Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

同じ方程式から生まれる,無限の解

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先日,高校の先生とディスカッションした際に,初心者が何を学ぶべきかについてふりかえる機会があったので.僕が演習に取り入れている課題のことを書いてみようと思う.インタラクションデザインという基礎的な演習の初回「等量分割」という課題である.立体構成はデザインスクールでは昔ながらの基礎訓練であるが.情報デザイン系ではたぶんあまりやられてないと思う.

空間思考を用いた問題解決の課題である.1辺が10cmの立方体があるとする.それぞれが同じ形をしているパーツ二つをくっつけるとぴったり立方体になるような立体物をケント紙で制作する.意外性を感じさせつつ,美しく割ること.

等量分割は,0.5+0.5=1という簡単な方程式で表すことができる.しかし,量が均等というだけで答えは一つにはならず,この方程式を成り立たせる形態には無限の解が存在する.また2次元の平面図ではわりとシンプルだが,3次元の立体となると飛躍的に自由度と難易度が跳ね上がるのが面白いところである.

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秀作紹介.No.1

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秀作紹介.No.2

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秀作紹介.No.3

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秀作紹介.No.4

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秀作紹介.No.5. これは過去数年間で一番驚かされた解で,分割線が稜線と一体化しているのでパーツが合わさった状態ではまったく継ぎ目が見えないのだが,そこから両側に離していくと,カラクリ箱のようにこの形があらわれる.しかも手仕事も完璧で,職人技のようにスッ・・・ピタ,と気持ちよく合体する.

 

こんな感じで,毎年数人は「そんなカタチがあったか!」と僕もびっくりするような解を見つけ出してくる.制作期間は1週間.完成形だけを見ると簡単そうにみえるかもしれないが実際には長い過程があって結構大変だ.

 

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制作プロセスを紹介.まずは普通紙とセロハンテープで形をつくりながらプロトタイピング.普段3次元で思考していない学生にとっては,頭の中で想像することには限界があるのと,この問題は結果から答えを導く「逆算」が必要なので,この段階でなんども試作しながら考えないと,なかなかアイデアは生まれない.

f:id:peru:20170528191126j:plain展開図を考えて,illustratorで図面を引く.ここで出力してちゃんと組み上がるか再び普通紙で試作.

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図面ができたらプリンタで印刷して,今度は仕上げ用のケント紙にダルマ画鋲を用いて転写していく.

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直接ケント紙に印刷してしまうと,完成品に印刷の線が残ってしまうのである.折り目をつけるためのミネ切りと組みあわせながら切り抜いていく.最近レーザカッターやカッティングマシーンを使う学生もできてきたが,便利なもの使ったからと言って,クオリティには繋がらないのが極めて当たり前というか.

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ようやくできたか・・とおもいきや,普通に両方のパーツを同じ寸法で作るとハマらない!紙の厚さがあるのでそれぞれ1mmぐらい引かないと、いい感じにぴったりとハマらないのだ. ここまで来て合体しないのは悔しすぎし,そもそも合体しないものは「不可/再提出」なので,みんな悔し涙を流しながら再度作り直す.

 

そうして頑張ってつくったのに,時々朝の満員電車で潰されたとか,雑踏で落として踏まれたとか,悲惨な目に会う学生も毎年発生する・・・.

 

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ようやく完成.履修者全員で回覧して等量分割を合体させる体験会.

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みんな同じ苦労をしているので,仕事が丁寧だなぁ,とかこんな割り方があるのか,とかいろんな感想がでる.

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良くできているのは,やはり触って気持ちいい.等量分割は,簡単すぎても複雑すぎても美しさは生まれないのだ.

 

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等量分割はもともとは,かのウルム造形大学(僕の訪問記)の基礎課程でトーマス・マルドナードが生み出したワークである.僕はそれを現代的にアレンジして取り入れているだけだ.いまから60年ほど昔から世界中で繰り返されている古典的な課題であるけども,古くならないから凄いと思う.

www.designboom.com

 

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以前,情報デザインフォーラムvol9(2012,5)でプレゼンした際の資料より.

 

実は3階層に分けて狙いを埋め込んでいる.学ぶことは,その場で得られることだけではない.特に僕がこの体験を通して気がついて欲しいのは「制約と創造性の関係」だ.たったひとつのシンプルな方程式からここまで多様な答えが生まれ,その多様性の原理が制約であるということは,どんな問題に展開したとしても通じることだろう.

 

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自分で展開図から組み立てる経験を持つと,普段食べているお菓子のパッケージからもいろんな工夫が発見できるようになる.フタの折れ曲がる部分の印刷の塗り足しの工夫!

 

人間の手はさまざまなことを試し,創り出すために器用に進化したはずなのだが,今の時代の多くの若者たちにとっては,いつのまにか眠った能力になってしまっている.それをちょっとでも覚醒させる経験は大事なのではないかと信じて,この課題に取り組ませている.この先テクノロジーがどこまで進化しても,自分の力で創り上げることこそが,原始的な成功体験を生むというのはたぶん変わらないだろうから.