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みえないものを、みる視点。

TRADERS Autumn Schoolに参加してきた

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11/9-13にベルギーのGenkという小さな街で開催されたTRADERS Autumn School: on the role of Participatory Art and Design in the reconfiguration of work (in Genk)に参加してきた.とても濃い5日間の経験をしたので簡単にまとめておきたい.

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TRADERS Projectは,Training Art and Design Reseachers for Paticipation in Public Spaceの略で,アート&デザイン研究者が公共空間に参加型デザインの方法論を用いながら関わっていくための訓練をするというプロジェクト.EUから資金を得て,ベルギー,オランダ,スウェーデン,英国の4カ国にまたがった国際プロジェクトとして実施されている.そして,このAutumn Schoolは集中合宿のようなスタイルでヨーロッパの研究者向けに開講するもの.前期にITUで同僚だった二人が開催を教えてくれて,部外者だけれどもなんとか参加したくて,がんばってエッセイと履歴書,ポートフォリオをまとめて志願したところ無事に選考をパスして参加できた.

 

参加者は26名.20代から50代まで,PhDやポスドクぐらいの若手が多い印象で,ほぼEU全域からここに集まってきている.みんなデモクラティックアプローチを指向している人ばかりで議論も大いに盛りあがっている.Liesbethは「ベルギーにはそういうカルチャーが無いから,デンマークまで勉強に来ているのよ」みたいなことを春にITUで言っていたことを覚えているが,君たち十分濃いコミュニティ作れているじゃないか・・・.

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1,2,3日目.最初の半分は座学で,計8つのレクチャーを受けてそれぞれディスカッションという流れ.これが想像以上に面白かった.日本ではサービスデザインは比較的取り組んでいる会社や研究者も多いが,ソーシャルイノベーションの取り組みの最前線や領域を体系的に理解できる機会は少ないので貴重だ.

 

特にスカンジナビアンスタイルの参加型デザインでは重要人物の一人,Pelle Ehnの講義は刺激的だった.例えば,上のスライドにあるような「もうひとつのデザイン思考」.

実は以前ITUの同僚のスウェーデン人にMalmo大のリビングラボを見に行きたいとお願いしたらPelleを紹介されて,大御所過ぎてびびってなかなか連絡できずにいたら,目の前に現れたという次第.これはもう,ラッキーを通り越す.Pelleらが編集したMaking Futuresという本はこのスクールに来る前に事前に読んでおけ,という課題図書だったのだが,とても面白いのでオススメ.Malmoを中心に,社会課題に対するプロジェクトがまとめられている.

mitpress.mit.edu

 

もうひとり,ジョージア工科大のCarlのPublic design Workshopの活動も興味深かった.アメリカみたいに人々の互助精神が薄そうな国では社会性のあるデザインというのは日本以上に困難そうだが,励まされる.

mitpress.mit.edu

 

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みっちり講義うけてふらふらになったあとはみんなでディナー食べ,さらにナイトアクティビティのフィールドワークへ.

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今回のフィールドとなるGenkの街の歴史を地元の人に解説してもらう.(日本でも地方都市でフィールドワークするたびにも思うが,なぜこういう時にトークする人はこんなに陽気なのだろうか)

このGenkという街は3年ほど前までフォードの大きな工場があったのだが,それが撤退して街には失業者が溢れていると言う.このTRADERSプロジェクトではこの危機的な状況を,逆に大量生産・消費の時代からの転機として捉え,サスティナビリティを持つ社会づくりや新規産業創出を試みようとしている.

 

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Genkのリビングラボで見つけた友人のLiesbethの博論の本."参加はリスキー"だそうだ.彼女にねだって無理矢理頂いた.

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みんなで移動しつつ,街の取り組みを学ぶ.ベルギーも結構寒くなっている.

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コミュニティ型菜園(?)のようなパブリックスペース.こういう自然と共存するような取り組みは日本で長い伝統があるしそういった価値観を交えて交配しようとしているのかな,と思うが,彼らも小さな街でどうやって人々のコミュニティを生み出すかはいろいろと模索しているようだ.

彼の話で知ったけど,ベルギーってオランダから独立してできた国なんだな.だから母国語がオランダ語なのか.この地域は古くから領土争いが絶えず,世界大戦前の時代は永遠のライバルのフランスとドイツの緩衝地帯の役割をしていたようだ,

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後半の日程はワーキングテーブルで小グループに分かれて活動.僕はMappingの可能性を探る班に参加.

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工業地帯へのフィールドワークへ.

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途中で見つけたこの風景が僕は一番興味深かった.人間と自然がつくり出したエリアのインターセクション(交差点)だ.人間が切り開きながら衰退していく街を,植物が再び侵蝕して緑化していくってのはなんだかゾワゾワしてくる話だ,

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最終日の午後はプレゼン.

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参加型デザインの集まりだけあって,プレゼンも面白い!ソファーに寝そべりながら状況を寸劇するチーム.

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すかさずフォーマットをつくってみんなの視点を吸い上げるチーム.

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うちのチームは普通にスライドつくったわけだがw 再利用できる資源がたくさん溢れていることに着目して,(仕事のない)労働者がなにか創るための探索ツールと鳴るような草の根的なマップをつくれるようにして会話に活かしていく,とかそういう提案.まあありがちかも知れないけど,面白かった.インフォグラフィックスの視点から蓄積とスキルがあったので,ちょっとは方向性とスライド作成に貢献できたかな.グラフィックデザインは非言語コミュニケーションの要素も大きいので,言葉のつたなさをフォローできるのは有り難い.

 

というわけで,充実した数日だった.言葉の壁は大きくても,やっぱりアウトプットすることは楽しいし,ともに議論できる仲間ができることはもっと楽しい.彼らに日本での自分の取り組みを見せられるようにがんばらなくては.

そしてヨーロッパの人々の活動を知ることで,それに対してアジア(含む日本)の「参加型」の文脈の違いやポイントがだんだん整理できてきたのが成果だった.小さなところから取り組んでいこう.