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Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

そして1年が過ぎて

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さきほどアパートを引き払ってきた。今夜はホテルに宿泊し、翌早朝のフライトで日本に帰ることになる。
本当にあっという間だったように思う。さて、1年もの時間を頂いて好きな場所で研究できる、という機会を頂き、ここに書いたこと/書いてないことを含めて数え切れないほど沢山の出来事があったが、日本に帰れば新学期のバタバタで今の気持ちを忘れてしまうだろうから、自分のためにふりかえりのメモを残しておきたい。

 

Good!

まずは、Goodだったことから。

 

1:家族で滞在できた。
なによりも、一人ではなくて家族で異国生活を体験できたことは大きい。短期の旅行とは違って病気したりと大変なこともかなり多かったが、なんとか家族全員元気で滞在を終えることが出来たことを喜びたい。もっとも、外国に住みたかったわけでもないのに同行してくれた妻には相当な迷惑をかけてしまった。この点においては感謝してもしきれない。

デンマーク行きを考えた時から子供を一緒に連れて行くことで現地をより深くフィールドワークできるはず、という狙いがあったのだが、これは本当に正解だった。一人だと研究に打ち込める反面で行動半径は限られてくる。親であるという機会を活かして幼稚園や子供向けワークショップなどいろんな所を詳しく知ることができた。また、こどもは優れた"メディア"でもあって、僕らの知らない地元っ子の遊び場や幼稚園での他の子の様子や教えてくれたりしたが、それだけでなく、ママ友やパパ友経由で得られる情報網の威力、子供を連れていった先で偶然出会った機会の大きさを知った。また、デンマーク人の子供に対する考え方、例えば子供でも対等な関係を重んじ自律を求めることや、電車やバスでの子連れに対する寛容さには多くのことを学ばされた。

 

2:デンマークのことを(ちょっと)知ることができた。
どんな場所であっても、1日の滞在で見えること、1ヶ月で見えること、1年で見えることは、すべて違っている。日々を過ごすごとに見方が変わっていったことは自分でも昨年の春先のブログ記事と比較して見るとよくわかる。そのグラデーションを体験できたことは大きな収穫だった。1年じゃ正直まだまだ見えてないというのが正直な実感だが、北欧の快適な夏と厳しい冬(長い夜)を体験して、気候のコントラストが民族気質に大きな影響を与えていることを理解した。なぜこの国はかくも高負担・高福祉社会政策や国のビジョンを持っているのかについて、歴史的経緯の中で理解することが出来た。

しばしば北欧は日本では夢の国のような扱いをされるが、どんな国でも光と影はあるものだ。「幸福な国」はいくつかの指標の結果に過ぎず、彼らもいろんな問題を抱えながら国の仕組みを維持するために常に議論を繰り返している。これについては昨今のシリアからの難民問題が深刻化してきたタイミングも大きかったと思う。そう言えば、僕の滞在は滞在許可をとったころのコペンハーゲンのテロに始まって、再びベルギーのテロで終わりそうだ。(そてこれから中東経由のフライトなんだが、無事に帰れるんだろうか)


3:日本が(ちょっと)見えてきた。
エスカレータに乗っている人の視界よりも、外にいる人からの方が動いていることが見えるように、内部では当たり前のことも外部からは違う視点で見れるようになる。日本の外に出て考えることで、日本社会の姿を逆照射することができたように思う。良くも悪くも日本は世界の中での位置関係は独特だし、たくさんの課題を感じたが、いい答えが出せるとも思えない。でも日本の問題は日本人が解いていくしかないわけで、これに関してはこちらでの日本の方々との議論に加えて、いろんな日本の研究者の方がデンマークにやって来て連絡をくださったお陰で、いろんな角度からたくさん議論出来たことはいい経験になった。ビアバーでデンマークの地ビールを飲みながら語りあうのは楽しい一時だった。(お越し下さったみなさま、ありがとうございました)


4:研究にはそれなりに時間を費やせた。
デザインはアウトプットだけではなく、それが必要とされた背景を含めて見なければ、本当のことは見えてこない。現地で実際に行われていく過程を見れたことで、日本からはなかなか見えにくかったCo-Design/ Participatory Designの文化的な背景を掴むことができた。日本でのイメージと違って、ここまで社会民主主義の影響が大きいとはなかなか実感できなかったことだ。デザインという「花」にはまず土壌があり、それは確かに人々が創り上げている文化でもあることを改めて理解した。

また、Koling(デンマーク)、Genk(ベルギー)、Malmo(スウェーデン)、Tallinn(エストニア)など、小さな街で行われているアクティビティの面白さを知った。というか、それらを面白いと感じる、という自分の感覚を知った。逆に大都市のロンドンを訪れた際、沢山見たデザインスクールの学生たちの作品のビジョンとそこから垣間見える都市生活は、東京で見ているものとほとんど変わらないように思えて、いろんな意味で大きなショックだった。(※もちろん両方とも一部だけ見て感じた個人の感想で、一般化はしません)

実績としては、同じITUに所属する安岡さんといくつかの論文とリビングラボに関する某企業の受託研究の資料を書いた。彼女は言語化能力が抜群で、一方で僕は概念を視覚化するのが好き、というお互いの能力を持ち寄ったコラボができたことは刺激的だった。研究だけでなく生活含めていろいろと助けていただいて本当に感謝している。

EUプロジェクトにも受け入れしてくれたLoneが進めている高齢者向けシェアリングサービスのGive&Takeと、NielsとLiesbethらのTRADERS、ふたつに参加して彼らの進め方と問題意識を知ることができて、とても勉強になった。またarki_labとは、彼らのワークショップに何度も立ち会って彼らの方法や思想を詳細に知ることが出来た。彼らの活動にもちょっと貢献できたし、それに加えて今後は共同研究まで繋がりそうで、彼らがパートナーとして認めてくれたことは心から有り難かった。

あとは、自分の成果としていくつか継続して育てていきたいツールのプロトタイプが二つ生まれたので、近々もっと進めていきたい。


5:コミュニケーションは前向きに。
在外研究は、留学生のように何かカリキュラムが用意されるわけではない。だからこそ制限時間の中で「自分は何をしたいか、何を成すか」の実行力・遂行力が試されると言えるが、自分の嗅覚を頼りにだれも紹介してないような場所を探り当て、沢山訪問することができた。秋ぐらいまでは調査しているだけでなくて自分でもいろいろ作りたい、試したい、というフラストレーションも大きかったが、秋を越すぐらいからいろんなことが繋がるようになって、調査も俄然面白くなってきたことは自分でも不思議だった。

英語力に関してはほとんど上達していない気がするが、これは長い道のりだと思うし今後も訓練していくしかない。見苦しい姿を恥じるよりも、好奇心に応じて一人でどこでも行ってやるぜ、という度胸はついた(と信じたい)

あとは細かくブログを書きためられたのもひとつの成果かもしれない。一年間で243記事は結構いい数字だと思う。意図的にSNSと紐づけなかったが、見ている人が少ないことで適当なことを書き散らすことができた。(わざわざ読みに来た人しか読まない、というのがこんなに気楽だとは!)
大学教員である僕ですら、在外研究って一体何してるんだろう、と不思議だったが、ちょっとでもその毎日を明らかにすることで、後に続く若手の方々にその具体的な日々を知り、自分のプランの参考にしてもらえるなら本望だ。(あちこち行っていたとしても、決して観光名所見て遊び呆けているわけではないのです)もったいなかったのは、見てきた事例はわりと簡単に書けるのでたくさん記録とれたけど、ぼんやり考えながら生まれた泡沫のようなアイデアや、出来事と出来事の間にあるもの、それこそを言葉にしておくべきだった。つい後回しになったあげく結局次の面白いことで上書きされて書けなかったのは反省点だ。


Regret!

次に、心残りなこと。

 

1:もっと学生達との関わりができれば。
ITUの数名の学生とはよく話したが、授業をもたなくてよいという極楽は反面では大学に大した貢献もできなかったな、という思いがある。5年前にアラスカ大フェアバンクス校に滞在したときには何回かワークショップしたり授業に協力したりして貢献できた気がしたのだけど、その点、まだまだ自分の能力が足りなかった。何度かゲストトークを断わらざるを得なかったのは実に悔しい。とりあえず日本にいる外国人相手にでもワークショップができるようにするのが次の目標か。

 

2:もっと旅したかった。
グリーンランドフェロー諸島アイスランドにも行きたかった。東欧にも行きたかった。まあこれはトレードオフではあるし時間は有限なので好き勝手なことは言えない。でもたくさんの国に行けたのは欧州にいたからこそ。次の機会が来る日を待とう。

 

3:音楽&映画シーンを体験したかった。
コペンハーゲンは音楽シーンも熱いし、ドグマ95が生まれた場所柄、映画制作シーンも熱い。だがライブハウスも映画館も行けなかったのは惜しい。Danish Film Instituteに通ったり、Posh Isolationの界隈のライブ行ったりして現地のカルチャーをもっと体験したかったと思う。

 

4:時間の使い方をもっと考えるべきだった
在外研究を終えてみて、やりたいことは山ほどあっても全てが出来るわけではない。これは僕の残り人生にも通じること。残された時間は少ない。優先順位と中途半端にしない継続性が大事だ。

 


今後について

専修大学の教員に復帰します。これから大学は淘汰の時代だけど,学びの場はますます大事になっていく、ということは欧州のいろんな大学をみて感じた。留守を惜しんでくれた学生達のためにも、今の学部の組織をもっと楽しい場にしていくことと、もうちょっと大学という場をつかって自分ができることの可能性を考えてみたい。

 

これから学んだことを整理していきますが、5月の情報デザインフォーラム(Yahoo!本社)、Educe Cafe(東大福武ホール)でちょっとトークの場を頂いたのでそこで共有出来ればと思います。

 

では、さらばデンマーク

コペンハーゲン空港にて)