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みえないものを、みる視点。

コソボの若者達がデザインで自国を変えていく可能性を見た:王立デザインスクール卒展から

f:id:peru:20150809152357j:plain8月5日(木)、近くにあるデンマーク王立デザインスクールの卒展を見に行く。海軍の施設をリノベーションした重厚なキャンパスの一角にあるギャラリー。

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しばらく展示しっぱなしのようで、夏休み明け直後ということもあり、ほとんどお客さんもいない。

 

ここは北欧デザインの牙城で、日本で言えば東京芸大のような伝統的な美大。そのため展示はクオリティの高い表現作品がほとんどだが、その中で数少ないプロセス重視のCoDesign専攻は、ビジュアル的にはあまり美しくないがw思想が美しくて、かなり異彩を放っている。以前話を聞かせてもらった際にとても気になっていたR君たちのチームのプロジェクト、Codesign with youth in Kosovoが素晴らしいアクティビティで感動したので、レポートにまとめておきたい。

 

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Codesign with youth in Kosovoは王立デザインスクール(デンマーク)の修士学生3名と、プリシュティナ大学(コソボ)学部生14名と、国際連合(国連エージェンシー、国連ボランティア、国連開発計画)による、大学間共同プロジェクト。

 

コソボは、欧州でもっとも貧しい国のひとつで、若い人には馴染みが薄いかもしれないが、旧ユーゴスラビアの一地域であり、1990年代後半には民族間でたびたび紛争が起こるなど、国際政治的に非常に複雑な地域として知られている。詳しくは、wikipediaコソボのページを参照。

 

コソボは2008年の独立宣言をもとに国際的な承認を得ている途中で、現在も運動を進めているわけであるが、その一方で若者達は新しい国づくりとほとんど関わりがない。具体的に言えば、若い人達の声、関心などは政策の立案や意思決定の際に取り入れられていない。非公式な場に留まっており、それらを処理する担当部署も(いまのところ)ない。結果的に若者達はパブリックな問題に参加することに対して、やる気をそがれている、という現状がある。

 

・そういった背景を踏まえて、このプロジェクトではコソボにCoDesignの考え方と方法を持ち込んだ。コソボの若者達と一緒に取り組むなかで、国を好きになるために、そして国を変えていくために、若者達自身が協力し合って共同体の場をどうつくっていくか、彼らにその考え方をどう習熟させるかのプロセスをつくることに挑戦した。(※多分これらをプランニングした国連は、社会民主主義のマインドを持って育ったデンマークの若者達とコソボの若者の接点を意識しているはず)

 

・よくあるワークショップのように、数日の滞在だけで答えをだすのではなく、4ヶ月間のセメスターをフルに使い、プリシュティナ大学に交換留学のような形式で長期滞在し、どのように若者達のengagement(愛着心、共感)を構築していくかの過程を詳細に記述した。

 

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中心のパックを拡大。成果物は、3つだけに絞った提言、そして一緒に活動した中で活用したツールやメソッドを彼らが再利用して自分で活用できるように、いくつかのキットにまとめた。

f:id:peru:20150809152448j:plain展示では、具体的な活動プロセスを一覧化している。3回の滞在ごとにテーマをつくり、論文だけでなく、だれでも読めるようなカード形式でエスノグラフィーとしてまとめた。

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 パート1:「ネットワークをつくる」

・シティウォーク(≒フィールドワーク。コソボの若者と一緒に取り組む。彼らに彼らの街の文脈を教えてもらう)、大学の授業に出る、交流を深めて友達になるなど。質的調査を通してインサイトを得たほか、お互いに共有するためにフォトエッセイのブックとしてまとめた。それを第一弾の成果としてコソボで配布した。

・また、エブリティドミノ・ゲーム(デンマークのCoDesign界隈では馴染まれているデザインリサーチ手法)を通して、お互いの生活コンテクストからいろんな事実を発見した。

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パート2:「若者達のengagementとは何か?を探る」

調査を経て、若者達が、いきなり本題を議論するのはかなり難しいことがわかった。そこで街で知り合いになった面白い活動をしている5人の若者に協力を依頼し、彼らのパーソナルなアクティビティと語りが入ったムービーをプロトタイプとして作成した。その映像をネタにして、「ダイアログシネマ」という名目で若者達に告知し、あつまった100人以上の若者に上映し、その後にそれぞれが対話し合うダイアログセッションを実施した。自分の経験や見聞きした例などを、すでに行われているたくさんのengagementの事例をすくいあげた。そしてコミュティに外にも見えるように一覧化した(ハックスペース運営からサッカーの交流戦など、etc)。また、そしてそれからインスピレーションを得てあたらしいアクティビティの案などをみんなで考えた。

 

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 パート3:「一緒に閉じる」

活動をまとめた展覧会をコソボの首都の街で開催し、若者だけでなく、街の人達と共有した。会場に来た人にも考えてもらった。そして最後のアクティビティとして、ふりかえりのワークショップを行い、「next step card」で、みんなで次のステップ、1)誰と誰がエンゲージを結ぶことができるか、2)推測される彼らの挑戦はなにか?3)そのひとつの方法の案、を一枚のカードの中にまとめた。

 

・彼らがコソボの若者達に残した提言は、

1)一般論からではなく、具体的なことからはじめよう。

2)セグメントはとっぱらって、関心や願望で集まろう

3)"欠けているもの"からではなく、"すでにそこにあるもの"から取りかかろう。

である。

 

・この展覧会をホストしたのは、プリシュティナ大学の学生たち。メンバーだった一人の学生は、コソボのMitrovica(※紛争で分断され、民族間の暴動や殺戮が絶えない街)において、これからセルビア人とアルバニア人の若者を巻き込んで、ここで学んだことを活かしてCoDesignに取り組んでみたい、と熱く語った。

 

・・・以上である。ここから感想。

 

僕は、旧ユーゴスラビアを舞台にした映画「アンダーグラウンド」は大好きな映画の一つなので、ユーゴから分裂した悲しい国々の歴史と今後については関心をもってしまうのだが、それにしてもこのプロジェクトのスケールの大きさには驚かされる。学生たちの活動が社会変革に実際に繋がっていることに、思わず鳥肌がたった。

 

思うに、R君たちのプロジェクトは、「コソボのために(Design for  Cosovo)」では無くて、「コソボの若者と一緒に(CoDesign with youth in Cosovo)」であることが大きな意味があるはずだ。デザインの成果物だけをデリバリーしても多分ダメなのだ。

 

一緒に課題に取り組んだからこそ、4ヶ月の小さなプロジェクトの種が、コソボの街の若者達を変え、Mitrovicaのような血で血を洗うような闘いを繰り広げた街の両民族を繋ごうという挑戦にまでつながっているのだろう、と僕は考える。コソボの若者達とは、紛争の頃に生まれた子ども達。ユーゴ解体以降の激動に直接関わったわけではないから大人達が何をそんなに争っているのか、葛藤も多いだろう。民族間の様々な文化摩擦を越えて、彼らはあたらしい共同体をつくれることを心から願いたい。

 

そして、彼らの3つの提言には僕自身が背中を押された気がするし、一見地味に見える活動の詳細な記録から大事なことを学んだ気がする。デザインは「For」ではなく、「with」によって人々をエンパワーすることができる。それを信じた人達の活動によって社会はすこしづつ本当にかわっていくのだ、と。

 

Codesign with Youth in Kosovo