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みえないものを、みる視点。

当意即妙!

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5月末に出版された「ビデオによるリフレクション入門—実践の多義的創発を拓く」がめっぽう面白い.

 

以前にもちょっと書いたことのあるThe Reflective Practitioner( 邦訳「省察的実践とはなにか」)という名著があるのだけど,その本の解釈ををめぐって冒頭で佐伯先生が重要なことを指摘されていたので,ここでメモを公開しておく.

kmhr.hatenablog.com

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第1章リフレクションを考える(佐伯胖)より

では,「リフレクション」はどういうときに生まれるのだろうか.ショーンによると,それはあらかじめ準備してたときに生まれるというより,突然予期せぬことに直面して「当意即妙(thinking about your feet)」ができたとき,あるいは非常に緊迫した状態で「油断無く気を配る(keeping your wits about you)」ときなど,まさに行為の最中で(「考える」ヒマもなく)生まれることもある.ここでショーンが別のところで使っていることばを付け加えるなら,「うまくいった!」「これでよかった!」という「良さの実感(appreciation)」が伴っていることもあるだろう.
ショーンは,このような「うまくいった!」「まさにコレなんだ!」という「よさの実感(groove)」が生まれるのは,さまざまなところに気を配り,なにか「気にかかること」をみつけたときであり,突然ふと思いつくこともあるという.(P14)

 

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ここで出てきた,thinking about your feet,keeping your wits about you,grooveにはそれぞれ佐伯先生の注釈がついていて(7)(8)(9).


(7)thinking about your feet・・・佐藤・秋田訳も,柳沢・美輪監訳も「歩きながら考える」としているが共に誤訳.


(8)keeping your wits about you・・・佐藤・秋田訳では「自分についての智恵を持ち続ける」,柳沢・美輪監訳では「分別を持ちつづける」とあるが,ともに誤訳.


(9)groove・・・佐藤・秋田訳では「はまり所」,柳沢・美輪監訳では「自分の型」と訳されている.本来grooveというのは強いて訳せば「のっている」状態のこと.

 

と一刀両断.まあ「thinking about your feet」は自分でも文字通りに受け取るし,そう訳すよな・・・これは翻訳者に同情する.

それにしても,ここは「リフレクション」という概念の根幹にあたる部分である.「歩きながら考える」ではいまいち腹オチしなかったところ,たしかに「当意即妙」だとそのエッセンスがよく伝わってくる気がする.そんな仏教用語を対応させるとは,なるほどさすがに佐伯先生だと感動した.

 

当為即妙:即座に、場に適かなった機転を利かせること。気が利いていること。また、そのさま。▽「当意」はその場に応じて、素早く適切な対応をとったり工夫したりすること。仏教語の「当位即妙」(何事もそのままで真理や悟りに適っていること。また、その場の軽妙な適応)から。

 

 この本はとても易しいのに深い記述が山盛り.例えば6章の鼎談.

 

"ほとんどの「学習者中心」の学習者の捉え方はレディ風に言葉で言えば三人称化されている学習者なのね.つまり外から眺めたうえで「学習者を中心にしましょう」なんてことを言っているときは,結局学習者は他人ごとですよ.そして「学習者を中心に何々してあげましょう」という,それは本当は学び手の思いということに何ら配慮のないのだよね"(佐伯) P157 

 

学習者の視点の話しはそのままデザインのアプローチにも通じる話しだ.