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みえないものを、みる視点。

株式会社はてなとの産学連携をはじめました

立命館大学上平研究室では、株式会社はてなとの産学連携として、AIを活用したインタビュー分析SaaS「toitta」を用いた質的調査の方法論、言語処理精度向上のためのプロジェクトを開始しました。

以前のエントリでもお伝えしてきましたように、いよいよ来年度2026年度の春には私の所属する立命館大学デザイン・アート学部/大学院デザイン・アート学研究科がスタートします。上平は大学院の演習科目として「質的デザイン評価法演習」を担当する予定で、修士研究においてリサーチを行う場合の知識といくつかの質的調査の手法に取り組む予定です。質的調査は長年取り組んできた蓄積もあるので、当初はこれまでの知識の延長で運営できるかな、と考えていたのですが、どうやらそんなに悠長にかまえている場合でもないと気づきました。この生成AIによる激動の時代、リサーチの方法も影響を受けないわけがないのです。

夏に京都でデザイン関連のカンファレンスが開催されたとき、ブース出展されていたのがはてな社のtoittaでした。toittaは、これまで手動で行われていた質的調査をAIを用いて自動化してくれるサービスです。

実際に使ってみて、これまで質的調査に取り組む際の大きな負担となっていた概念化の前の下準備(書き起こしと切片化)が、すでにAIで代替されていることを知り、その精度の高さに衝撃を受けました。さらにtoittaは(ある程度の)グルーピングまで自動で実行してしまいます。業務用Saasなので、つかうためには現状それなりのお値段はするわけですが、それはこれまでアルバイトやジュニアがやっていたような仕事=人件費をAIに置き換えるということになるでしょう。いわゆる“たんぽぽワーク”とは言え、目の前で仕事がひとつ消えたことは、 長年IT業界に人材供給してきた身としては、「ヤバいものをみてしまった」という感覚になります。

ja.toitta.com

とくに考えさせられたのが、AIによって自走しはじめたツールをハンドリングするなかで、リサーチャー自身の態度を鏡のように浮かび上がらせていく点です。たとえばインタビューのときにビデオカメラを回すとしましょう。外部記録があるという安心感によって「いまここ」への集中力が上がる場合もあれば、逆にそこで「甘え」がでて集中力が下がる場合もあります。どちらに転ぶかは、その人の仕事への向き合い方ひとつです。AIはビデオカメラよりもさらに際どいバランスへと、ぐいぐい引っ張って行きます。移動手段が徒歩から車に変わるとき、行ける範囲は飛躍的に上がる反面、歩くスピードだったからこそ気づけていた、ささやかな兆候を見失うかもしれません。どんな仕事であってもテクノロジーの導入は、こうした焦点を見失うような変化を起こします。

 

目当てとなるインサイトに到達するのは、熟練したリサーチャーの腕なのか、集合知の権化であるAIなのか、はたまた両者の相互作用があるとするならば、それはどんな姿なのか。さまざまなトレードオフのなかで、改めて人がリサーチする意味を突きつけられているようでもあります。

 

そしてまた、ここまで言語処理が自動化されることは、肝心な概念化に時間をより多く配分できるようになる、という単純な効率化に留まりません。やがてインタビューデータは個別に処理されるのではなく、コーパスとなってデータサイエンスの領域と一体化していくでしょうし、他者(想定ユーザー)をインタビューするだけでなく、当事者自身が内側から記述するような試みにも適用できるということでもあります。質的調査は人力では不可能なスピードと網羅性が手に入ることで、大きく様変わりすることになるでしょう。

分水嶺(水の流れを決定づける場所)

 

そうした次の地平を考えるとき、デザインの研究者としてAIと人間が協働する先の景色を見てみたいという好奇心を抑えることはできません。ということで、新しい挑戦として、toittaを活用したAI時代のリサーチに取り組みはじめた次第です。


具体的には、2つ。
1)2025年秋学期、立命館大学経営学部で開講中の「専門演習2(3回生ゼミナール)」では、メガバンクとの産学提携として「若年層向けの金融サービス」をテーマにゼミ生たちがデザインリサーチを行っています。さっそくそのプロセスに導入しています。


2)2026年春学期、立命館大学大学院デザイン・アート学研究科の「質的デザイン評価法演習」では、オートエスノグラフィーを取り上げる予定です。その途中でtoittaを導入した新しい方法論を鋭意準備中です。(立命館には『オートエスノグラフィーマッピング』を編集した土元先生も在籍していて、彼にも助言を頂く予定です)


これからもゼミ生たちは、AIデフォルト世代である学生たちとともに、新しい可能性を探索していきたいと思います。

prtimes.jp

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追加でご案内です。立命館大学大学院デザイン・アート学研究科では、社会人および実務経験保有者を対象に、1年間のオンライン中心の学修で修了できる修士課程(博士前期課程)の受け入れがあります。第一期の出願期間は終了しましたが、第二期(12月)の募集もありますので、大学院での研究を希望されている方、どうぞご検討ください。

 

■入試要項

https://www.ritsumei.ac.jp/gr/exam/point/202604_ag_arts_design.pdf

 

■研究科サイト

www.ritsumei.ac.jp