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みえないものを、みる視点。

街全体でデザインのエコシステムをつくる:南デンマーク大学とコリング市再訪

デザインリサーチ デザイン教育

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24日(月)、コリングにある南デンマーク大学のコリングキャンパスを訪問。ここで准教授をしている友人のRobbが案内してくれた。先日訪問したデザインスクール・コリング(過去記事はこちら)のすぐ隣で、お互いに刺激し合っているらしい。キャンパスは外観からしてとんでもなく気合入っているが、この開閉式の扉は、季節ごとの日光と風を取り入れるためだそうで、ビジュアルと機能性を両立させたデザインである。

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そして建物の内部に入ると、吹き抜けはなお凄い。ITUとおなじへニングラーセンによる建築である。新学期始まってないので、学生はまだ少なく、シーンとしている。

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建物は上から見ると三角形をしていて、内部の階段や部屋も主要なところは三角で統一されている。なんで三角形なの、と聞いたら、三つの組織が統合されて出来たとか、キャンパスが三つの島にまたがっているとか、いろんな理由があるようだ。この建物はわりと最近できたようだけど、造るときにコンセプトを造形に反映させるという指針をきっちりと示したのだろう。

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テーブルもミーティングスペースの形も三角形w

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そして学生向けのキャンパスマガジンまで三角形している。ここまで来るともう幾何形体を大学のアイデンティティとして運用していることがわかるね。

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そして書体もピクトグラムもかわいい。

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Robbたちのオフィス。Department of Design and Communicationというところで、デザインから観光、情報科学まで結構幅広い領域を対象としてる。ちなみに目の前にデザインスクールがあって、両方ともパブリックな学校なのになんで別々にデザインやっているのか、と聞くと、そもそもはルーツが全く違う、とのこと。向こうはもともと工芸学校で職人やアーティスト養成(ロンドンもそうだが、もともとアートスクールは大学ではない)で、こっちはアカデミック、だが時代の変化で似たことを取り組んでいるし、今はコリングの街をフィールドにして共闘体制にある(意訳)というようなことを説明してくれた。実際、両校のいくつかのプロジェクトは合同でやっているし、博士課程は一部共同で運営している。

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彼のオフィスで見たグラレコ。やっぱりここでもグラフィックレコーディングのカルチャーは普及していて、Robbが話したことを教え子の学生が図解したものだという。こんな感じで何枚か彼の語りが記録されていた。

図からわかるが彼はソーシャルインタラクションの研究者で、「君とRobbは考えていること似ていると思うよ」と知り合いが紹介してくれたのだが、たしかにな。彼のアクティビティと議論は刺激的だった。負けてられん。

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お昼時にちょうどアメリカ人のコンサルのゲストトークがあったので混じる。アメリカのコンサルは概念化やモデルづくりが上手いなぁ、と適当な感想で済ますが、こういうゆるいディスカッションは面白い。

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キレイなキャンパスのすぐ近くにある学生達の工房。

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こういうちょっと古くて開放的な建物の方が制作には向くというのはどこの国でも同じなようで。内部は学生達の進行中のプロジェクトや工房でエネルギーに溢れている。ここは仮の場らしいが、はこだて未来大の秘密基地とつながる匂いがして羨ましい。

 

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さて、コリング市はデザインスクールと南デンマーク大(に加えてビジネススクールInternational Business Academyもある)という良質の教育機関を抱えており、街全体で戦略的にデザインに取り組んでいていることは先日の訪問の記事でも書いた通りだが、帰りに図書館で市のパンフもらって、市が中心になって積極的な政策を行い、情報発信もしていることを知った。

 

コリング市のデザイン政策。

www.kolding.dk

市民への「デザインとは何か」の解説から、取り組み例まで詳細に掲載されている。事務局によるデザインコンサルティングから、なんとデザイン思考ツールの配布まで。

 

 コリングのデザインコミュニティ解説。(※Preziのアニメは酔いますのでご注意)

 「知識・教育」、「ビジネス・政治」、「場所・空間」、「人々、文化」の4つのエリアを設け、それらをデザインという軸で相互に関係づけながら包括的に育成しているという。うーむ・・・デザインのコミュニティとして理想的なぐらいによく出来ている。なにこの密度の高さ。

 

そして、ネットで調べていたところ、いくつか興味深い記事を発見。南デンマーク大のGuy Julier先生が書いた論考では、都市再生に賭けるコリング市のデザイン政策と、それができていくプロセスが詳しくまとめられている。

www.yss.fi

The small Danish city of Kolding provides a compelling test-bed for their development. The project to put design at the heart of its entrepreneurship, education and social innovation activities moves it from being an end of policy to being the means through which these three civic aims are progressed. This process-orientation requires a particular temporal regime. Rather than being seen as a ‘deliverable’ within frameworks bound by policy cycles, design is an on-going and iterative process.

 街全体で、起業、教育、ソーシャルイノベーションの実証実験を行っている。出来上がったものをデリバリーするのではなく、継続と反復のプロセス。

Later, all citizens of Kolding Municipality were invited to a huge community meeting, called Vision Forum, to give their input. Using Facebook, local media and networks built over the process, people received a simple message: We design Kolding. On a cold and windy November evening, 650 citizens participated in Vision Forum – the largest community meeting in Kolding’s recorded history.

 

市民全体を巻き込んで大規模なフォーラム(※写真見る限りこれはワークショップだ)を実施。Facebookやローカルメディアを使って告知、集客し、市民の共創によって市の将来ビジョンを創り上げた、という。

 

In Kolding’s pre- and primary school system, design and innovation are integrated in the curriculum under the headline ‘Design From Diapers To Doctorate’, making design an aptitude in line with skills like reading and writing.

 コリング市はプリスクール(小学校入学のための事前教育で、日本で言えば幼稚園)から読み書き能力のようにデザイン&イノベーション教育している。マジか。標語は「おむつから博士号まで」w。

 

We Create A Better City Life. The City Life Strategy has been created together with students, local businesses, architects and other citizens, but more importantly, it is being partly implemented through civic processes, where the role of the municipality becomes that of facilitator of design thinking processes, and the participants are active in realising their input and ideas.

 市が多様な参加者を活性化させるためのデザイン思考のファシリテータ役を担っている。

 

この論考を読んで、先日デザインスクールで受けた衝撃の謎がちょっと解けた。 まず街全体がデザイン主導で都市再生に挑戦しており、デザインスクールはその一機関として取り組んでいる、ということで、あのハイレベルな産官学連携は学校の教員の力だけで進められているわけではないのだ。

 

こういった街全体で行う組織的な取り組みはデンマークでもコペンハーゲンぐらい大きくなるとなかなか難しいことだと思われるが、コリングのような小さな市(人口:5万7千人)だからこそコンパクトな規模でトライできるのだろう。

 

コリング市が上記のようなデザイン政策を実施し始めてまだ3年も立ってない。だが、それが徐々に軌道に乗り、エコシステムが形成されている気配はデザインスクールと南デンマーク大のプロジェクトからも強く感じることができる。

"革命は常に辺境から起こる"、という有名な言葉があるが、この小さな街において、本気の自治体の取り組みを見た気がする。