Kamihira_log at 5007

みえないものを、みる視点。

2025年のおわりに

仏牙寺鹿王院右京区)にて

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恒例の年末エントリ。なんとか生きてます。今年は転職にともなう環境変化がすべて。大学が変われば見える景色もガラッと変わる。いろんなことをゼロから始める必要があったため、体感的にいつもの倍ほど負荷がかかる日々だった。夏頃には仕事が忙しすぎるのと秋学期のプレッシャーでだいぶ調子悪くなってどうしようと焦ったが、思い切って不義理して仕事をセーブしたこと、学期入ってリズムができたことで少しづつ体調戻ってきた気がする。

 

今年、立命館で取り組んだ演習と講義はぜんぶイチからの作り直しでかなり疲弊したが、どれも学生たちが真剣に取り組んでいるのを見て気が引き締まった。気を抜いている場合でもない、ちゃんとやらなきゃ。自分でも予想できない結果がうまれる取り組みは面白い。

 

研究は、ぼちぼちというところ。例によって今年もそんなに大したことはしていない/できてないけど、まとまって書きたいネタも育ってきたので、来年はもうすこし集中して単著の執筆を頑張りたい。

 

さて春にはいよいよデザイン・アート学部がスタートする。このなにかが始まる前の感覚は、助手として関わった工芸大の新学科の立ち上げの頃(2000年頃)を思い出す。専大(開設4年目で着任)を含めれば、人生で3回目の大学の初期状態を味わえるとは思いもよらなかった。新学部には、われわれの学部の方針に共鳴する元気な新入生たちが集まってくれているようだ。面白いコミュニティになるように、ぼく自身も楽しむ背中を見せていきたい。

 

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2025年の活動
 

1|教育活動

・教養ゼミナール:春学期(全学部1〜4年)「生きている文字」(デジタル工作機械をつかったコンクリート・ポエトリーに挑戦)

・教養ゼミナール:秋学期(全学部1〜4年)「枯れた道具を生き返らせる(かもしれない)ラボ」(すでに時代的役割を終えた古道具に命を吹き込み、道具との関わりを記述するデザイン・エスノグラフィーに挑戦)

・専門演習1:春学期(経営学部3年上平ゼミ)「贈りものとコミュニケーションの謎をとく」(デザイン経営に対して贈与経済の視座からリサーチする)夏には加賀市橋立地区の富豪村をフィールドワーク。

・専門演習2:秋学期(経営学部3年上平ゼミ)「大学生向けの金融サービスをデザインする」(三井住友銀行、㈱はてなとの共同で金融のデザインリサーチ)

・プレゼミ:秋学期(経営学部2年上平ゼミ)「ポップアップカフェからデザインと経営の接点を学ぶ」

文化人類学入門:秋学期(全学部1〜4年)なんと今年は一般教養科目を担当。毎回のレクチャーをもとに、最終課題は全員短いフィールドワークしてエスノグラフィを書く。マスプロなんだけど面白い学生も多くて励みになる。




2|学術
1. 【招待論文】上平崇仁、南部隆一「都市の中の他種とともにデザインする─モア・ザン・ヒューマン,そして相依相関」都市計画373, 都市計画学会  2025/03
2.【紀要論文】石井 健太郎, 栗芝 正臣, 佐藤 慶一, 山下 清美, 上平 崇仁, 飯田 周作「ネットワーク情報学部のラボ活動」専修ネットワーク&インフォメーション33,11-22, 専修大学ネットワーク情報学会, 2025/03
3.【招待論文】富田誠、上平崇仁、福田大年「デザイン教育者の環世界―わたしのゼミの活動構成をリフレクティブ・エッセイで捉える」デザイン学研究特集号 32(1),18-25「環世界のまんなかでデザインする」日本デザイン学会 2025/06
 4.【学会発表】市川千馬、上平崇仁「モノに霊性を見出す装置としてのカプセルトイ―都市生活者が失った価値基準を再発見するには」日本デザイン学会第72回春季研究発表大会, 札幌市立大学2025/06
 5.【学会発表】太田蒼良、上平崇仁「営巣本能の発現に着目した公共空間のプロトタイピング手法」日本デザイン学会第72回春季研究発表大会, 札幌市立大学2025/06


3|書籍
1.【単著】上平崇仁『見えないものをみる視点』Xデザイン出版, 2025
2.【訳書解説】つくりつくられる人間以上の絡まり合い, 『ポストヒューマニズムデザイン―私たちはデザインしているのか?』, ロン・ワッカリー著、森一貴、比嘉夏子、水上優訳、明石書店、2025
3.【報告書冊子】上平崇仁、飯島秀治編「多元世界としての〈水俣〉から、再生のデザインを探索する」デザイン人類学研究会報告書 2025/11
他、3冊出版準備中

 

4|寄稿
1. 「デザイナーの神格化と苦しみ  大出才無『デザイン馬鹿』(1970)を読む:上平崇仁 デザイン古書探訪」#1 Webメディア designig  https://designing.jp/design-archives-studies-01

 

5|特別講演・トークイベントへの出演
1.【講演】「ナラティブと〈ケア〉」ナラティブとアクションリサーチ研究会, オンライン, 2025/01/13
2.【パネルディスカッション】  SXDLab プレトークセッション,オンライン, 2025/02/04
3.【講演】「デザインの代替的性質とは―あたらしい世代のデザイナーたちへ」京都工芸繊維大学大学院修了研究展ゲストトーク 2025/02/15 
4. 【講演】「生活者と仕組みの〈あいだ〉―デザインのオルタナティブを問う探索者たちのために」オンライン, 2025/03/11     
5.【パネルディスカッション】 JAGDAデザイン会議クロージングトークグラフィックデザインの現在・未来 (東京ミッドタウンデザインハブ) 2025/04/13 
6. 【出演】    旅するneo museum vol.46 『見えないものをみる視点』をめぐって ,オンライン,2025/05/25 
7.  【講演・ディスカッション】「存在論的デザインの実践へ」 , 「存在論的デザイン」と「未だないもの」を学ぶ研究会 , 東京都市大学 TCU Shibuya PXU, 2025/06/06 
8. 【講演・ディスカッション】「インディペンデントの愉悦 ー『見えないものをみる視点』の制作から」武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス, 2025/06/13 
9. 【パネルディスカッション】「 未知の輪郭をたぐる」, コミュニケーションスペース amu / 恵比寿, 2025/07/05     
10. 【講演】「教育の場で“ともに”デザインするとは」東京学芸大学附属小金井小学校研修会,     2025/08/25     
11. 【講演・ディスカッション】リビングラボ・トーク 特別編「自らでつくる」を取り戻す 〜コ・デザインの学びを考える〜 (官民共創HUB) 2025/08/17 

12. 【パネルディスカッション】「複数の世界との関係性の再構築 ーSXDの輪郭を探るー」Impact HUB Tokyo, 2025/09/13     
13. 【講義】Xデザイン学校アドバンスコース「贈与論を再考するーデザインと人類学の接点からー」 オンライン,2025/09/14     


6|展示会・イベント・ワークショップ等

1. 【展示会企画】栗芝正臣、星野好晃、上平崇仁他『フィールドミュージアム展2024』  かわさき宙と緑の科学館(2025/1/19)
2.【合宿型ワークショップ】「ナラティブとアクションリサーチ研究会」和歌山県すさみ町(2025/2/21-24, 5/15-17)
3.【作品展示】インスタレーション作品「遠い記憶の色見本」, デザイン・アート✕京町家 , 立命館大学京町家キャンパス(2025/11/08-16)
    
7.その他
阿久根市青果市場跡地事業 プロポーザル審査会(2025/03/25)
・国立研究開発法人科学技術振興機構での有識者ワークショップ参加(2025/11/07)
・デザイン学会秋季大会学生プロポジション運営(2025/11/08)

 

今年見た風景

和歌山県すさみ町。阿久根を思い出すような海の街でした。

 

阿久根のカクテルバーそのだにて。高校時代の親友、勇一のお姉さん夫婦が経営している。高校時代の友人で建築家の志賀くんと、地域おこし協力隊員しおりん(上平研OB)

研究室OBのSくんのお父さんが統括料理長をされているホテルニューオータニのレストランへ。紀尾井町タワーを見下ろす夜景。「シェフを呼んでくれないか」をするという夢が叶いました。

 

JAGDAデザイン会議クロージングトークにて対談した、日本を代表するデザイナー佐藤卓さんと。さすがの方でした。

恵比寿のamuへ行こうと歩いていたら、駅の雑踏で姪にばったり。(というか姪から見つけられた)こんな偶然があるものか。

左京区のギャラリーに来たついでに、当時京大生だった兄が住んでいたアパートの前まで行ってみた。35年ほど前だけど、まだ道もよく覚えている。ぼくも居候させてもらってここから美術予備校の夏期講習に通った、高校生の頃の思い出。まさか京都に住むことになるとは。

 

ライフワークの「遠い記憶の色見本」が、大島先生、剣持さん、今井くんの協力によって京町家の空間を活かしたインスタレーション作品になりました。サンクス!

 

経営学部上平ゼミ夏合宿in 加賀市 

河西さん、三澤さん、ありがとうございました。

 

 

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みなさま2026年もどうぞよろしくお願いします!

 

 

株式会社はてなとの産学連携をはじめました

立命館大学上平研究室では、株式会社はてなとの産学連携として、AIを活用したインタビュー分析SaaS「toitta」を用いた質的調査の方法論、言語処理精度向上のためのプロジェクトを開始しました。

以前のエントリでもお伝えしてきましたように、いよいよ来年度2026年度の春には私の所属する立命館大学デザイン・アート学部/大学院デザイン・アート学研究科がスタートします。上平は大学院の演習科目として「質的デザイン評価法演習」を担当する予定で、修士研究においてリサーチを行う場合の知識といくつかの質的調査の手法に取り組む予定です。質的調査は長年取り組んできた蓄積もあるので、当初はこれまでの知識の延長で運営できるかな、と考えていたのですが、どうやらそんなに悠長にかまえている場合でもないと気づきました。この生成AIによる激動の時代、リサーチの方法も影響を受けないわけがないのです。

夏に京都でデザイン関連のカンファレンスが開催されたとき、ブース出展されていたのがはてな社のtoittaでした。toittaは、これまで手動で行われていた質的調査をAIを用いて自動化してくれるサービスです。

実際に使ってみて、これまで質的調査に取り組む際の大きな負担となっていた概念化の前の下準備(書き起こしと切片化)が、すでにAIで代替されていることを知り、その精度の高さに衝撃を受けました。さらにtoittaは(ある程度の)グルーピングまで自動で実行してしまいます。業務用Saasなので、つかうためには現状それなりのお値段はするわけですが、それはこれまでアルバイトやジュニアがやっていたような仕事=人件費をAIに置き換えるということになるでしょう。いわゆる“たんぽぽワーク”とは言え、目の前で仕事がひとつ消えたことは、 長年IT業界に人材供給してきた身としては、「ヤバいものをみてしまった」という感覚になります。

ja.toitta.com

とくに考えさせられたのが、AIによって自走しはじめたツールをハンドリングするなかで、リサーチャー自身の態度を鏡のように浮かび上がらせていく点です。たとえばインタビューのときにビデオカメラを回すとしましょう。外部記録があるという安心感によって「いまここ」への集中力が上がる場合もあれば、逆にそこで「甘え」がでて集中力が下がる場合もあります。どちらに転ぶかは、その人の仕事への向き合い方ひとつです。AIはビデオカメラよりもさらに際どいバランスへと、ぐいぐい引っ張って行きます。移動手段が徒歩から車に変わるとき、行ける範囲は飛躍的に上がる反面、歩くスピードだったからこそ気づけていた、ささやかな兆候を見失うかもしれません。どんな仕事であってもテクノロジーの導入は、こうした焦点を見失うような変化を起こします。

 

目当てとなるインサイトに到達するのは、熟練したリサーチャーの腕なのか、集合知の権化であるAIなのか、はたまた両者の相互作用があるとするならば、それはどんな姿なのか。さまざまなトレードオフのなかで、改めて人がリサーチする意味を突きつけられているようでもあります。

 

そしてまた、ここまで言語処理が自動化されることは、肝心な概念化に時間をより多く配分できるようになる、という単純な効率化に留まりません。やがてインタビューデータは個別に処理されるのではなく、コーパスとなってデータサイエンスの領域と一体化していくでしょうし、他者(想定ユーザー)をインタビューするだけでなく、当事者自身が内側から記述するような試みにも適用できるということでもあります。質的調査は人力では不可能なスピードと網羅性が手に入ることで、大きく様変わりすることになるでしょう。

分水嶺(水の流れを決定づける場所)

 

そうした次の地平を考えるとき、デザインの研究者としてAIと人間が協働する先の景色を見てみたいという好奇心を抑えることはできません。ということで、新しい挑戦として、toittaを活用したAI時代のリサーチに取り組みはじめた次第です。


具体的には、2つ。
1)2025年秋学期、立命館大学経営学部で開講中の「専門演習2(3回生ゼミナール)」では、メガバンクとの産学提携として「若年層向けの金融サービス」をテーマにゼミ生たちがデザインリサーチを行っています。さっそくそのプロセスに導入しています。


2)2026年春学期、立命館大学大学院デザイン・アート学研究科の「質的デザイン評価法演習」では、オートエスノグラフィーを取り上げる予定です。その途中でtoittaを導入した新しい方法論を鋭意準備中です。(立命館には『オートエスノグラフィーマッピング』を編集した土元先生も在籍していて、彼にも助言を頂く予定です)


これからもゼミ生たちは、AIデフォルト世代である学生たちとともに、新しい可能性を探索していきたいと思います。

prtimes.jp

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追加でご案内です。立命館大学大学院デザイン・アート学研究科では、社会人および実務経験保有者を対象に、1年間のオンライン中心の学修で修了できる修士課程(博士前期課程)の受け入れがあります。第一期の出願期間は終了しましたが、第二期(12月)の募集もありますので、大学院での研究を希望されている方、どうぞご検討ください。

 

■入試要項

https://www.ritsumei.ac.jp/gr/exam/point/202604_ag_arts_design.pdf

 

■研究科サイト

www.ritsumei.ac.jp 

 

立命館大学に着任しました

4/1付で立命館大学に教授として着任しました。

関西の地にて、心機一転頑張りたいと思います。立命館では2026年4月開設にむけてデザイン・アート学部(仮)と大学院デザイン・アート研究科(仮)を設置構想中です。まだ文科省の審査段階ながら、順調にいけばこちらの一員として着任する予定です。今年一年は教養課程に所属して、いくつかの科目を担当します。

 

www.ritsumei.ac.jp

総合大学の立命館が表現系の学部をつくるというのは意外に思われるかもしれませんが、実は立命館にはデザイン科学研究所アート・リサーチセンターなど、研究組織としては長年の蓄積を持っています。今回の設置構想もデザイン研究者の八重樫文先生(経営学部)、社会学者の山下範久先生(グローバル教養学部)など中の人を中心に進められたもので、今後の世界で重要な問題、たとえば、

・デザインが脱領域化し、拡散していく中で、デザイン教育のカリキュラムはどうあるべきか

・異分野が越境し合う先端的な研究を進めるにあたって、そんな組織が必要とされ、そこでデザイン研究者はどのような役割を担うか

・いまの気候変動・人口減少・生成AIなど誰も先を予測できない時代にどんな人材を育てようとするのか

などの難しい問題に、総合大学の利点を活かして挑もうとするものです。問題解決のように抽象的な「思考」だけでなく、造形言語による「表現」だけでもない、これまでのデザイン教育の更新を試みる大胆なカリキュラムになっています。(どれほど攻めた取り組みなのかは、カリキュラムが掲載された仮パンフレットが公開されていますのでぜひ御覧ください)

この構想を実現しようという八重樫先生の志に共鳴し、設立に参画することを決意した次第です。

 

八重樫:新学部/新研究科では、「まだ世の中には存在していないけれども、これは自分にしかできないはずだ」という強い思いをもった学生を求めたいと思います。キャリアという意味でも、すでにある「◯◯デザイナー」や「◯◯の専門家」を目指すだけではなく、領域を超えた新しいデザイナー像やアーティスト像を生み出すことを目標にしてほしいと思います。

〈中略〉

新しい領域にチャレンジするのは、学生だけではありません。私も含めて教員陣も、誰でも想像できるような研究や実践ではなく、未知なる課題に挑戦します。もちろん、こうした挑戦はすぐにうまくいくものではありません。新しいものを生み出すためには、失敗を重ねる必要があるからです。大いに挑戦し、心ゆくまで失敗しましょう。そのための場所を用意したつもりです。社会に対して積極的に新たな挑戦をしたい学生を歓迎します。

https://www.ritsumei.ac.jp/da/journal/journal-1/

 

新学部は衣笠キャンパス金閣寺の近く)ですが、今年一年は二条駅前の朱雀キャンパスに研究室を持ちます。5007です。タイミング合えば是非お越しください。創設メンバーは、熱量が高くさまざまな専門領域からなる研究者が集まっています(5月頃公開予定)。関心を持たれたみなさま、学ぶことも是非ご検討いただけましたら幸いです。

 

さて、この学部が設立されることは、僕の眼の前の仕事が変わるだけではなく、その責任の重みは理解しているつもりです。すでに美大が数多くある京都にもうひとつ競合が増えることについて京都周辺のデザイン教育界隈は複雑でしょうし、次の年(2027年)には東大が〈カレッジ・オブ・デザイン〉を設立します。今後の総合大学の組織改革の方向性にも小さくない影響を与えるでしょう。

 

ということで、周囲のことは気にしないで実験的なことをのびのびと試せた前職に比べ、プレッシャーも大きいなぁ、とそんなことを思いながら辞令交付式にむかったところ・・・。

壇上に、小川さやか先生のお姿を見ました。小川先生は誰もが知る優れた人類学者であり、ちょっとだけ知人でもあり、僕の面接時の審査員(汗)でもあったのですが、なんとあの若さでこの春から学校法人の副総長/ 立命館大学の副学長という大役に抜擢されています。運営の意思決定のために優れた研究者を積極的に登用する先進的な組織の姿を見た気がして、非常に驚かされました。小川さんの抱える責任に比べれば自分なんて、という気がしてくるから不思議です。

まったく新しい仕事ばかりになって日々大変ですが、これから頑張っていきたいとおもいます。

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なお、転職の話を報告すると二言目には「家族はどうするんだ」って質問攻めに合うのですが、毎回プライベートなことを説明するのに非常に疲れています。お願いですが、この件オンラインでは(できれば対面でも)ノーコメントとさせてください。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

専修大学を退職しました/新著『見えないものをみる視点』のお知らせ

NE21研究室卒業生による推しグッズ / 撮影=大池康人

 

3/31付で専修大学を退職しました。2004年の着任から、途中1年の在外研究を経て21年間。思い出してみると、長かったような短かったような。まずは長年のあいだ、同僚をはじめ、いろんな方々にお世話になりました。みなさまのご厚意に深く感謝申し上げます。

空っぽになった生田キャンパスの10636研究室。ここは中村先生から譲り受けた特上の場所であり、ほぼ邪魔が入らず集中できる場所だった。ここでいろんな原稿を書いたが、名札が消えてしまうと、ここにいたことももはや幻のよう。

 

上平研究室20周年&解散パーティ / 撮影=星野好晃

3/15に開催された上平研究室20周年&解散パーティでは、過去の卒業生や縁のあった学生たちが門出を祝ってくれました。本当にありがとう。みんなが楽しく学んでくれたお陰で僕はなんとか教員を続けてこれた。みなさんが社会の中で自分の力を発揮して活動してくれることこそが、僕の宝物です。

 

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新著『見えないものをみる視点』を書きました

『見えないものをみる視点』書影 / 撮影=小島健



さて、ある組織から出ることは、そこで当たり前だったいろんなことが消えてしまうことでもある。それをとてももったいなく思って、退職記念に本をつくりました。専修大学というフィールドの中で僕が遭遇したさまざまな出来事や考えたこと、寄稿した記事、インタビュー、対談などをセレクトしてまとめたものです。このブログでは書き足りないさまざまな思いを一冊に綴ってます。

 

もともと一般書ではなく関係者向けの個人的な記念品として始めた企画だったのでZINEでもよかったのですが、編集とデザインを担当してくれた小針くんの尽力で非常に質の高いものになったことに加え、通して読んでみたら自分でも素直におもしろいと感じる内容になったこともあって、やはり読みたい人には届けたいと思うようになりました。(※ネタバレになりますので詳細は伏せますが、世界に類のない仕掛けが隠されています)Xデザイン出版のやまちゃんと岩崎さんに相談したところ、僕の思いを汲んでくださり、Xデザイン出版のご協力のもとで一般販売できる形式になりました。半世紀前からさりげなく本棚に並んでいたような錯覚をおこすコンパクトな本です。古典の文庫本に憧れがあったので、こんな体裁の本がつくれてとても嬉しい。


なお、在庫を抱えないオンデマンド出版(発注されたら一冊一冊機械で印刷製本するAmazonのサービス)という特殊な形態のため、値段が跳ね上がってしまいましたが、ご容赦ください。

Amazonではこちら

 

なお、ちょっと残部がありますので、先日のパーティに来れず入手しそびれた上研OBOG、上平と共同研究等で関係あった方にはお贈りしますので、上平までメッセージください。

 

今後について

一方で、ある組織から出ることは、新しい始まりでもあります。
さて、次に何をやるかですが、それはまた次の記事で書きたいと思います。

つづく。

 

 

2024年の終わりに

(自宅の窓からとったいつかの夕日)

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恒例の年末エントリ。最近は加齢で身体のあちこちにガタが出始めてきたので、運動・食事・睡眠にかなり気をつけるようになってきた。執筆にしても実践にしても、健康な身体と精神が資本。周囲を見ているとおじさんたちみんな数値で管理するためにスマートデバイス導入しているので、自分も検討しようかな、とか思い始めた。

 

今年は学務がだいぶ軽くなったこともあって、いつにまして研究室に籠もって日々キーボードは叩くまくっていたはずなのに、あんまり実績だせなかったなぁ・・・とふりかえって今年のフォルダのデータを眺めてみたら、公開できないような某文書に某文書、未完成原稿がたくさん残っている。もったいない、いつか日の目を見れますように。

 

大学の方では、これまで担当していた科目に加えて今年始めた「テーマ実習(Fablab)」がとても楽しかった。学年関係ない1単位のゆるゆる実習なのだけど、ただデジタル工作機械をつかうだけでなく、ドリンクや料理づくりにおいて自分の感覚を使って「調合する」ことを探究したポップアップショップを立ち上げるもの。やっているうちに野草やスパイスに詳しくなったし、進行中でありながらいろんなトークのネタにもなった。忙しくてなかなか趣味も持てない日々だったので、趣味は?と聞かれて答えられるようになったのが個人的にも嬉しい。

 

さて来年にはちょっと新しい活動が控えている。
何をやるにしても、もっといい活動ができるようにがんばろう。

 

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2024年の活動

 

1|学術活動

  1. 【学会発表】菅原真唯,田中芽衣,佐藤綾音,石川秀和,木村梨沙,上平 崇仁「無作為的な動詞発想法を組み込んだデザインゲームの開発―鹿児島県阿久根市における観光拠点のデザインリサーチを題材として」第71回日本デザイン学会春季大会(グッドプレゼンテーション賞)」 (2024 6/22)
  2. 【解説論文】上平崇仁、南部隆一「都市の中の他種とともにデザインする」都市計画373, 都市計画学会(編集中)

     

2|執筆

  1. Distance media寄稿「人がヒトを超えた存在をケアすることの意味―新島探訪記 (前 /後篇)」

    distance.media

    distance.media

  2. Distance media寄稿「世界が一つで無いように、デザインも一つではない―書評:多元世界に向けたデザイン」

    distance.media

3|外部研究資金

  1. 上平崇仁(研究代表者)「デザイン人類学の観点に基づいた脱領域型デザイン教育の再検討」科研費基盤研究C 24K15642 (2024年―2028年)

4|特別講演・トークイベント・報告会

  1. 【招待講演】「その地域固有の価値は、いかにかたちづくられるのか?」Xデザイン学校公開講座(2024 1/11) 
  2. 【報告会】鹿児島県阿久根市 青果市場跡地活用事業 調査委託報告会(2024年1/19)
  3. 【招待講演】「可視と不可視のインターフェイス」ジネンコロキアム#9 (2024 1/28) 
  4. 【招待講演】「情報Ⅱにおける『コンテンツ』の題材や内容をどう解釈するか」文部科学省 高等学校情報科等教科によるデジタル人材の供給体制整備支援事業 情報Ⅱ研修会  (2024 2/16) 
  5. トークイベント】ACTANT Presents 教授Bar Vol.1 / 映画『水俣-患者さんとその世界』上映会と多元世界を巡るトーク
  6. 【招待講演】「共創の先に見えてくるものを考える」株式会社STYZくるむとまなぶ#1 (2024 5/10)
  7. 【セッション登壇】「デザインリサーチと教育」RESEARCH Conference2024,  (2024 5/18) 
  8. 【特別講義】「コ・デザインの今日的な意味―共創から相依相関へ」九州大学共創学部レクチャーシリーズ (2024 5/31)
  9. 【招待講演】「デザインと人類学、近くて遠い両者の協働を活性化する実践」東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所コモンズカフェ (2024 7/18) 
  10. 【招待講演】「組織はコ・デザインできるのか?」組織を読む研究会 (2024 8/23) 
  11. 【特別講義】「局所から始めよーポスト・ヒューマンの観点から、デザインはどのように置き換えられるのか」Xデザイン学校アドバンスコース(2024 9/15) 
  12. 【特別講義】「つくる営みを探索する」メッシュワークゼミ(2024 10/26) 
  13. 【対談】上平崇仁×連勇太朗「コ・デザインからこの先の建築を考える」DRDRDR #1明治大学建築計画研究室(2024 11/12)
  14. 【セッション登壇】「ともにつくる=コ・デザインが求められる背景」ICHIGAYA INNOVATION DAYS, 武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所/日本総合研究所 (2024 11/15) 

5|展示会・イベント等

  1. 【展示会企画】栗芝正臣、星野好晃、上平崇仁他『フィールドミュージアム展2023』  かわさき宙と緑の科学館(2024/1/14)

6|研究会企画

  1. 「デザイン人類学合宿研究会―水俣から再生のデザインを考える」(2024 11/24,25)

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今年見た風景

学外演習(ディズニーランドをデザインの視点で観察する)

 

専大の学位授与式にて(学生たちが阿久根で作った大漁旗を武道館で掲げる)

 

教授バー(ACTANT OFFICE)

 

原広司建築の粟津潔邸(川崎市多摩区

 

海辺で朝パン(福岡県糸島市 九大出張のエクスカーション)

 

高校の同窓会に幹事学年ということで、たぶん最初で最後の出席(鹿児島県出水市)

 

設立準備中の新留小学校を訪問(鹿児島県姶良市

 

上平研究室夏合宿にて(北海道阿寒湖)

 

いわいとしお展 光と動きの100かいだてのいえ(東京都写真美術館

 

坂口茶園(「デザイン人類学研究会in水俣」 熊本県水俣市

 

地方病流行終焉の碑(「感覚で探る人類学的リサーチとデザイン」山梨県甲府市

 

北海道大学の基礎ゼミ「北海道の居酒屋の真髄を探る」に参加(北海道札幌市)

 

上田女子短大の裏山フィールドにて(「“あれ”と”あれ”の教育を考える研究会」長野県上田市

 

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みなさま2025年もどうぞよろしくおねがいします!

 

2023年の終わりに

(鹿児島県阿久根新港脇の浜ん小浦にて  2023年10月29日)

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そういえば毎年の終わりにはまとめを書いていたのをすっかり忘れていた(ギリギリセーフ)。

2023年は鹿児島県阿久根市でのフィールドワークが2回できて、元気な学生たちと調査活動できたことは素晴らしいことだった。扉写真は、キャンプファイヤーをしたことがないというある学生の声に応えてやってみた、港付近の浜での焚き火。早くも懐かしい。1月に報告書提出と同時に学生たちともお別れで、毎度のことながら寂しいことである。

 

あとは、教務委員長の役職から外れたことでだいぶ余裕ができたにもかかわらず、思ったほど研究の時間取れなかったことが心残り。やはり何か犠牲にしなくてはならないようだ。いよいよ追い込まれてきた。来年は頑張ろう・・・。

 

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2023年の活動

 

1|学術活動

  1. 【学会発表】新井田統, 照井亮, 上平崇仁他, 「共創メディアとしてのお化け屋敷」電子情報通信学会メディアエクスペリエンス・バーチャル環境基礎研究会(MVE)(2023 3/15)
  2. 【学会発表】上平崇仁, 小柳リカ, 他, 「プロトタイピングにおける多層的対話と経験学習」第70回日本デザイン学会春季大会 ポスター発表(2023 6/24)
  3. 【ディスカッション】経済産業省「これからのデザイン政策を考える研究会」委員(2023 2/13)
  4. 【招待講演】上平崇仁,他「デザインの主体をひろげる-コ・デザインの可能性」公開シンポジウム「デザインの概念とその広がり-社会的理解をめざして」日本学術会議シンポジウム (2023 2/4)
  5. 【招待講演】上平崇仁「造形的な見方・考え方の意味を再解釈する―美術科の未来を見すえるためにー」筑波大学附属駒場中・高等学校第50回教育研究会/ 研究協議会(2023.11/18)
  6. 【アドバイザー】文部科学省令和5年度GIGAスクールにおける学びの充実「高等学校情報科等強化によるデジタル人材の供給体制整備支援事業」

2|執筆

  1. 寄稿「私的デザインの現在地」(編:吉竹遼)

    finders.me

  2. フィールドノート集「阿久根に投げ込まれた11の小石」(専修大学上平研究室)

    note.com

3|受託研究報告書

  1. 上平崇仁&上平研究室(受託研究)「鹿児島県阿久根市のパブリックスペースのためのデザインリサーチ」(阿久根市青果市場跡地活用事業)2023
  2. 上平崇仁(研究代表者)「態度形成のプロセスに着目した 教育者向けデザイン学習プログラムの開発」科研費基盤研究C (2018年―2023年)

 

4|特別講演 / トークイベント

  1. 【招待講演】上平崇仁,他「ハイブリッドな環境がもたらすデザイン・リサーチの地平」Xデザイン学校公開講座 (2023 1/5) 
  2. 【招待講演】上平崇仁,他「講演:Design withの多元性〜「ともにデザインする」とはどういうことか?〜」“くらし×医療” 共創事例カンファレンス 病院マーケティングJAPAN「くらし×医療」(2023 1/20)
  3. 【招待講演】上平崇仁「共創によるエコシステムを描く」トランジションリーダーズプログラム (経済産業省令和4年度「大企業等人材による新規事業創造促進事業(創造性リカレント教育を通じた新規事業創造促進事業)(2023 2/25)
  4. 【パネルディスカッション/招待審査員】日仏共同企画インクルーシブ・メイカソン FABRIKARIUM TOKYO 2023  日本科学未来館 (2023 5/6)
  5. 【特別講義】「コ・デザインを学ぶために」東京理科大学デザイン経営学科(北海道長万部町)5.12
  6. 【特別講義】「コ・デザインのアプローチが問いかけるもの」東京理科大学創域工学部(千葉県野田市) 5/23
  7. 【招待講演】上平崇仁「システミックデザインにおける〈ケア〉の役割 」システミックデザインと「地域共創」の交差点:シデゼミ3 株式会社ACTANT (2023 8/18) 
  8. 【企画 / パネルディスカッション】NHKセミナー「人間以外の存在とともにデザインする可能性」専修大学生田キャンパス,2023.11.29

 

5|展示会・イベント等

  1. 【展示会企画】上平研究室「不安定驟雨」専修大学生田キャンパス(2023/1/21)
  2. 【展示会企画】栗芝正臣、星野好晃、上平崇仁他『フィールドミュージアム展2022』  かわさき宙と緑の科学館(2023/1/15)

 

6|ワークショップ

  1. 「無理のない循環を再創造するためのサーキュラーデザイン」東海地域人材開発プログラム,FabCafe名古屋 (2023 3/3)
  2. 某社    DXのためのデザイン態度ワークショップ (2023 3)
  3. 某社    デザイン態度ワークショップ (2023 5)
  4. 栗原論ポートレイトワークショップin専修大学(2023.5)

 

 

7| メディア取材

  1. 「1Day 人材開発プログラム 終わりなき動詞=[デザイン(する)]を嗜み、循環型社会に備える」FabCafe名古屋

    fabcafe.com

  2. 土佐兄弟の「ダイガクドコイク」出演

    mainichi.jp

  3. 南日本新聞記事「活用策に若者の知恵―阿久根市青果市場跡地専修大生ら視察」

  4. 朝日新聞「(明日へのレッスン)第4週:キャンパス 誰もがデザイン、広がる可能性 上平崇仁さん」

    digital.asahi.com

  5. 三井住友銀行デザインチーム「産学連携を始めよう」

    note.com

  6. TD magazine「デザイン研究者に聞いてみた UXのタテ・ヨコ・ナナメ4」

    www.td-media.net

  7. FABRIKARIUM TOKYO

    vimeo.com

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今年見た風景

3月 埼玉県寄居町でコスプレまつりに出くわす

 

5月 ウポポイでアイヌ文化の調査 北海道白老町

 

8月 錦江湾に浮かぶ新島にて

 

10月 福井県鯖江市 森ハウスにて

 

10月  問いフェスにて東京湾

 

10月 南九州市頴娃町の釜蓋神社 研究室の学生たち

 

11月 NHKセミナー 小倉ヒラク氏と学生との対話

 

12月 共創学会にて日立駅に降り立つ

 

12月 中村俊輔引退試合 ニッパツ三ツ沢球技場

 

12月 慶応SFCの林さんの博士論文最終審査会にて(僕も副査を担当)


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みなさま2024年もどうぞよろしくおねがいします!

 

デザインリサーチトリップin鹿児島県阿久根市

2023年6月29日〜7月2日、上平研究室の学生たちと鹿児島県阿久根市に滞在してきた。ちょっと時間取れず遅くなったけども、現地で経験したこと、考えたことをまとめておきたい。

 

■きっかけ
打診があったのは2022年の夏頃。来年度の市の事業として、以前青果市場があった跡地を活用して観光拠点ともなるパブリックスペースをつくる計画があるという。阿久根で観光事業を運営している「まちの灯台 阿久根」代表の石川さんは、リノベーションのプロフェッショナルであり、その場所に息づくモノゴトの価値や人を発見するのがものすごく上手な人である。なにかつくるにしても、市の内側からの視点だけで決めるのではなく、せっかく地元出身の大学教員がいるのだから、都市部から大学生に実際に滞在してもらっていっしょに考えるなど、デザインプロセスを開く取り組みができるんじゃないか、と提言いただき市役所と繋いでくださったという次第。ちょうど10月に50歳組の運動会で帰省するタイミングでもあったので、運動会の翌日、阿久根市役所の市長室でミーティングがあった。僕としても故郷でコ・デザイン的な実践ができることはまたとない機会でもあり、二つ返事で「やりましょう」とお返事した。

 

阿久根旧港周辺

 

流入と流出のジレンマ
阿久根市は、鹿児島県内各地と同じように急速な過疎化と高齢化が進む。そもそも「市」とは、人口5万人以上というのが成立要件だそうだが、いつのまにか1万8千人台まで減っている。出生数もとうとう100人を切ってしまった。街が縮んでいく理由は、複合的な要因によるものだろう。基幹産業の漁業の衰退とか、新幹線の駅ができずにアクセスが悪化したこととか、その他色々。当たり前だが、地方に住むということは都市のような交通インフラが完備されてない中で、自力でなんとかしなきゃならないってことでもあり、現代的な生活スタイルとはそぐわない。そうして利便性を求めて地方から徐々に都市部に人々が流出していくのは、世界的に共通する問題である。


一方で、人々が吸い寄せられた側の街の姿を見てみるとどうだろう。大都市の郊外の道路沿いには、巨大な企業ロゴが入った派手な看板の下に、日本全国で共通する商品を持つチェーン店が立ち並ぶ。いわゆるロードサイドカルチャーである。どこでも安定して品物が共有されるが、そのかわりに売上のほとんどは胴元の企業へと流れる。結果的に日本中どこに行っても代わり映えしない、似た街並みが溢れることになる。人がたくさん住んでいる街だからと言って、そこにその街独自の文化が育つというわけではないし、幸せになれるわけでもないようだ。

 

このジレンマは、非常に興味深い。誰もがうすうすと気づいているからこそ、そんな退屈な日常から逃れようと、観光を求める。

 

山奥のそうめん流し「大野庵」にて



 

■何をリサーチするのか
そうしたコンビニエンスな都市生活は、デザインされた現実でもある。その街における人々のありかたは、施されたデザインの作用として作り出されているとも言える。その歪みを見て見ぬふりをするのではなく、真剣に考える時期に来ているのではないか。

何を持って豊かさとするかは、価値感のものさしの当て方次第で変わる。近隣にある人口の多い街よりも、条件の厳しい阿久根の方が、他にない素晴らしい体験をつくりだしている人が多いのは決して気のせいではない。刻々と姿を変えていく好きな街のために、自分の力で何ができるかを問い、自分事として立ち向かうための真剣さが明らかに違うのだ。

 

そうした街に構想されるべき、パブリックスペースとは?単なるハコモノだったり、飽きて消費されるアミューズメントのような、短絡的なアイデアが求められているはずがない。そこに存在する生態系や資源(リソース)は何か。そのポテンシャルを活かして何ができるのか。訪れた人々はいったい何に心を動かされるのか。市民はなにを誇り、その共有資源(コモンズ)をどう育てていくか。

 

それは都市生活とは別のものさしによる、阿久根市ならではのコンヴィヴィアルな生き方へと連れ出していくものに違いないし、それらを構想し、実現していく取り組みは、さまざまな立場の人が新しい価値を描き、対話するきっかけともなるだろう。それは阿久根の未来でありながら、同時に縮小し続ける日本の未来においてもまったく通じる問題でもある。

 

脇本海岸にて



 

■学生を集める
僕自身は長年阿久根市観光大使を務めていることもあり、地元に貢献できるならプライベートの時間削ってでもお手伝いする覚悟ではあった。が、最大の問題は話があった秋の時点では、来年度の研究室の学生が決まっていなかったこと。誰も来ない可能性だってある。4年生は時間あるように見えて、やることを見つければ意外と忙しいのだ。

 

募集説明会でもほんのちょっとしかプレゼンする時間なかったけれども、幸いなことに優秀な学生達がなんと10名(!)も参加表明してくれた。専修大は歴史ある私大だけあって、割と全国から学生集まっている。このプロジェクトに関心持ってくれた学生達は、阿久根市での経験を活かして、いずれ自分の関わる地域でデザインに取り組みたい、と熱意を持って言ってくれた。

 

ちなみに今年の4年生は、入学早々コロナ禍となり大学生活が大幅に制限された世代。だからこそ知らない街をフィールドワークして学ぶ経験は、他に代えがたい。自分の価値観を揺るがすほどの深い学びには、(オンラインにはない)身体性が欠かせない。

市役所の昼休み終わり、ラジオ体操の時間に遭遇



 

 

■研究チームをつくる
こうして4月から2023年度の活動が始まったが、計画の段取りを踏んでいくのはなかなか大変だった。すぐに現地に行けるわけでもない。そして研究者としては(受託)事業として求められている要件に応えるだけではなくて、アウトプットの可能性を広げるために複合的な研究プロジェクトとして成り立たせていく必要がある。

 

昨年度まで共同研究していたKDDI総合研究所の新井田統さんに相談したところ、リサーチツールのCoMADOの実験を兼ねてみようということに。新井田さんは重度の釣りキチだ。港町のパブリックスペースにおいて、魚や釣り人たちは独自のアクターとなりうる。

 

さらにどのように現場を見るか、どのように現場と関わるかを深めるために人類学者の水上優さん(合同会社メッシュワーク)をお招きした。人類学者はまさしくフィールドワークの専門家であり、デザインリサーチの取り組みを深めることや、学生達と行動を共にすることで視点を揺さぶる役割が期待できる。そこに新井田さんの部署に加わった新人の木村さんも同行することで、研究チームは計4名(上平は研究室の引率と一人二役)に。

研究者チーム

 

 

阿久根市役所にて
というわけで市内各地を短時間でいろいろ回ってきた。だいぶ長くなるので個別の詳細は割愛。(学生のフィールドノートを分担してまとめて冊子にする予定なので、もしPDFが見たい方はお問い合わせください)

阿久根市役所にて



個人的にとくに印象深かったのが、市長・副市長をはじめ、4つの部署が出席して行われた、阿久根市役所での会合。企画調整課の方によって学生向けに事業概要がプレゼンされたあと、学生たちから質疑が行われた。その際のそれぞれの学生達からの問いは素朴なものではあったけれども、素朴であるがゆえに改めて「市」の姿勢を問うものであり、返答する市の職員たちがお互いに部署間で確認しあい、立場を明確にした上で返答する必要に迫られていた。

 

どこの自治体でもそうだが、新しい政策を議論する場合、一見聞こえはいいけれども玉虫色でとらえどころのない言葉が飛び交いがちである。そしていざ実行する際には部署ごとの理屈や長年の慣習から「ことなかれ」的な判断が優先される。そうしたところに、今回は部外者として大学生が入ることで、あいまいに済ませている言葉の扱いや優先順位に対する姿勢が、鏡のように映し出されることになったように思う。若者たちが提示するであろう可能性を実現させるためには、部署間で連携しあう必要性が浮かびあがっていたし、市長、副市長と職員さんたちが合意形成する姿と、前向きに連携して事業を進めようとする姿勢が会議の中でもはっきりと感じられた。

 

こうした相互作用や変化を、内部の人間だけで生み出すことはなかなか難しい。さらに副市長によると、大学生の訪問を介して職員たちが市長の直接の想いを直接聞くことはかなり大きかったのではないか、とのこと。同じ市役所の中にいても組織のトップの考えを聞ける機会は多いわけでは無い。会議を通して関係者からそうした連携の姿勢が感じられただけでも、部外者の大学生を市役所まで連れて行った甲斐があったように思う。

 

■今後について
得たインプットをまとめ、秋には提案に行く予定。

もちろん提案は提案に過ぎないけれども、学生達のアイデアを市民のみなさんが見ることで自分の街の面白さを発見できるようなきっかけをつくれればいいな、と思う。

道の駅阿久根にて(この道は僕の通学路でもあった。こんな日が来るとはね)

スーパーセンターA-Zの醤油売り場にて絶句する学生たち

 

南日本新聞で記事にしてくださいました



2022年の終わりに

熊本県水俣市にて/2022年9月29日)

 

いつのまにか2022年も終わり、ということで恒例の年度まとめ。今年はだんだん対面活動や調査出張も再開できて、こころなしか体感速度が早くなった気がする。コロナ禍ももうすぐ丸3年。この様子だと、この先もずっと感染症と共存していかざるを得ないのかもしれないな。

 

さて、仕事は、と言えば。本務校(専修大)の方で自分の授業や教務委員長という役職に伴う学部運営の仕事だけでほぼ手一杯なはずなんだけど、今年もいろんな方々が声をかけてくださっていろんなところに出かけていった。2022年に取り組んだ対外的な仕事をリスト化してみたら、積もり積もって40個ほど。隔週以上の密度で講演やらワークショップやらのお仕事をしている計算になる。なかなか研究が進まないわけだ・・・。

 

とはいえ、講演や原稿のたびに強制的に言語化せざるを得ないので、自分の中での省察と理論化が前進しているのは間違いない。やっぱり研究者だろうが、言いっぱなしではなくてちゃんと実践したいし、そちらに比重を置きたい。来年度はもうすこし仕事量を調整してでも、もっと自分の研究をメインにしたいところだ。頓挫してるもろもろも進めなくては。

 

今年の個人的トップニュースは、春の京都府の高校入試の現代文の長文読解に『コ・デザイン』が出題されたことかな。大学入試ならわかるが、こんなマイナーな書籍をなんと中学生が、しかも「国語」として必死で読解するのか、と驚いた。さらに試験問題を読んで「ひええ、著者はそんなこと考えてません!」となったのもお約束。本を書いた頃とはずいぶん気持ちも変わったけど、出版後にも思いがけないところで責任感がともなうことを思い知った。

 

 

さて、来年は縁のあるところから非常にやりがいある仕事依頼が来た。上平研の学生ともども、全力で取り組む所存。

 

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2022年度の対外活動

 

1|学術活動

  1. 【招待講演】 上平崇仁「コ・デザインが問いかけるもの」北陸先端科学技術大学院大学知識科学セミナー (2022/1/7)
  2.  【口頭発表】 上平崇仁「中心無き時代のデザインを読み解く」日本デザイン学会情報デザイン部会定例研究会 (2022/2/12)
  3. 【共著】寄藤文平、上平崇仁他「グラフィックデザイン・ブックガイド 文字・イメージ・思考の探求のために」グラフィック社(2022/3/8)
  4.  【基調講演】 上平崇仁「モア・デザイン・ヒューマンの視点からデザインを疑う」日本デザイン学会 第69回大会テーマセッション(2022/6/25)
  5.  【口頭発表】照井亮、新井田統、上平崇仁「ヒト-モノ-コト-自然のネットワークと間主観性」第69回日本デザイン学会春季研究発表大会 (2022/6/25)
  6.  【基調講演】上平崇仁「情報1と情報デザイン―デザインの視点を情報の学びに活かしてみよう」千葉県総合教育センター(2022/8/8)
  7. 【招待講演】上平崇仁「コ・デザインが問いかけるもの」日本学術会議   土木工学・建築学委員会  都市・地域デザインの多様なアプローチ分科会(2022/8/9)
  8. 【ワークショップ】上平崇仁「 情報デザインの航海図を描こう」日本デザイン学会情報デザイン部会研究会(2022/9/6)
  9. 【招待講演】上平崇仁「Design withの多元性九州大学芸術工学院 第25回デザイン基礎学セミナー / デザイン基礎学センター (2022/9/8)

 

2|執筆

  1.  上平崇仁「南点 (13回)南日本新聞社(2022年1月〜6月)
  2. 上平崇仁「デザインの基礎概念―コ・デザイン九州大学芸術工学院  デザイン基礎学センターウェブサイト



3|受託研究報告書

  1. 上平崇仁(受託研究)「ハイフレックス型リビングラボ構築のための基礎的研究」(2022年度 株式会社KDDI総合研究所受託研究報告書)2022
  2. 上平崇仁(研究代表者)「態度形成のプロセスに着目した 教育者向けデザイン学習プログラムの開発」科研費基盤研究C (2018年―2023年)

 

4|講演/ トークイベント

  1. 【イベント企画】渡辺隆史、比嘉夏子、上平崇仁『大人の自由研究のはじまり方』Xデザイン学校公開講座(2022/1/14)
  2. 【招待講演】上平崇仁『北欧の図書館に見るデザイン』知識の図書館 長万部プロジェクト(2022/2/25)
  3. Podcast】『グラフィックデザイン・ブックガイドについて』AfternoonRadio デザインのよみかた#044,#045(2022/3/17)
  4. 【特別講義/ 対談】上平崇仁『コ・デザインをめぐる対話』東京理科大国際デザイン経営学科コ・デザインプロジェクト(2022/5/13)
  5.  【トークイベント】上平崇仁『デザインの謎』ミラツクサークルトーク(2022/5/19)
  6. 【招待講演】上平崇仁『弱者のデザイン』大阪大学人類学研究室研究会(2022/5/26)
  7. 【対談】上平崇仁『コ・デザイン読書会―ケアとデザイン』シンクハピネス(2022/6/4)
  8.  【トークイベント】『サービスデザイン思考出版記念イベント』(2022/8/16)
  9.  【Youtube番組】『ケアとデザイン』UX安藤昌也ら(2022/8/28)
  10.  【招待講演】上平崇仁『コ・デザインのススメ』滋賀県長浜市デザインセンター・長浜カイコー(2022/9/9)
  11. 【招待講演/ ワークショップ】上平崇仁『捨てない選択をリ・デザインする』  FabLab NAGOYA 組織のバイアスを破壊する 人財開発プログラム(2022/10/28)
  12. 【招待講演】上平崇仁『デザイン人類学―相互に連関し合うデザインの視点』  多摩美術大学クリエイティブリーダーシップ・プログラム (2022/11/5)
  13.  【特別講義】上平崇仁『コ・デザインの背後にある信頼構造』  武蔵野美術大学「共創デザイン論」(2022/11/22)
  14. トークイベント】上平崇仁『デザインのチカラ』病院マーケティングJAPANサミット(2022/12/1)

5|展示会・イベント等

  1. 【展示会企画】栗芝正臣、星野好晃、上平崇仁他『フィールドミュージアム展2022』  かわさき宙と緑の科学館(2022/1/15)
  2. 【展示会出展】島影圭佑 上平崇仁、他『現実の自給自足展』(2022/2/14)
  3.  【展示会出展】中村寛 上平崇仁、他『デザイン人類学宣言!東京ミッドタウンデザインハブTUB (2022/10/26–11/6)
  4.  【展示会企画】  KDDI総研×上平研究室×ふじみ野市民× VIVIWARE「中高生とつくる体験型装置―あなたの知らない不死身の市」アートフェスタふじみの/ ステライースト(2022/12/18)

 

6|ワークショップ

  1. 上平研究室「ウルトラローカルランタンプロジェクトin大森」グラグリッド笑門スタヂオ(2022/8/31)
  2. 上平研究室「ウルトラローカルランタンプロジェクトin長浜」長浜カイコー(2022/9/10)
  3. 上平研究室「ウルトラローカルランタンプロジェクトin風の丘めぐみ幼稚園(2022/11/26)
  4. 上平研究室「viviware cellを使って学校を楽しくするシステムを作ろう」viviware inc × 若葉総合高校(2022/11~12)

 

 

7| メディア取材

1. 【インタビュー記事】上平崇仁『デザインも、教育も、常に疑い続けよ──連載:デザイン教育の現在地』ウェブマガジンDesigining (2022/8/30)

designing.jp

2.【イベントレビュー】第25回デザイン基礎学セミナー『Design withの多元性──ともにデザインするとはどういうことか』

www.kidnext.design.kyushu-u.ac.jp

3.【記事】上平崇仁「脱バイアスへの挑戦③ 捨てない選択に“リ(再)・デザイン”する」

fabcafe.com

4.京都府公立高入試・中期選抜<国語>

resemom.jp

 

8|その他

・某省庁の事業アドバイザー

・某省庁への調査協力

・神奈川県の某事業審査員

など。

 

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今年見た風景

 

北海道長万部(水柱のでる前)

 

龍安寺無人

 

皇居前(東京ピクニッククラブにお邪魔)

 

奥日光 西ノ湖(息子を送迎してとんぼ返り)

 

養老天命反転住宅(完全に幼稚園と勘違いしている下の子)

 

伊豆大島(通称バームクーヘン)

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みなさま2023年もどうぞよろしくおねがいします!

 

遠い約束を果たす

休暇をもらってしばらく鹿児島に滞在してきました。

故郷の阿久根市には50歳になった年に、母校の小学校の運動会に参加して子どもたちとリレー競走するという独特の行事があります。昭和26年に始まり、なんと今年で69回目。

もちろん自分たちの子供の頃にも当たり前にプログラムにあって、親世代が参加して子供たち以上に盛り上がっているのが運動会の風景のデフォルトでした。僕もいつのまにかそんな年になったというわけです。腹の出たおじさんたちが妙にハイテンションで観客に愛想を振りまくのを、「ああはなるまい」と冷めた目で見ていた昔の自分に、まさにそういう姿になってしまったことを報告したいと思います。

で、当日夜の打ち上げも楽しく過ぎたあとに
、ちょっと考えてみました。地元出身者でないとわからない感覚ですが、このイベント、成人式なみに大事にされている行事なのです。地域で共有されている「通過儀礼」と言ってもいい。昔はなんと参加率9割もあったらしく、コロナ禍でも6割は正直すごい。なぜそこまでしてどの世代も、全国からこの行事に合わせて帰ってくるのだろうか。

ずっと謎だったのですが、終わってみて、ふと、親友たちとの「約束」だったんだなぁ、と気づきました。小学校は卒業するけど、またきっといつか、この校庭に集まっていっしょに走ろう。お互いボロボロの中年になってるだろうけど、それまで全力疾走できる健康な身体でいようぜ、と。

 

時折、同窓会で会うたびに、そうして中年になる日を想像してきたのでした。そんな遠い約束を共有していたからこそ、38年後にみんな、なんとか忙しい仕事の都合つけて校庭に戻ってきたのでしょう。無事に再会できて、みんなでバトンをつないで走れたことに、そしてギリギリ廃校にならずに残っている母校と我々を追い越して走っていく子どもたちがまだ存在していることに、感謝以外の言葉が見つかりません。再び離れ離れになってしまった今では、まるでひとときの夢の中の出来事だったような気もします。

もちろん、全力疾走できたものの、子供たちには圧倒的敗北。全員から太り過ぎを指摘されたので、来年からダイエットしようと思います!

講演録:『モア・ザン・ヒューマンの視点からデザインを疑う』

6月25日(土)、26日(日)に、第69回日本デザイン学会春季発表大会が開催されました。僕の所属する情報デザイン研究部会では「人間中心ではないデザイン」というテーマセッションが企画され、そのセッションの冒頭で領域を概観するような基調講演を担当することになりました。

 

僕はいつもアドリブで喋ってますが、今回は珍しく台本を書きました。15分という持ち時間で話せる量は、通常4500字程度だそうです(一分300字)。ですが、シン・ゴジラ方式で1.5倍速で喋れば、6000字程度喋ることができます。スライドの分量が多めになってしまったので脱線して余計なことを喋りすぎないためにも台本が必要でした。せっかく書いたのでアップしておきます。本番ではちょっと言い足りなかった言葉を加筆しておきます。

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「人間中心ではないデザインについて考える」の研究発表の前座的に、このテーマセッションが設定された背景を説明します。「モア・ザン・ヒューマンの視点からデザインを疑う」というお題です。デザイン学会だからこそ、ちょっと挑発的な題目をつけてみました。

 

この発表では、国内外の関連研究分野の動向をもとに、今後取組みが広がるであろう問題意識についての「見取り図」を示します。短い時間ですので、駆け足になることをご了承ください。

まず最初のトピック、「前提の変化」です。

 

ご存知のように、今後は感染症を避けて通れない世界になりました。これまで当たり前でもあった、人々が集まって住み、利便性を上げる都市型の生活を見直すことが求められています。

 

同じように、人々が望む方向性を疑うこと無く受け入れてきたデザインのあり方も見直す必要が生まれています。そこでひとつのアクションとして、複数のループを回すような学びの観点が重要でしょう。わたしたちはデザインする。しかし、そのサイクルをもう一周外側から、クリティカルな視点で解釈し直す。そうすることで、デザインが因って立つ前提を学びほぐすことができる。こうした観点をもとに考えてみたいと思います。

 

では、「デザインの前提」とはなんでしょうか。たくさんあると思いますが、ここでは2点ほど指摘してみます。 1つ目は、「デザインは、人間が、意図的・能動的に行う営みである」。この言葉は、一見当然のように受け取られているように思います。

 

 

けれども、今回の大会テーマは「変化せられるデザイン」となっています。普段耳にしない奇妙かつ他律的な言い回しで、なんだか飲み込みにくい言葉ですが、現代は否応なく外側からかかる強い力を考慮しながらなんとかやっていかざるをえない時代になっていることは、みんな気づいていることかと思います。


我々はしばしば「自分という主体が何かの客体に意図を持って働きかける。その働きかけによって客体が変わる」。そう思い込んでしまうけれども、実際にはそういうわけでもありません。たとえばソーシャルメディアは、運営する企業が利用者が注意を引きつけるようにあの手この手で誘導しており、別の見方をすれば利用者は個人情報をせっせとアップさせられ、広告を見せられています。なので、実質的には能動的な「行為」ではなく、いろんな連関の中で起こってしまう「出来事」です。

デザインもおなじように、自分でしたくてしているだけでなく、必要にかられてやらざるを得ない場合もたくさんあります。それは能動なのか受動なのかは、実際にはそれほど明確に切り分けられません。

 

そう考えると、さきほどの前提には、やはり「疑問符」が付きます。

 

つぎに、もうひとつ。「デザインは、望ましい未来をつくるために、人間の進歩に寄与する「いいこと」である。」最近、デザインはブームで、あちこちでデザインが芽吹いていますが、明らかにこれが前提になっていますね。デザインを取り入れることは進歩的なことだと。これは本当にそうなのでしょうか。

そこで、改めてデザインの定義らしきものをちょっと見てみましょう。

 

今から半世紀前、「生き延びるためのデザイン」という伝説的な本が出版されました。ヴィクター・パパネックという人が、「ある行為を、望ましい予知できる目標に向けて計画し、整えるということが、デザインのプロセスの本質である」と言っています。これはデザインを学んだ人なら、必ず一度は聞いたことがある有名な言葉でしょう。

 

ところが、去年パパネックに関する研究書が出版されまして、デザイン研究者の注目を集めています。膨大な歴史資料から、パパネックの虚飾に満ちた実像が明らかになりました。この本の著者アリソン・クラークは、パパネックの業績を記念してつくられた、ウィーン応用美術大の附属機関のパパネック財団のディレクターなのですが、全く組織的な立場に忖度しないクリティカルな内容となっています。

 

これは本の中で紹介されていたパパネックによるデザインコンセプトです。カエデの種子の回転構造を取り入れて枯葉剤ベトナム戦争で使われた有名な化学物質ですね)をより効果的に空中で撹拌して散布するための軍事兵器のデザインです。パパネックにとっては、こうした兵器で北ベトナムを殲滅することが「望ましいこと」だったのでしょう。彼はこういうことをしつつ、一方で舌鋒鋭く他のデザイナーを殺人者呼ばわりして倫理的デザインを叫ぶという、だいぶ「二枚舌」の人だったようです。日本では表の面として「生き延びるためのデザイン」だけが翻訳紹介されましたので、(私をふくめ)パパネックを尊敬する人が多かったわけですが、注意が必要です。

 

何が「いいこと」なのかは、立場によってまるっきり変わりますし、一見「いいこと」に見えても実はもう一つの狙いが隠されていることはよくあるものです。デザイン自体は、刃物のように目的次第でどっちにも使えるもので、その力は暴力的にも発揮することもできます。そういうわけで、この言葉にもやはり疑問符が付きます。

 

今紹介したような前提のふたつは必ずしも成り立たないというのは、当たり前といえば当たり前のことです。ですが、批判的な目をもたないと忘れがちです。だからこそ、過信しないで「疑う」ことが大事ですし、強引に立場を変えて眺めるための、別の視点を持つことが求められると言えます。

 

そういうわけでメインのトピックにうつります。

モア・ザン・ヒューマン。

 

まず、こちらはいわゆるHCDプロセスの図です。適切な設計プロセスを取ることで、設計解がユーザ要求事項を満たす。その結果ユーザーに製品が届けられる、という人間中心設計のプロセスのモデル図です。多くの企業で取り入れられており、ほおっておけば技術中心や自社の都合中心になりがちな開発方針を、実際の利用者を中心にしたものへと転換することに大きく貢献してきました。いまでは高校生の情報の授業で学ぶ知識にもなり、よく知られています。

 

ここで、このモデルの外側をみるためにいったん縮小してみましょう。

 

HCDに限らず、この中にいれるモデルは他のダブルダイヤモンドやデザイン思考でもかまいません。多くのデザインプロジェクトでは、文化や社会、ビジネスを扱います。そこでは人間と人間の関係を前景化するあまり、この枠の外側にピントを当てることはまずありません。それゆえ目的の達成に直接影響しない赤枠の外側は「存在しない」ものとして扱われてきたように思います。

 

実際には、例えばスマートフォンなどの電子機器をつくる場合でも、リチウムやコバルトなどのレアメタルは、南米やアフリカの鉱山を根こそぎ掘り返して採掘されています(左矢印)。電気にしても大部分が化石燃料から作られています。(右矢印)で、地球から搾取する代わりに、いろんな廃棄物を放出しています(下矢印)、

 

その結果、地球は取り返しがつかないレベルで傷つくことになりました。6月だというのに、外は異常な暑さです。最近、1万7千年つづいた「完新世」の時代がおわり、「人新世」の時代に入っている、とよく言われるようになってきました。ようするに人間の活動の結果、地球という惑星に、地質年代レベルの変化と書き換えが起こっているということです。これは広い目で見れば、人間のためのデザインが引き起こした結果とも言えます。

 

これに対して、トニー・フライというオーストラリアのデザイン哲学者が「デ・フューチャリング」というユニークな概念を提示しています。そのデザインは、長い目で見て持続する世界をつくっていくようなものなのか、それとも積極的に環境を破壊し、未来を否定しようとしているのか。この視点でみれば、近代のデザインが目指してきたことは、現状の結果から考えれば事実上間違っているではないか。だからいったん現状のデザインを否定した上で(アンチテーゼ)、再びそれを否定してデザインを変えてしまうような取組み(ジンテーゼ)が求められるのだ、と彼は主張しています。

 

「ユーザの要求事項を満たす」。それは事業においては焦点化すべき重要なゴールです。しかしながらそこに焦点化するがゆえに、どうしてもそれ以外との関係はそこで切れてしまう。そこで、人間の外側も含めて考えるための視点が、「モア・ザン・ヒューマン」です。日本語でいえば、「人間の共同体だけでなくてそれ以上の存在を含んだものごと」を見よう、ということです。生き物だけでなくアニミズムのような霊も含みます。「人間中心ではない」世界を捉えるために、最近、人類学や環境人文学の領域ではこの言葉がよく使われるようになってきました。

 

こうした視点の転換に、人類学はすでに応答していて、マルチスピーシーズエスノグラフィ、ようするに「複数の種」の関係に光を当てて解釈する取組みが活発になっています。種と種は「絡まり合い」(entanglement)の中で構成されている。「絡まり合い」というのは、人間と人間以外の多種、あるいは人間を含む多種同士が、働きかけたり働きかけられたりする中で、
特定の関係性が継続したり断続したり途切れたりしながら生み出される現象のことです。人は、その絡まり合いの中で人になっていく。マルチスピーシーズエスノグラフィに取り組む研究者たちは、それは静止した状態の「人間―存在(Human Being)」ではなくて、「人間―生成」(Human Becaming)の過程なのだとしています。

 

さて、ここが今日の本題です。人新世やパンデミックという外圧が、否応なくせまってくる、この「変化せられる時代」において、デザインの研究者はどう応答するのでしょうか?今見てきたように、Defuturingではなく、Futuringに転じていくためには、どんな実践がありうるのでしょうか?


個人的には、これまでの“デザイン”をいったん宙吊りにして再方向づけするためにも、多種多様な存在との連関の中で他の生き物やモノ自体がもつ「行為主体性」―働きかける力に目を向ける、そこに敏感になることが有用なのではないかと考えています。

 

ではそのために、デザインすることの見方を、通常とはちょっと違う解釈に切り替えてみましょう。デザインとは「対象に異なる秩序を与えることである」。この言葉は、状況論者の有元典文・岡部大介による名著『デザインド・リアリティ』からです。

 

だいぶ簡潔な言い方ですが、よく見れば、「望ましさ」みたいな意図性とか、主体―客体の二元論を無効化するために、この言い方になっていることがわかります。冒頭にお話した前提の2つは実はここに対応しています。

 

この見方のポイントは、人間だけを行為主体としてみないことで、「人間の外側にあるモノや環境の側も人間の行為を決めている」ということです。西田幾多郎は、80年ほど前に、『絶対矛盾的自己同一』という本の中で、“我々が物を作る。物は我々によって作られたものでありながら、我々から独立したものであり逆に我々を作る。しかのみならず、我々の作為そのものが物の世界から起こる”
と言い当てています。

 

人間はデザインしますが、同時にデザインされたものがこんどは逆に我々をデザインします。デザインする / されるは、相互にフィードバックされるループの中にあります。
なかなか理解しにくいところなのですが、たしかに人工物は我々をデザインしている(=異なる秩序を与える)んですよ。これは物理的な「かたち」に囚われると意味がわかりません。でも、意識の中にある「メンタルモデル」とか「概念」などのイメージ的なものは、明らかに可塑性がありますよね。いろんなかたちをとりうるし、かたちを与えられたらもう以前の状態には戻らない。例えば、我々は「また来週」と1週間を基準にしていますが、これはカレンダーの側に秩序を与えられているわけです。

 

こうした「デザインする/される」の循環的なデザインの視点をとりいれることで、もうひとつの方向性を示すことができます。例えばこの図。これまでのデザインの取組みは、ほとんどが人間の領域に持ち込むことでした。例えば廃材をアップサイクルして何かをつくる、というのは盛んに取り組まれていますが、だいたいは家の中、つまり人間のテリトリーに持ち込まれますよね。それとは逆の流れがあるはずです。人間が他の生き物や存在と協働して、「地球」の生態系へと働きかける。それを通して自然に対する人間の感覚が修復される。つまり人間の方もデザインされる、という方向性です。

 

具体的な事例から考えてみたいと思います。ドイツのDycleというスタートアップで、日本人の松坂さんが始めた取組みです。土に還る赤ちゃん用の「おむつ」を起点とした循環型地域サービスです。天然素材のおむつを赤ちゃんが使う。それをあつめて堆肥をつくって果樹を育てていく、というものです。

 

Dycleのさまざまなアクターが相互作用している連関図です。面白いことに、元気よくうんちをすることで赤ちゃんも豊かな土壌づくりに貢献できる重要なアクターとなっています。母乳をあげる親のほうも化学物質に頼らず健康な食生活をしようとするでしょうし、育って収穫される果樹は地域コミュニティを醸成していくためのコモンズ(共有資源)となります。

 

関わり合っているものの比較図です。例えば、がんばって完成度の高いデザインしたとしても、「おむつ」は「おむつ」でしかないのです。皮肉なことですが、おむつがよりよくデザインされ、性能が向上するによって不快さが減ったために、赤ちゃんのおむつは外れにくくなって昔よりも必要な個数が遥かに増えています。赤ちゃんがトイレに行けるようになるまで、一人あたり約4500個を廃棄するそうです。一方でDycleは、赤ちゃんが元気よくうんちすればするほど、栄養のある土へと作用し、土から果樹になります。さまざまな種と種が関わり合って、育っていくサイクルがみえますね。

 

ヨーロッパではこうした異種協働するような取組みがたくさん試され、スタートアップも増えています。教育の場でもロンドン芸大セントマーチン校ではすでに大学院の専攻(regenerative design)が設置され、9月から始まるようです。

 

こういった考え方は、日本でも近代以前では当たり前でしたし、いろんな知恵があったはずです。「山川草木悉皆成仏」、つまり山も川も草も木も、どんなものでもそれぞれの魂が宿っていて仏になれる、という言葉は、日本仏教で大事にされてきた教えです。しかしいつの間にかほとんど顧みられることもなくなっているように思います。

 

 

2018年に、アルトゥール・エスコバルというコロンビア人の人類学者がDesigns for the Pluriverseという本を書いて、デザイン研究に世界的な議論を巻き起こしているのですが、「いや日本人はずっと昔からそういう多元的な世界観の中で生きてきた」というような論文を共著で書いて、日本からの挑戦状として、2020年の参加型デザイン国際会議で採択されました。(コロナでオンライン開催になり、残念ながらコロンビアには行けませんでした)参加型デザインも人間同士ではなくて、今では協働の範囲を広げて考えるようになっています。

 

もうひとつ、日本発の先端的な事例です。私もパートナーとして関わっているACTANTというデザインエージェンシーがあります。彼らは学際的なチームをつくって、山梨の山の中でACTANT FORESTという実験的なプロジェクトに取り組んでいます。

 

彼らが提案するComorisが、5月に開催されたCommon Ground Challengeというコンペでグランプリを受賞しました。街の空きスペースで「小さな森」を育てるためのデザインキットです。

 

彼らは「街の再野生化(re:wilding)」とか以前から面白いことを標榜しているのですが、日本に古くからある森林育成の技法(宮脇方式)と、微生物発電で駆動する土壌センサーとを接続し、「森と都市が融合した世界」をつくろうという提案です。

 

「小さな森」は、もちろんいろんな生き物や酸素量を増やすわけですけど、それ以上に大事なのが、この提案ではやっぱり彼らも土壌内の菌・街・人の腸内フローラまでがひとつなぎになったマルチスピーシーズな都市環境として考えているところです。

 

先日、代表の南部さんに聞いたところ、上の世代はあまり反応してなくて、若い世代がすごく熱く反応しているそうで、今こうした取組みに共感する人が増えているということだと思います。ACTANT FORESTnoteでいろんな記事を発信していますので、ぜひ読んでみてください。

 

まとめです。

 

見てきたように、デザインプロジェクトでは何かに焦点化して始まりと終わりの「計画」と「ゴール」を立てます。しかし、相互に連関し合うモア・ザン・ヒューマンの世界は、多元的かつ絶え間なく動いています。なにかの終わりが、意図する/意図しないにかかわらず、必然的になにかの始まりを生むものです。その意味では始まりも終わりもありません。Futuringにつなげていくためには、古くから日本人が持っていた「縁起」的な世界観を見直していくことが欠かせなくなっていくのではないでしょうか。

 

もうひとつ。他種を気遣う経験を持つことで、人間の側も大きく変わりうるということです。なかなかこの下の方に向かうデザインは、言われない限りみんなやらないわけですけど、実際にやってみれば、不思議なことですが、何かを耕すことで逆に自分が耕されていくような感覚がうまれます。

実はこの図は僕の演習のスライドで使っているものです。いま今回話したようなことを情報学部のコース全員160人が必修で取り組んでいますが、最初はみんなわけもわからず試行錯誤を始めるわけですが、進めるうちに明らかに他種をケアするための解像度は高くなっていきます。

 

ただ、こうしたデザインは、完成度の高い成果物のようなまとまったかたちにはなりにくいですし、美しくもない。複製されて流通もされにくいし、いますぐお金を生むとも言い難い。単なる辺境的な教育取組みに過ぎない、と言われればそれはそうです。

 

その変わり、これまであまり焦点化されてこなかった取組みへと、人々の活動を開いていく可能性はあるのではないでしょうか。それは、いろんな環世界が絡まり合う世界へと接続することを通して、「育てる喜びを芽生えさせるデザイン」や、「人間側の立場や感覚を変えてしまうデザイン」のようなあり方です。

 

気候変動のような厄介で巨大な問題を、一人一人の人間がいますぐ変えることができるわけではありません。ただ、現在のように人間だけが切り離された状態のままでは何も始められないと思うのです。

 

デザインは、しばしば、今の支配的な価値観の中にあるものとして捉えられがちでした。そこからこぼれ落ちてしまうことをよく見ると、見落とされてきたけれども実は大事なことが埋もれているように思います。これらは企業の中では言いにくいことでしょうし、このような研究の場だからこそ発言する意味があるはずです。

 

以上です。ありがとうございました。