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みえないものを、みる視点。

学食というサービスの明暗

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大学に入っている学食の運営会社が急遽倒産したそうで、野次馬根性丸出しで見に行ってみた。パートさんたちの怒号が飛びかい現場は混乱していた・・・ということもなく、春期休業中なので閑散としている。(ちょうど契約を終えたところだったそう。事業を続けられないのは事前に分かっていたのかも)

 

学食が経営厳しいというのは端から見ていてもよくわかる話だ。我々としても他人事ではない。食材も人件費も高騰しているのに学生相手に値上げするのも難しく、構造的に利益を上げにくいのは仕方ないところ。でももっと深刻に感じるのは、多くの学生にとっては「学食でも高い」んだそうで、それで昼食はどうしているかというとコンビニのでかいカップラーメン一つをスープまで平らげて済ませているのが大量にいるのである。健康に悪そうなことは言うまでもなく、あれをコンビニで定価で買うのは割高だろうに・・・。(外食費が高いデンマークの学生達はもっと工夫して食費を節約していたので、なおさら気になる)

 

まあそれはそれとして、今回書きたいのは別の話。学食といえば時々舞台裏を知る機会があって、今でもたまに思い出す記憶がある。

 

10年近く前のこと。ある演習の課題として、学生達が学食の経営者にインタビューしに行った。その時の記事に書かれていたその現場の努力に大変感動させられたことがあるのだ。(なお、それは学内ではもっとも美味しいお店の経営者(Oさん)で、今回倒産した業者ではない)

記事のデータが残っていたので、部分的に転載してみようと思う。

 

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<略>
では、学生はどのくらい学食を利用しているかご存知ですか?


 今では1万人の学生が毎日登校しているといいますよね?実際に学食を利用する人というのは、ここの食堂館と森永さんのところで300席ずつ、9号館に100席、あとはシダックスがあり、合計5000席くらいあるのかな。それらが満席になるかというと、今はどこも1回転しなんじゃないですかね。コンビニの利用が多いような気がします。昔は一日に3回転くらいしていたんですけれどね。
 はっきり言えば、学食は安く売るので最低でも2回転ぐらいしないと採算ラインに乗ってこないというのが現状で、ここも古いですけど、ここができた時にはスエヒロと森永の3つだったのです。学食が増えてきた時にコンビニができたせいで、1回転しかしなくなったので、採算ラインとしてはちょっとキツくなりました。だから、ある意味大学の協力がないとこの低価格を維持していくのは、難しくなってきています。

 

―――なるほど。確かに学食は他より値段が安くなっていて、学生でも手が出しやすくなっていますよね。その価格設定などはどのようにしているのですか?


 方向としてはいくつかあると思いますけど、まずは何を売りたいかということですね。例えば、うちのステーキ丼は500円でやっていますが、あれはたまたま偶然に安いステーキのお肉が手に入ることになったからです。まず、これをいくらで売るか。ステーキだったらスエヒロさんでは600~700円ぐらいで売っていますよね?うちでも700円で出したらどれほど売れるかって考えたら、出ないじゃないですか。それでは500円で売ったらかなり反響が出るのではって思ったので、まずは学生の感覚から見た価格を設定し、ではこれでやるには何を付けていったらいいかということを考えていくのです。だから、学生さんの感覚から見ていくらで売っていきたいかを常に考えています。
 あとは、うちがこういうメニューを出したいというのもあります。スペシャルの牛肉の赤ワインなどは、私のお店でこういうものやっていきたいということで出したメニューなのですが、そこからやっていくと550円になってしまいました。このように風なものを出したいというものから攻めていくのと、学生さんがいくらなら手を出しやすいか。370円に価格を設定したらどんなものが出せるのかと原価を計算していってそういうものは出せるのか。そういった2つの設定方法がありますね。

 

―――いつも学生視点でメニューや値段を考えておられるのですね。では、新しいメニューを作った時、どういう状況をクリアした場合にメニュー化されるのですか?


 それは中の設備にもよりますね。例えば、うちだったらスチームオーブンがなかったり、オーブンが2台中1台壊れてしまっていたりでフランスパンなどを焼く手段がなかったり、オーブンメニューがある程度限られてしまって、フライ物が多くなってしまっています。
 他には作業ですね。うちはカレーみたいにご飯をのせ、ル―をかけて終わりみたいなメニューじゃなくて、それに加えて唐揚げをのせたり、ソースをかけたり、仕上げに生クリームをかけるなどの最後の手作業が多いんですよ。だからカウンターがどうしても詰まってしまうのです。だから、本当は列が詰まらないような簡単なメニューにすればもっと早く出せるんじゃないかという気持ちもあるし、逆にひと手間ふた手間かけて美味しいメニューを作った方がやはりお客さんの視点から見たらいいのではという気持ちもあるので、相反するのですけどね。当初はカレーや定食が3つくらいとかしかなかったのですが、今は手をかけたものばかりになってきています。

 

―――手間かけるメニューが前より増えているのですね。ということは時代によってメニューも変わってきているということですか?


 そうですね。昔は定食が多かったのですが、15年前くらいに丼ブームがあって、何でもご飯にのっけていました。今時の若い人は一皿で済ませる、つまりおにぎりとかサンドイッチもそうですけど、何かをしながら食べる。そういう感覚になってきています。

 

―――ちなみに、ここでの一番人気は何ですか?


 日替わりのCランチですね。出かたは日によって違うのですが、唐揚げのおろしポン酢や和風おろしハンバーグ、ヒレカツはよく出ますね。学生さんはやっぱりお肉が好きなようです。

 

―――日替わりランチという、日によって違うメニューが一番人気であるというのは意外でした。それでは、過去に仕事をしていて思い出深かったことなどはありますか?


 長い歴史の中で色んな事がありました。今年の春に森永さんもぬけてしまったので、この大学の食堂の中でうちが一番古いんですよ。昭和22年に専大の校舎ができた時から入って一族で営業していますが、森永さんがなくなった時に時代の流れをつくづく感じましたね。他の食堂もでき、売り上げがガタンと減ってしまってガックリきたり、自分が考えたメニューが当たって喜んだりなど、やはりCABINを始めるにあたって色んな経緯がありましたが、最終的にうちにおはちが回ってきました。実はうちが手掛ける予定ではなかったのですが、設備が予定より小さくなってしまい、やる予定だった業者が「こんな小さい設備じゃ、やっぱりやっていけないよ」と言うので、オープンする半年前になって急遽うちに回ってきたのです。
 でも、うちも流石にあの設備を見て厳しいなと思いましたし、出来なかったらどうしよう、採算ベースにのらないんじゃないかなど、いろいろ考えていたら眠れなくなっていました。でも、設備が小さいことを利用して鉄板焼きをやったのです。「お客の目の前でジュージューと焼いていこうよ」、「どうせ設備が小さくてお客も少ないだろうから、じっくりとお客と向き合うようなメニューをやってみよう」ということでそれを始めた結果、本当に成功し、それと同時にこの成果が私の一つの誇りというか、自信になりましたね。ランチの中でもやはり鉄板焼きは一番人気ですね。

 

―――あの有名なメニューにも大きい思い出が秘められていることを聴き、つい感動してしまいました。<後略>

 

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学生達のライフスタイルの変化も見えて、エスノグラフィー的にも興味深いが、僕自身、このCABIN(食堂名)の鉄板焼きの話はとても印象深くて、今でもOさんの顔見るたびに思い出す。 

たしかに待っている場所からジュージューと強力な火で鉄板を炙っているのがよく見えて、それがまた食欲をそそるのだが、あれが狭さというマイナスポイントを活かすところから出発していたとは、本当に驚かされた。このような価値転換できる視点をもっているからこそ、お客さん達から長く愛されているのだろうと思う。

 

なお、ここはメニューにすかさず話題になっている時事ネタを取り入れるなど、仕事が早いことで有名でもある。

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たしか「豚キムチうどん」が話題になった翌日か翌々日ぐらい。これは食べたくなるよねぇ。

 

 もうひとつ、5年ほど前のこと。学内でのランチのサービスデザインの可能性を調べていたN君が研究室の時間にある調査結果を発表していた。学内のあちこちで販売されている弁当について学生たちに聞くと、「〜〜がダメだ」「〜〜もダメだ」「〜〜すればいいのに」と誰もがその場で数え切れないぐらいほど文句や願望を挙げる反面で、彼が自分でアポ取って話を聞きに行った業者の人は「課題に思っていること?うーん、特に何もないなぁ・・・」と他人事のように言っていたそうだ。「この両者の差!ギャップが面白すぎる」と解説するN君の話をみんなで笑ったことを思い出す。その業者こそ、今回倒産したところだった。

 

美味しく味わってもらうためにわざわざ一手間を加えたり、調理のプロセスを演出したりと経営努力を怠らない業者がおり、その一方で、全く利用客と向き合おうとしない業者がいる。今回の件は我々の大学の中だけの話でないにせよ、明暗を分けるのは結局自分たちの姿勢なのだな、と思わされる。