最近,デンマークに留学している学生達のブログを見つけることがある.日々新鮮な気づきを書いているのを読むと,自分もいろいろ思い出して懐かしい気持ちになってしまう.そんなわけで,彼らに向けて,僕がデンマークにいる時に読んでおけば良かったなぁ,と思った本を一冊紹介したい.
それは,内村鑑三の「デンマルク国の話 信仰と樹木をもって国を救いし話」.
今から100年以上前,1911年に東京で行われた講演録.なんでバイキングの国があんな福祉国家に変貌したのかの経緯をわかりやすく解説している.(Loneからもらったデンマークの歴史の本でも,同じように敗戦を「Great Defeat」と位置づけてそこから開始されていたから,解説されているリアル版「木を植えた男」のダルガスの話しは,本当の話なんだろう)
特にユトランド半島に滞在中の某君,某さんは,あのあたりに広大に広がる木々に思いを馳せることができると思う.無料ですぐ読めるのでオススメ.
青空文庫(Web)ではこちら
内村鑑三 デンマルク国の話 信仰と樹木とをもって国を救いし話
しかし木材よりも、野菜よりも、穀類よりも、畜類よりも、さらに貴きものは国民の精神であります。デンマーク人の精神はダルガス植林成功の結果としてここに一変したのであります。失望せる彼らはここに希望を恢復しました、彼らは国を
削 られてさらに新たに良き国を得たのであります。しかも他人の国を奪ったのではありません。己れの国を改造したのであります。
(重要)追記:2019年12月17日
どうやら作り話らしいです・・・
大阪大学から頂いた分厚い紀要集?「IDUN21号」でいちばん興味深く読んだのが『彼我を視野に据えての「ダルガス神話」成立の再考』(村井誠人、早稲田大学教授)です。簡単かつやや乱暴にいうと、『デンマルク国の話』(内村鑑三著)は作者による”作り話”である、ということを詳細に説明した論考です。
村井先生は、この『デンマルク国の話』を事実として信じ、デンマークについて語り始める日本人(時にデンマーク在住の日本人)に、本書を引き合いにだしてデンマークの歴史、文化、社会、国民性を語ることに、数十年前から警鐘をならしています。『デンマルク国の話』の中で紹介されるヒーロー、エンリコ・ダルガスが言ったとされる(実際には言っていない)「外で失いしものを、内にて取り戻さん」という耳触りの良い一言が入った感動的な「お話」は、日本人の心の琴線に触れるらしく、社会的に影響力のある一部の日本人達の間で、ダルガス神話信奉はいまだに絶えないのです。
近代デンマーク社会の成立の出発点であるかのように、『デンマルク国の話』を持ち出すのは、デンマーク人もビックリのビッグマウスになってしまうのです。とくにデンマーク在住の人達に読んで欲しい論考です。