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みえないものを、みる視点。

"尊厳のある"ゴミ箱と,もうひとつの意味

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先月のこと,コペンハーゲン市がゴミ箱についての新しいパイロットプロジェクトを実施しているとのことで,中央駅に立ち寄ったときに見に行ってみた.

 

www.thelocal.dk

 

デンマークにはリサイクルを推進するために,PANTというデポジットの仕組みがあって,購買時に1本あたり1クローナ( 約18円)を預けて,返却時に戻る仕組みがある.昔のこどもたちが瓶を集めて換金していたように,今でも貧しい人たちが空き缶を集めるということは日常的に行われている.

 

しかしながら,貧しい人々が腕まくりしてゴミ箱をあさるのは人間としていかがなものか,という議論があり,その人達の尊厳を守るために,ゴミ箱にある仕組みを付けた,というプロジェクトが上の写真と解説記事である.実際に見てみたら単純にゴミ箱の脇に小さな棚が付いているだけなのだけど,「PANTをだれかにあげる時にはゴミに突っ込まないで,ここに置いてね」ということらしい.

 

そうして簡単に拾えるようにすることで,缶自体のリサイクルは推進されるわけで,回収されるゴミから空き缶を減らすことに成功した.そういうわけで,もっと拡張することになった,というニュース.

 

このニュース聞いて,僕はそもそも回収時に分別しないのがどうかしている・・・と思ったが,同時にそんなところまで「尊厳を守る」なんて,どういうお人好しの社会だ,と衝撃を受けた.そこで背景をもっと知りたくてデンマーク人の旦那さんを持つ友人のSさんに聞いてみたところ,「それは同じデンマーク人がそんなことをしている姿を見たくないからではないか」という意見をもらった.なるほど,自分が嫌な気持ちになりたくないからという,この自己中心的に社会の見方については,以前に別の人の別の話からも聞いたことがある,だが,むしろ完全な善意に基づいたプロジェクトだというよりもまだ理解できる気がした.

 

大多数のデンマーク人はそんな棚を置いたからって貧困問題の根本的な解決ではないし,何が変わる?と思っているんじゃないかなぁ,と割と冷めた意見をもらったけども,個人的には結構興味深く思う.

そういった(一般の人にとってはどうでもいいような問題に)声をだす数名の人を民主主義の制度上無視できないとはいえ,提案をとりあえず(さほどお金のかからないレベルで)形にして,小さな規模で試す.その結果を見て良好だったら市全域に拡げてみるというプロセスは至極まっとうだし,なにより人の行動をうまくモデルに落としている.

 

ゴミ箱の近くでじーっと観察しているのはさすがに道行く人々に不審がられたが,ゴミからも学べるものがあるのだ.