Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

北欧でCoDesignを学ぶには

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先日,ブログを読んでいただいている方からお便りを頂いた.

最近はブログのようなオープンな場で情報を公開することが下火になっていることもあり,日本語で読める留学関連の生の情報は多くないと思う.というわけで他にもそういうことに関心がある人がいると想定して,そのままお返事するのではなく,ちゃっかりブログのコンテンツにしてしまおうという作戦である.

 

 

質問は二つあったので,まず第一弾.

「(北欧で)実践的にCo-Designを学べるコース・教育機関について」

Co-Designや参加型デザインはデザインアプローチであって,サービスとかプロダクトとかのアウトプットを指しているわけではありません.そういうわけで純粋に学べるところは限られていますが,関連在りそうな教育機関をリスト化してみたいと思います.

 

■デザインスクールで学ぶ:

デンマークには伝統的なデザインスクールは3つしかありません.いずれも難関のようですが,日本人も時々在籍している(いた)人を聞くので,それなりに可能性はあるのだと思います.

 

1)王立デザインスクール CoDesign専攻

ここは伝統的な美大カラーが強いところですので,理論も多いCoDesignは特殊な位置づけとして存在していると思います.しかしながら教授のThomasもEvaも第一人者で,学生もあちこちの国から集まっています.

※残念ながらCoDesign専攻はデンマークの国の教育予算削減を受けて2017年夏をもって閉鎖されてしまいました。

 

2)コリングデザインスクール

ユトランド半島のコリングという小さな街にあるデザインスクールです.近年学長のリーダシップのもとでソーシャルイノベーションに力を入れていて,学校全体で社会性のある問題に切り込んでいます.アウトプットがとてもレベル高くて個人的にはとても評価している学校です。

※ここの学校改革で成果を上げた学長のエリザベスが2019年夏で退任したようで、その後同じような路線になるかは不明です。

 

3)オーフス建築スクール Social innovationスタジオ

デンマーク第二の街,オーフスにある建築学校の中にSocial innovationのスタジオがあります.卒業制作展をみる限り、社会性も高くてレベル高いです。

 

 

■大学で学ぶ

デンマークでは9つしか(本当の意味での)大学はないのですが,医科大を除いて全ての大学に参加型デザインにルーツを持つ情報・ビジネス系の専攻があります.これは参加型デザインが学問的に探求されているスカンジナビアの国が持つ独自の文化だと言えるでしょう.下のリストは教育組織ではなく研究組織も混じっていますが,専門の先生がいるということは小さくてもどこかの専攻の中で学べるだろう,ということでまとめました.


4) コペンハーゲン大学 Center for IT innovation
5) オーフス大学  Participatory Information Technology
6) 南デンマーク大学 IT Product Design
7) オールボー大学コペンハーゲン校 Service system design
 オールボー大学 Human Centered Health Informatics & Participation
8) ロスキレ大学 User driven IT innovation
9) デンマーク工科大学 Design&innovation
10) コペンハーゲンIT大学 Interaction design
11) コペンハーゲンビジネススクール Design and Entrepreneurship

 

 

 

■プライベートスクールで学ぶ

世界的に知られている私立の少人数制スクールです.学位がどう扱われるのかが不明ですが,それぞれの分野で教育の質はとても高いですし,築ける人脈は大きいようです.

12) Copenhagen Institute of Interaction Design
13) Kaos Pilot

 

■ユニバーシティカレッジで学ぶ

デンマークの高等教育は2007年に再編されて,UniversityとUniversity Collegeに住み分けされました.Universityはグローバルを意識した研究大学で,University Collegeは専門職大学で地域や専門的な仕事に関わる人材育成の教育を主に行っているようです.11校あるこの教育機関でもデザインを学べるところがあります.

University colleges in Denmark - Wikipedia, the free encyclopedia

 

■フォルケホイスコーレで学ぶ

デンマーク独自の国民学校です.ここも学位がでるわけではないですが,半年ほどの滞在で濃い異文化体験をしたいなら面白い所だと思います.いくつかデザインに特化した学校もあります.

hyggelig-news.com

フォルケホイスコーレ一覧
※タブで選択して目的の学校を探すことが出来ます.

danishfolkhighschools.com

 

 

■その他の国の場合

 スウェーデンでは,

14) Malmo university K3

15) Umeo Institute of Design

16) Göteborg University, School of Design and Crafts

 あたりでしょうか.

 

 オランダでは,

17)Design Academy Eindhoven Social Design

が面白そうです.(kamihira_log記事).

 

他の国の情報は申し訳ありませんが僕もほとんど知りませんので,マスターの学位を出す教育機関を探すポータルサイトを紹介します.(すでにご存じでしたらすみません)1年で修士号を取れるというお得なのは英国以外では少ないようですね.

www.mastersportal.eu

www.findamasters.com

 

 

 さて,ここまでリストアップしたところで,いくつかコメントしたいと思います.

 

◎ここまでまとめるまでは僕もよく分かってませんでしたが,「Co-Design / Participatory Designが学べる」ことと「Social Innovation / Social Designが学べる」ことはけっこう違います.デンマークでは対話カルチャーが根付いているので何を学ぶにおいても社会民主主義の精神は関連してくると思いますが,前者が専門に学べる教育機関はあまり無いようです.ただ濃いところは濃い実践と理論化を行っています.オーフス大のPITからITUに移ってきた僕の同僚は「Participatory Aesthetic(参加の美学)」というものを専門に掲げていてそんなものまであるのかと驚きました.

 

◎そして各学校でプラスの点やマイナスな点もいくつか見聞きしたことがありますが,僕やその人の思い違いであることも多いかもしれませんし,関係者が読んで気持ちいいものではなく,文字にしておくことで公式情報になってしまいそうですのであえて記載してません.

 

◎ちなみに北欧の大学院に,日本みたいな少人数制で教員と濃いやりとりをする,みたいなことを過剰に期待しないほうがよいように思います.マスプロ授業も多いですし,教員との距離も日本ほど近くないことが多いようです.

 

◎CoDesignは基本的に現地の参加者との議論や対話がものすごく大事になってきますので,コミュニケーションの問題がとても大きくなります.英語は日本人には大きなハンデですが,言葉が拙くても例えばさくっと図がかけるとか,いい写真を取れるとか,ビジュアルのスキルがカバーしてくれることも多いですので,流暢に喋るのが難しければそういうスキルを身につけておくと自分の役割を持ちやすいですし,チームに貢献できることも増えるかもしれません.(僕はその作戦を強く意識しました)

 

◎僕はもうデザインの専門分野の知識はだいたい持っていた(?)ので何かカリキュラムにそって授業受けようという気にはなれませんでしたが,上のリストから今の時点で僕が留学することを選ぶとするなら・・・,Malmo大学のK3でしょうか.この答えはかなり主観入っているので参考にはならないと思いますが,ここは僕が知るかぎりフィールドと大学の関係がベストです.Malmoはもともと多国籍な街なのに,昨年積極的に受けいれた難民がかなり深刻な問題になっています.中には9割が移民というとんでもない地区もあるそうで,そういうバラバラな国の人々を繋いで街の共同体をどうつくっていくのかという問題には,街の人々が積極的に取り組んでいる印象を受けますし,そこにはCoDesignの知見が大きく貢献できるでしょう.そんな場所におけるデザインの可能性を見たい,という好奇心が一点,もう一点は,Malmo大学のMEDEAというリサーチグループは参加型デザインの一大拠点でもあって優れたアクティビストが何人も在籍しています.彼らのMalmoでの活動は「Making Future」という本にまとめられていますが,社会と大学が協働してつくりあげている活動は素晴らしいと思います.

impactdesignhub.org

 

◎日本でのネームバリューと面白い学校は必ずしも一致しません.学校と学校のある街をあわせて考えるとちょっと広がりを持ってみえてくるでしょうし,1年間色々なヨーロッパの街を見て回って,大都市よりも小さな街の方が興味深い活動をしているように思いました.

 

まだまだ書き足りない気もしますが,以上で終わります.質問の第二弾は「いわゆる"デザイン"のバックグラウンドがない者ができることには,例えばどんなことがあるのか」については,また時間を見つけて書いてみたいと思います.