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みえないものを、みる視点。

がん患者と未来の化学治療をCoDesignする試み

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3月3日午後。王立デザインスコーレのCoDesign専攻の研究室公開を見に行ってきた。昨年のコソボの若者達とのプロジェクトも凄かったが、今年も凄い。今年のプロジェクトは、がん患者、そして医者達とコラボして未来の化学療法の姿をデザインするという挑戦である。

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がん患者は手術が終わったあとに、抗がん剤を点滴し続けるという化学療法のフェーズがある。そして症状次第では自宅治療したり仕事に復帰したりする。その際に持ち運びする必要があるわけだけど、どうもファッショナブルで機能性に飛んだバッグはない、とのことで、がん患者といっしょにデザインした、という。デザインゲーム、ダイアローグ、プロトタイピングなどを繰り返しながらデザインしていった。なんと織機使って布地を織るところから手作りしている。

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紹介パネルの上半分。

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下半分。(クリックで拡大すれば字が読める)数回の手術や、長い長い治療過程を経て生き残ることができた経験をインタビューを通して描いている。

 

今後、プロジェクトで提携した二つの病院でテストしていくそうだが、なにより驚いたのが、シリア難民の女性達が、この布を織ってバッグを作ることを想定していること(!)なるほど、なんでわざわざ手織りしているんだろ、と思ったらそう言うことか。難民達が作ることで、自力で収益を得て経済的に自立していく。クールなバッグを得ることによって、がん患者は外出をもっと楽しめるようになる。患者も難民も相互に良い関係になる。凄い。

そして、この辺のアイデアを学生の提案に終わらせないで実現に向けて着々と進めているのが、実にデンマークらしい。以前、日本の大学病院の倫理委員会の高い高い壁に跳ね返された経験のある人間としては、そのパートナー関係が羨ましい。

 

バッグの横に置いてあった分厚い報告書が内容もエディトリアルデザインも秀逸だったのだけど、残念ながらもらえなかった。

プロジェクトのウェブサイトがよくできているので紹介する。

www.chemotogoplease.dk

 

ページの中程にあるメイキングムービー(6分ほど)は必見。僕を受け入れしてくれているLoneも患者として出演している。

このムービー見てて思ったけど、このアプローチは利用者を実際に長期間巻き込んでしまうことで最終的に使う人も納得するものになっていくのが、力業というかなんというか。ペルソナの場合は運用を失敗すると途中で消えたりしてしまうのが弱点でもあるからな。

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プロジェクトのチームは修士の2年生2人と1年生2人の4人の女性達。世代を分けておくことで研究室のマインドを継承することを意識しているようだ。

 

毎度ながら、学生達の活動を社会の中で展開している事例を見させて頂いて、ドイツからわざわざ来たという研究室志望の韓国人の学生とふたりで「我々も頑張らなきゃねぇ」と励まし合って帰ったのであった。