Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

デンマーク流の"命の食べかた"

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先日のエントリに関連して,学生の作品展示で「逆マクドナルド」がえぐかった.画面上でナゲットをオーダーすると,おどろおどろしい音楽のなかで鶏を締めて解体し始めるという映像.おもわず言葉を失っていると,「ハイ,注文ありがとう」と机の下からチキンナゲットを一つくれた.その辺の無自覚さを問い直す,というのがコンセプトなんだろうが,思わず「食えんわ!」と返した.でも,他の学生たちは普通に「ありがとう」と言ってもらっている.

 

デンマークに住んでいると,時折そういう「命の食べ方」に関する出来事を見聞きする.以下は10月のカルチャーナイトというイベントでのデンマーク環境庁の出店.

f:id:peru:20151203212517j:plainジビエの試食で,鹿肉のグリルに行列ができているのだが,ちょうど後ろの光源のある3つの柱を組んであるところには死んだ鹿を空中に一匹丸ごと吊してある.しかも首つりだ.並んでいる最中に人々はそれを見て因果関係を知った上で食べる.という出し物だ.うちの上の子(4歳)はいつもかわいらしい鹿が無残な姿になっているのを目の当たりにし,ぶるぶると青ざめて.さすがにこの肉は食べられなかった.まぁそりゃそうだ.でも並んでいる人は(子供含めて)みんな平然と食っている.

 

この出来事を思い出しながら,一緒に展示を見ていたLoneに「なんでデンマーク人はそう残酷な見せ方をするのさ」と聞いてみたら,「それを理解するのは,大事なことじゃないか」なにを聞くんだお前は,みたいな顔をされた.

 

さすが,ラース・フォン・トリアーを生んだ国(違)

 

この件はいろいろ関連するニュースがあるのでついでにまとめておく.

 

■1年前のコペンハーゲン動物園

www.cnn.co.jp

殺処分した理由について同動物園のバンク・ホルスト氏は、「キリンは国際的な繁殖計画の一環として飼育している。同計画の目的は、安定した健全な群 れの維持にある」と説明。去勢などの選択肢はなかったのかという質問に対しては、「去勢すれば、遺伝子的にもっと価値の高いキリンのためのスペースが取ら れてしまう」と語った。

解体の様子を一般公開したことについては、「われわれには観客を啓発する役割もある。キリンがどんな姿をしているか見てもらう良い機会でもあった」と話している。

 ■先月のオーデンセ動物園

www.afpbb.com

農業が経済の重要な一部を成しているデンマークでは、食肉解体場の社会科見学を行う学校もあり、動物の解剖に非難が集まることに多くの人が驚きを示している。

 

引用が示すように,デンマークの人達にとっては「解体」が非難されるのは理解しがたいことなのである.この点について,友人の鈴木さんのブログは興味ぶかかった.

オーフス大学教育学研究科教授、ニン・デ・コニンク・シュミットによると、子どもは抽象的な概念を具体的な事象や現実の例と出会いながら学ぶのが最適だと いう考え方がデンマークにはあり、これはペスタロッチ教育学に端を発するという。そのため、このキリンの殺処分・解体の例も、デンマークの子どもたちに とっては、自然がどうした原則で動いているかを一個の人間として見つめ、その世界観のなかで育っていく。「子どもを常に守り、幼児扱いする他の国とは一線 を画する」とコニンク・シュミットは語る。オーフス大学で児童文学センター長を務めるニナ・クリステンセンも同意見であり、アメリカやイギリスを中心とし た国々では、動物を愛らしいものとしたロマンチシズムに根差している一方、デンマークでは啓蒙時代に築かれた、自然に出て行き、その観察の中から学ぶとい う思想に根差していることを指摘する。

自由放任とそれに付随する責任:デンマークのしつけと世界観: デンマークのうちがわ

 

もうひとつ,医療系研究者の友人のYさんの指摘はもっとシリアスだった. デンマークに限らずだが,ヨーロッパの小さな国は,近年になって遺伝性の疾患の問題が浮上しているという話.血が濃くなって劣性遺伝が発現していくのが原因らしい.上のニュースでも少し触れられている.

 飼育員の一人は、なぜ健康で若いライオンが殺処分されたかを見物客らに説明。「もしそのまま生かしていたら、自分の姉妹や母親と交尾、つまり子どもをつくってしまうかもしれなかった。これは、近親交配と呼ばれる.

これを聞いて,なんだか点と点が繋がった気がした.人種として持続させるための基礎的な知識は国の未来を大きく左右する.あくまで憶測だが,子供の頃からそういった啓蒙をすることが彼らにとっては大事だということなんだろう.ここはデンマークの方々と議論して,もうちょっと理解を深めたいところ.

それにしても,

 

デンマーク動物愛護協会(Danish Animal Welfare Society)は、ライオンの解剖だけを非難するのはおかしいと指摘。「何百万ものニワトリがみじめな一生を送っている。でも誰も何も言わない」とツイッターTwitter)に投稿した。

 

 

これは,まさしくその通りだと思う.そのセリフを動物愛護協会がいうのがなんというか面白い.