(岡本太郎美術館の2017年度教育普及記録集に寄稿したエッセイを転載)
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一見マイナスな物事を、別の視点から見ることで価値を生み出せないだろうか? 専修大学上平研究室では、学生たちとそんなデザインの実験をしています。昨年度の学生だったOさんが挑戦したのは、外来植物を使って自作のロールペンケースを作るというワークショップ。春から準備を進め、ある秋の休日の日に実施されました。
まず、生田緑地運営協働事業体さんの協力で、緑地内に自生しているセイタカアワダチソウやブタクサらを採取します。採取した素材をもとに、岡本太郎美術館さんのアトリエに運び、子供達と一緒に布地の草木染めを行いました。草木染めの方法は私もOさんもほとんど知りません。事前に日本民家園の方に色々と教えて頂きました。
次に、その自然の染料で染められた布の上に、樹脂顔料を使ってTAROの作品にインスパイアされた自分の表現を行います。そうして素敵なロールペンケースが出来上がりました。子供達が行ったデザインには、巻いていくと太陽の塔らしき顔が並んで見えるようになる、という形態の特徴を活かしたユニークなものもありました。
自分で作り進めたものには、販売された商品には無い特別なストーリーが加わります。ペンケースは持ち運べますので、ちょっとした自慢としてその背景を語ることができます。子供達は植物の生態系とTAROのアートについて学ぶとともに、それらを実際に生活の中で利活用することができる、というわけです。
ささやかな取り組みでしたが、このワークショップにおいて、厄介者の外来植物達をストーリーを持ったモノへと変化させることができたように思います。
よく考えてみれば、植物はただ持ち込まれた先で生きているだけであって、「厄介者」とは人間の立場から見た呼称にすぎません。しかし、その外来植物によって緑地にある4つの組織は繋がることができました。我々は徒歩10分圏内のご近所さん同士でありながら、普段はなかなか接点はないのですが、彼ら(外来植物)が、普段出会わない人間同士が協働する機会をもたらしてくれたわけです。
そこには新たな価値が生まれていると言えます。何が「良く」て何が「悪い」になっていくのかは、主語の捉え方次第、さらに我々の取り組み次第で変わっていくわけです。決して事前に決まっているものではありません。このワークショップを通して、美術館を包んでいる静かな自然は、私たちにそんなことを教えてくれたように思います。