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みえないものを、みる視点。

我が家にニッセがやってきた:北欧式クリスマス体験

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12月17日の夜. こどもたちの幼稚園のイベントとして,「ニッセ」という人形が家にやってきた.

1)ニッセという北欧独自の妖精の人形が,2)毎晩,もちまわりで各家庭を周る,3)それぞれの家でニッセと子供が過ごした一晩の経験を,4)親がドキュメントし,翌日の朝までにファイルに付け加えて次の当番に渡していく,というもの.

 

僕も詳細はよくわかってないが,「ニッセ」とは北欧で愛されているサンタクロースのアシスタントらしく.それぞれのこどもたちの家を回る,というのはデンマークの幼稚園ではどこでも恒例行事のようだ.

ニッセは、姿を消したり、動物に変身する力をもっており、人の目では見ることができない。人間の姿をしているときは、身長はだいたい10~11歳の子ども程度で、老け顔でヒゲを生やしているらしい。そして、老けているわりには、強く、動きが機敏で、すばしこいのだそうだ。また、ニッセは、普段は家の納屋や馬小屋に住んで、家畜の世話などをして住人を支えている。だが、家の住人がニッセの面倒をきちんとみなければ、ニッセは小さないたずらを始め、時には、大きな災いも起こすといわれる。その昔、北欧の人びとは、何か奇妙なことが起こると「ニッセの仕業だ」と言っていたらしい。

北欧のクリスマスの主人公はサンタクロースじゃない!? - Excite Bit コネタ(1/2)

 

幼稚園からやってきた手作りのニッセ人形は失礼ながらとてもボロ・・・いや年期が入っており,長生きしていることがよく分かる.そしてファイリングはとても分厚くて,毎晩各家庭で歓迎されている様子が詳細にレポートされている.コミュニティをつなぐ装置であり,ストーリーテリングでもある,といえそうで,デザインの面からみてもとても興味深い.

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うちでは「日本人の家にやってきたよ」という一人称のストーリーを妻がつくって,ニッセに一緒に楽しんでもらった.ドキュメントするのは難易度が高いが,英語でも可ということで,僕が写真撮ってレイアウトして,妻が文章を書くというコラボレーションでなんとか翌朝に間に合った.(グラフィックデザインのスキルに助けられた・・・)

 

ところで,地域のみんなで持ち回る,という説明を聞いて,僕はなんだか「隠れ念仏」に似たもの感じた.薩摩藩は浄土真宗を厳しく弾圧したため,信者達が信仰を守るために密かに行っていたもので,各家庭では仏壇を持たず,大型のものを"講"と呼ばれるネットワークの中で1年ごとに順番に(こっそりと)回していく,関係者は(こっそりと)その家に集まって拝む,という風習である.にわかには信じられない話だが,旧薩摩藩地域である僕の実家周辺ではこの風習は江戸初期からずっと引き継がれてきていて,数年前に母からついにみんなで燃やした,という話しを聞いたぐらいだから,おそらく今でもどこかの地域では続けられていると思う.

ニッセと隠れ念仏はまったく文脈は異なるが,コミュニティの中で共有している宗教的な存在を形象化したものをそれぞれの家庭に迎えることで,日常を非日常に変える装置としての役割をもっていること,訪問や閲覧といったソーシャルなインタラクションを通してネットワークの強化に寄与していること,は共通していると言える.

 

こんな地域独特の風習には,エスノグラファーでもそんな簡単には立ち会えないだろう.こどもたちのお陰で,現地のみなさんとひと味違うクリスマスの楽しみ方に加われるのは嬉しいことだ.