面白い公園があるよ、と同僚から教えてもらったので、早速土曜日(7/11)に家族で行ってみた。Nørrebro地区にある、SuperKilenという名前の上下に1キロ近い細長い公園である。現地にたどりついたら眼が回りそうな奇抜な光景が広がっており、思わず吃驚した。
下からみたアングル。画面中央に見えるのは僕の上の子である。わざわざ子供の自転車を電車に積んで持って行った甲斐があって、このオプティカルパターンの模様の上で大喜びで乗っていた。この公園は、まだ出来て3年ほどらしいが、出来た経緯を調べれば調べるほど大変興味深く、そしてデザイン思想が素晴らしい。
公園計画のそもそものはじまりは、ノアブロ地区の特色と課題にあった。家賃の安い集合住宅が建ち並ぶ同地区には、国外から移ってきた労働者が多く暮らす。留学生も多く、住民の出身国は50を超えるというが、住民間の交流は限られ、習慣の違いなどから、住民同士の争いごとが日常茶飯事となっていた。犯罪もおこっていた。
対策に乗り出したコペンハーゲン市はノアブロの駅に隣接するデンマーク国鉄の車庫跡地を公園につくりかえる計画を立て、2007年にコンペを実施。その結果、前述した3組の恊働案が選出された。
たしかにNørrebroは移民の街で、あまり治安的にはよろしくないエリアというのが我々の一般的な印象だ。そこで、そういった街の課題に対して建築事務所やアーティスト達がアイデアを絞り、地域住民も参加しながらこの公園案が作られていったという。
「彼らはノアブロ地区の住民にヒアリングをすることから始めています。とはいっても皆が簡単に協力してくれるわけではないので、地域の新聞に広告を出した り、学校に出向いたり、ダンスを楽しむために老人が集まる公民館に行くなどして、住民それぞれの出身国の『記憶』を聞き出しました」
そうして集められた結果、この公園は近隣地域に住む世界60ヵ国以上の国の記憶から集められた108の遊具やオブジェなどが設置されている。さながら世界博覧会状態。案内板にはぎっしりとマークがつまっている。(一覧PDF)
もちろんここには日本の住民もいて、公園には輝かしい日本代表として「タコの滑り台」(笑)が設置されている。元ネタは、東京都足立区北鹿浜公園にあるこの遊具らしい。うむ、たしかに古き良き日本の公園を彷彿とさせる遊具で、自分の子供の頃の体験と現在の異国での感情が入り交じって不思議な気持ちになる。誰が語った"記憶"か知らないが、思わずGJと言いたくなった。タコの滑り台は、公園の中でもかなり良いポジションにある。地元の子ども達が本当に楽しそうにたくさん遊んでいて、とても人気の遊具である。
オプティカルパターンのブラックエリアの北に伸びるグリーンエリアより。この10m以上ある巨大なブランコはどこのレプリカとおもったら、なんとアフガニスタン。本当は一番上からチェーンが降りているのだが、コペンハーゲン市の安全上の規制で、軟弱な仕様に変更にさせられたらしい。
南にあるレッドゾーン。3年経過して地面はだいぶすすけていたが、オープンしたての頃はもっとどぎつい原色だったようだ。
↓下の記事参照。彩度高くて眼が痛い。
こんな風に、スーパーキレンは、移民の街という特色を、そのまま街を表現する要素として組み込み、シビックプライドの形成と住民同士のコミュニケーションのきっかけづくりに役立てたパブリックスペースの事例である。住民だけでなく、我々のようなビジターにとっても「なんでいきなりプロレスリングが・・・・いったいどこの国だ?メキシコ?ああタイか!そうか、キックボクシングか!」と謎解きする楽しみがあるし、よく知らない人とも気軽に会話出来そうな話題発生装置だ。(※実際に公園に本物のリングがあります)
そして、さまざまなオブジェを眺めながら、それぞれの国の人々が大事にしているカルチャーに思いを馳せることもできる。それはまるで、いろんな植物の花があちこちに咲いている野原のようでもある。
この公園は、実際かなり周辺の景観から浮いている。けれども、周囲からあえて強烈なイメージで際だたせることで、この周辺は明るいイメージに変化しているし、そのせいで危険な場所というイメージは薄まっている。そして Nørrebroにはこの素晴らしい公園がある、と住民達のアイデンティティと愛着になっているはずだ。実際、今の大学生達の間では一番人気の街なんだそうである。デザインは、コミュティを変えるのだ。
空間条件的には決して良くもない電車の車庫跡地を利用して、ここまで変えられるとは、うーん、まいった。以前多文化のプロジェクトに関わったことをきっかけに似たようなことを考えていたけれども、それが高い次元で実現され、街で運用されていることに悔しさも少々。
それにしても、本当に優れたデザインは街の中に溶け込んでいるものなので、見つけるためにはフィールドワークするしかない。家族サービスとデザイン調査の一石二鳥を試みる旅は続く。