにもなるということだ.いったいどんな問題になるんだろう.

 

というわけで,2020年の改訂内容は個人的に大きなニュースなのだが,僕はデザインを高校で教えること自体には以前から前向きに捉えている方である.文章表現の学びが文芸作家やライターだけのものではないように,デザインを学ぶことは,決してデザイナーだけのものではない.だから,デザインが必修になること自体に冒頭で書いたような「衝撃」を受けたわけではない.

 

以下は,高校の情報科を担当されている某先生との先日のやりとり.

「この改訂に,情報の先生方は対応できているのでしょうか?」

「まだこれからですね.子供達へのプログラミング的思考力(Computational Thinking)はいろんな業者や研究者も参入して何を学ぶべきか,どんな教材が必要かなどの議論が活発に行われていますが,デザイン領域ではまだ動き出している人は少ない.これから必要になると認識しています.でも問題はそれ以前です」

「えっ」

「情報の先生自体が少ないのです.例えば神奈川県の県立高校150校のうち情報の専門の先生が専任で在籍しているのは2,3割で,あとの高校は臨時の講師や他科目との兼任で凌いでいるのが現状です」

 「うっ」

「それでも首都圏はまだいいほうで,地方では情報科の採用自体がほとんどありません」

「(絶句)」

 

情報の教員になりたくても採用枠が無くてなれない,というのは僕も情報学部教員なので長年の課題として知ってはいたが,ここに来て初めてリアリティを突きつけられた感じだ.人事に関する問題は学習指導要領よりも動きが悪く,すぐには変えることは難しい.どうするんだろう.でも考えてみると,これは決してそれぞれの高校に責任があるわけではなくて,もっと根本的な問題である.国はSociety 5.0を提唱するならば同時に対応しなければならないことがあるんじゃないか.

 

みんながデザインを学ぶ時代になって,せっかくなら「この分野は面白い」と将来の得意分野につながるきっかけになってほしいな,と思っていたが・・・・デザインが高校の教卓に辿り着くまでには,どうやら2重の壁があることを知った.情報科を熱意を持って先導している先生方が多くいらっしゃることには大きな希望だが,専門外の先生方まで関わらざるを得ない状況だとすると,なかなか道は険しいようだ.