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みえないものを、みる視点。

ものごとに向き合う「態度」について聞くPodCastシリーズ開始!

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 最近、研究のアウトリーチ(公開や普及の活動)として表題の新しい取り組みをはじめました。その背景を書いてみます。

 

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 最近、デザインを学ぶ場が増えています。そこで専門家でなくても、(否が応でも)デザインについて語り、指導することを求められる場合があります。例えば、学校のカリキュラムや企業の研修の一部として。高等学校普通科でも、情報Ⅰに「コミュニケーションと情報デザイン」が取り入れられ、本格的にデザイン教育が開始されています。地方では情報の教員すら極めて少ない中、日本全国で80万人の生徒たちに対する教育体制をなんとか構築することが急務となっています。

 

 しかし、デザインすることの知は、実践のなかに埋め込まれたもの(実践知)です。教科書にはさまざまな知識がまとめられているとしても、もとの実践の豊穣さと比較すれば、言葉と言葉のやりとりで伝わるものはほんのわずかでしょう。人間はコンピュータではないので、アプリをインストールするようにうまくいくわけでありません。

 

 もう一点、さらに見落とされがちなこともあります。例えば、だれかが何かの行為をする場合、それは知識や技術だけで行われるわけではありません。今の時代、さまざまな情報は溢れかえり、いつでも誰でも手に入れやすい状況になっているわけですから、そこで何を「する」のか「しない」のかを決めているのは、本人の中にある動機や志向性です。自分自身が生きる中にある現実に対してどのように向き合うか。すなわち「態度」や「姿勢」といった側面と切り離せないということです。


 デザインすることも、まさしくこの側面と切り離せません。知識や技術を自分の中に蓄えるためではなく、本来はそれぞれの人間が世界に対して『応答』し、自分の潜在能力(ケイパビリティ)を活かすものとして捉えていく必要があるはずです。

  
 そして、この態度の観点は、学習者自身だけでなく、教育者/新人の教育係/組織のマネージャーなど、学習者に寄り添う立場の人にこそ自覚が必要なものだと言えるでしょう。なぜなら、人が何かを学ぶ時、直接関わり合う人の存在は極めて重要です。学び手である「わたし<I>」の目の前にいる「あなた」<二人称のYou>を介して、その向こうの社会<三人称でできているThey>が見えてくるものであり、構成される世界の見方に影響を与えるからです(佐伯胖の「学びのドーナツ理論」)。何かを面白がっている人の姿に面白さを感じるように、物事に向き合う態度は、その人の周囲にも伝播します。それは意図的に届けるというよりも、自然に"感染"していくようなものです。

 

 職務上、教える立場となった人達は、必死でトレーニングしたり本を読んだりしてそれなりに勉強していると思いますが、この「態度」の観点については、つかみどころがなく、正直意識しにくいものだと思います。仕事現場で直接プロの背中から学ベる人は相当に限られるでしょう。また、プロと呼ばれる人も一様ではありませんし、「医者の不養生」ではありませんが、日々の仕事に忙殺されていると、望ましい態度を発揮しているかは正直難しいところです。

 

 では、どう考えていけばいいのでしょうか。実は、ものごとをつなぐ「専門のない専門性」もまたデザインのもつ重要な一面です。まったく違う発想として、デザインの専門知識ではないところから、核心となる態度の問題を見出せるのではないか、と私は考えています。一般的にはまったく別の分野と考えられている方々の話を聞いていく中に、共通する補助線を描いてみる。それを通して視野を広げ、デザインするという行為も、さらにはそこにおける態度の問題も、決してわたしたちの日常生活と切り離されたところにあるわけではないことが、ぼんやりと見えてくるのではないか。そんなコンテンツを介して幅広い人々に自分で考えてもらおうということで、「態度」に焦点を当てた連続インタビューシリーズのPod Castに挑戦してみます。

 

※この取組みは、科学研究費補助金基盤C(18K11967)によって支援されています。

 

収録予定

第1回は「学び得ぬものをいかに学ぶか」について人類学者に聞く

第2回は「構えは何を決めていくのか」について剣士に聞く

第3回は「万物がつながっているとはどういうことか」について僧侶に聞く

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■態度リサーチ#1「 学びえぬものをいかに学ぶか」について、人類学者に聞く」

先日、第1回を収録しましたが、諸事情で文字起こして記事にしました。2万字近いボリュームとなってます。定性調査を行っているリサーチャの方、必見の内容です。

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