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みえないものを、みる視点。

図書館の意味を再考した日

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英国の大学院に留学中のS先生がコペンハーゲンに来られて,いくつかの図書館を一緒に回る機会が有った.僕自身,普段週に1回ぐらいはどこかの図書館を利用してるが,基本的にオフィスだとだらけがちな午後に執筆に気分転換して集中するための利用なので.あまり丁寧に観察することもなかった.だが,S先生は大きく豪華な図書館からこじんまりしたローカルな図書館まで,目を輝かしながら見学したり,スタッフに話しかけたりと,積極的に利用者のコンテクストを探っておられ,その好奇心あふれる態度からは自分がこれまでいろんなことを見落としていたことに気がついた.

 

北欧の公共図書館が立派だというのはよく知られている話だが,昨今のインターネット社会の影響を受けて,本を読む人は減少し,ここ数年で急速に姿を変えつつあるようだ.司書さんに聞いた話によると,コペンハーゲン市ではここ数年蔵書も勤務している人員も大幅に減らしているとのこと.なんと年間に貸し出し3回以下の本は廃棄,らしい.

 

そして住民のニーズや抱えている課題に対処するかたちで,従来の"本を貯蔵し,貸し出す場"としての図書館から,"地域サービスの拠点"としての充実を計る,という方針をとっているようだ.たとえば,移民の多いエリアの図書館では,若者へのキャリアアドバイス・家族アドバイス・宿題支援・法律相談の援助が公式サービスとして明記されている.また.読み聞かせのボランティア団体(2200 godnathistorier)を支援する拠点になったり,親から放置されがちな放課後の子ども達の居場所や体験機会をつくったり(Ferie Camp)と,日本でいう習い事や学童に近いアクティビティまで行われている.

 

多くのデンマークの図書館は,本の所蔵・管理や貸し出しというメインの業務以外に,以下の特徴がある.

 

1)ノートPCを広げられる空間として,無料WIFIと電源を完備.小洒落たカフェを併設してあり,優雅な空間で人々が気軽に談笑できるスペースを設けている.子ども達が遊べるスペースがあり,イベントもできるようなワークショップスペースがある.

 

2)コンテンツとして,ゲーム機やソフトを貸したり,漫画・雑誌なども多数おいてある.

 

3)上に書いたような地域の人々が抱える問題に対する支援など,人に対するサービスも行っている(行い始めている).

 

要するにネットカフェ,漫画喫茶,コワーキングスペース,プレイスペース,CD/DVD/ゲームのレンタルショップ,といった日本では民間で活発なサービスを図書館という枠の中で,公的な税金で運営しているということである.逆に言えばそういった日本人ではあたりまえの各種サービスがデンマークではほとんど存在せず,だれでも平等にアクセスできるように,公共の場に集約されているとも言える.そういえば,デンマークにはTSUTAYAみたいなものはない.公民館や町内会に値するものもない.都市生活者にとって重要なサードスペースだからこそ,ビジネスアワー以外にも対応していたりするということなんだろう(いくつかの図書館はなんと22時まで開いているところもある).こうしてみれば,日本の伝統的な図書館とはだいぶ文脈が違うことが分かる.

 

通常は別々の場にあるサービスが集約される,ということは,それだけ相乗効果が見込めるだろう.例えば,別の目的で訪れたにもかかわらずバッタリ出会った男性と女性がそのまま併設カフェで話して恋愛につながるきっかけができたり,学校をサボって漫画を読み続けている子供に対して,カウンセラーが自然にアドバイスしたり,ワークショップで面白い体験したら,その分野の専門の書籍を借りて帰ったり,etc.

 

ここに来て,パパネックのアドバイス「もし君が近所の遊び場をデザインする際には,洗濯機を忘れないように」の意味が繋がってくる.デンマークの図書館が模索している複合的な機能をもったパブリックなサービス拠点はコミュニティが接続していくことで,いろんな可能性があるのかもしれない.