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みえないものを、みる視点。

「49mm」という数字

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au Design project 15周年を記念した展覧会「ケータイの形態学」展(2017年7月)が書籍にまとめられたそうだ。なんと、今は公式サイトで全文公開されている。

onlineshop.au.com

僕は丸の内のギャラリーまで展示を見に行ったのだけど(上の写真)、その時会場でInforbar C01の解説に付けられたパネルの文章が印象深くて、今でもよく覚えている。書籍にも掲載されていたのでちょっと引用してみたい。

 

「手とスマホ
携帯電話の設計にあたっては、幅49mmが手にしっくりくる最適値とされてきました。ディスプレイが大型化するにつれての理想的な幅の実現が困難になっても、なんとか50mm台前半に収めようとデザイナーもエンジニアもコンマ1mmの闘いに挑んでいました。スマートフォンはそんな概念を一気に吹き飛ばし、60mmを超える幅が当たり前になりました。指先の記憶で見ずに打てたキーも、タッチパネルを見ないと打てなくなりました。(P142)

 

49mmという、具体的な数字が記されている。たぶんそれ以上になると持って使うのが困難になる、ということで人間の手のひらの大きさから逆算して割り出された数字なのだろう。たしかに、ガラケーの時の幅はそのぐらいだった気がする。

 

 

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そして今日。巨大化したスマフォは、いつのまにか指を通して安定させるための金属のリングが装着されるようになった。写真はうちの学生のもの。学生が付けているのに気がついて「ちょっと写真とらせて」とお願いしたら、両隣の学生もやはり付けていて、まとめて撮影した。いまの10代はだいたい付けているそう。カバーもほぼ100%つけているから、本体との接着面がどうのこうの、ということも気にする必要もない。

 

メーカー側は「使いやすさ」を信じてコンパクトにすることにみんな命をかけていたが、ユーザーは大型ディスプレイを前にして、自分にとっての価値を見出せばそんな想定された最適値を容易に飛び越えてしまう・・・、それを中の人が(微妙な悔しさを滲ませながら)省察しているのがとにかく衝撃だった。

 

カバーを付けることすら嫌ったといわれるジョブズは、こんなリングを標準で付けることは絶対に許せなかっただろうし、ユーザーが自分たちで新しい持ち方をあみ出すようになるとは想像もできなかっただろう。(ちなみに僕もつけようとは思えないんだけど・・・)

 

でもメーカーが出すスタイルに縛られないで、たとえダサかろうが必要に応じて自分たちで加工する、そうすることが許されている、そんな開かれた人工物のあり方は正しいとおもう。

 

そんなことを考えた日、奇しくも授業は設計したものをあらかじめ決めた指標によって事前に調べる「ユーザー評価」の回だった。