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みえないものを、みる視点。

【前編】デザインはプロセス?:SanseSlottetデザイン幼稚園訪問記

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9月30日(水)、存在を知ってからというもの、ずっと行ってみたかったコリング市のデザイン幼稚園を見学してきた。コリング市の中心部からさらにバスに20分ほど揺られて到着。結構な郊外に忽然とモダンな建築が建っている。代表のMarianneが応対してくれた。この訪問記は自分の研究的にも大きな意味を感じるので、2回に分けて書いてみようと思う。

 

この幼稚園は、デイケア併設の統合型で、0-2歳児が24名。3-6歳児が84名が在籍している。それほど規模が大きいわけではない。

 

幼児に対する造形教育の重要性はよく知られている話である。造形教育に力を入れている幼稚園はそれほど珍しくはなく、古くからヨーロッパでも日本でもいろんな素晴らしい取り組みが行われている。が、「デザイン」を謳うのはとても珍しい。デザインが盛んなデンマークでもここだけだろう。ここの幼稚園では一体どういうステートメントでデザインに着目しているのだろうか、とても関心を持っていた。挨拶もそうそうにそんなことをMarianneに聞いてみたら、彼女は「良い質問ね、わたしたちは、デザインは色や形の造形ではなくて、"プロセス"と捉えているわ」と答えてくれた。ふむ、実にツボな話だが、ではそれをどう学びの場の中で実施しているのか、と施設の中を案内してもらった・・・。

 

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手始めに、0-2歳の施設へ。入り口付近に設置された、Yes!&Try itの部屋。ここでは、必ず「Yes!」といわなきゃいけない、というルールがあるという。スタッフが何かを問い掛け、それに対して子どもはYesと肯定した上で、じゃあやってみよう!と考えてみるトレーニングをするんだそうだ。「何よりも大事なのは、物事をポジティブに捉え、挑戦してみるマインドセットね」とMarianne。なるほど、元ネタはImprovisationのYes&Yeahかと聞いてみたら、そうそう、とのこと。ゼロ歳からインプロ!

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 マインドセットを変える部屋から奥にいくつかの部屋にわかれている。壁にはこどもたちの写真とその横に彼らの絵が。絵からもわかるが、みんな好き勝手に書いていると言うよりも、やっぱりある程度制限した造形要素をもうけた練習から入っているようだ。学生時代に習ったが、ドイツもそうらしい。

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こどもたちがやっていた、あるワーク。ビニールを貼りあわせた中に、絵の具の3原色を数カ所にしこみ、みんな指をつかって丁寧に根気強く延ばしていく。

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これは何を狙っているのか、と思ったら、混色を経験的に学んでいるんだそうだ。黄色と青が合流したところは緑になることに気付き、「じゃあ赤と青は?」「緑と赤は?」と先生が問いかけていく。子どもは自分で仮説を立てて実験し、何色になるかを検証していく。なるほど。

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さらにそれを窓に貼って透かして見る。光を透過すると見え方が違ってくることを知る。

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 さらにそれに指をつかってドローイングできることを見出し、こんどはスクラッチでどんどん描いていく。彼女らはこの窓の逆側から映ってみたり、透過した光が室内の壁にうつるところまで展開して遊んでいた。ひとつひとつの経験をバラバラに扱わないで、発生した現象から連結して考えることを促しているのがとても素晴らしい。日本でもフィンガーペイントは小学校低学年の図工でも扱っているが、もっと深められる余地がありそうだ。

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園庭に出てみる。芝生を刈ったばかりのようでちょっと枯れているが、とても開放的かつ安全な空間で、これは素晴らしい。遠くでなにやら焚き火しているようだが・・・・。

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近くに行ってみたら、こどもたちが泥だんごをつくっていた。懐かしいw 僕も小さい頃に兄貴といっしょによく作ったぞ。

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で、なんとこの焚き火は、ただ何かを燃やしているわけではなかった。なんと泥だんごを焼いてみることで、硬度が増し、違う材質になるということを遊びの中で試していたのだ。セラミック、って単語で僕に説明していたから、粘土が陶器になるってことを経験的に理解する機会を作っているのだと思う。

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音楽の部屋。バケツのような物は打楽器にして遊ぶらしい。

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ここではコスチュームを用意。

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こちらは女の子用。たしかに音楽はパフォーマンスでもあり、コスチュームも大事な要素だ。「何かになりきる」経験を大事にしていることがわかる。

 

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離れとしてつくられている小さな工房もあった。危ないからと、親があまり使わせたくないような工具も、こどもたちがいつでも手が届く高さに置かれている。

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壁に貼ってあった活動の様子。なにをつくるか発想する→アイデアを決める→計測する→失敗!→接着してしばらく待つ→叩いたらどんな音がする?→押さえるための協力が必要→着色する(デンマーク語を適当に翻訳)

凄い、適当にブリコラージュするのではなくて、ちゃんと段階分けながら作っている(汗)失敗することの大事さや協力体制などの試行錯誤をちゃんと内包して考えられているのが素晴らしい。

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4歳〜5歳児でも結構なレベルの物を自作しているよう。

f:id:peru:20151008085411j:plainグダグダする部屋(?)には、地元デンマーク産のボブルスのタンブリングファニチャーがたくさん置かれている。ボブルスは、集合住宅で騒音を出さず、かつ子どもの創造性や運動能力を高めるために作られたそうで、デンマークではどこでも見かけるが、こういう部屋でいろんな動きをしてみることで生きてくるプロダクトである。

 

デンマーク発祥「遊べる知育家具」を開発する会社「bobles(ボブルス)」 | コペンライフ−Copenlife

 

というわけで、こんな感じで、いくつかの施設とこどもたちの様子を午前中まるまる観察させてもらうことができたことで、Marianneの捉えている「プロセス」の意味が段々分かってきた。

 

それは、決して人間中心設計プロセスのように実務で使うような意味ではなくて、自分と外界との関わり方を、多様なもの作り経験を通して"変容させ続けていく過程"なのだろう、と解釈した。すなわち、それはゴールを決めて効果的に終えるためのプロセスではなく、子ども達自身による好奇心やアクティビティでいくらでも繋がっていくオープンエンドなプロセスということである。それを駆動させるものとしてマインドセットの育成があり、活動を通してこどもたちの中にある自信(創造に対する自信)を形成させている、ということなんだろう。

 

ところで、僕は幼児の創造性教育については、小さい子を持つの親として関心はあるが、それを目的にここに見学に来たわけではない。この幼稚園の見学を熱望していたのは、別の意味での僕の"カン"である。あのコリング市のデザイン政策の一環として作られ、本当の意味でのデザインを考えているのならば、決して子どもたちへのデザイン教育だけではなくて、多様なステークホルダーを含めた実験の場となっており、コミュニティとして展開しているはずだ、と。

 

(と含みを持たせておいて)続く。後編は以下のリンクから。

 

kmhr.hatenablog.com