Diogenes: Jean-Léon Gérôme (1860)
古代ギリシア時代の哲学者ディオゲネスのことをふと思い出した。彼の奇妙な言動は不思議と僕を惹きつける。ディオゲネスは人々に「犬」と呼ばれた。実際に野良犬のような生活をおくり、大きな酒樽の中に住んでいたといわれる。また白昼にランプを灯しながら街を歩き、人々に何をしているのかと問われて、「人間を探しているのだ・・・」と答えたという。まさに奇人。
いろんな解釈ができるだろうが、僕はこのエピソードに、「役に立たないこと」や「一見意味がないように見えること」に対する人々の反応の中にこそ、人間らしい姿が見える、という風に解釈した。
Diogenes Searching for an Honest Man: Jacob Jordaens(1642)
こちらの絵ではもっと露骨だ。周囲をよく見れば彼の姿を見て、嘲笑する人、考え込む人。
白昼にランプ、という取り合わせが可笑しいことはわかっても、ランプという小道具によって今の状況が意識化されたことに対しては、なかなか気付けない。
昼に見えるものと、夜に見えるものは違う。そこで前提になっていることを明らかにしないことには、目に見えることに目を奪われてしまい、光の存在も影の存在も意識化されないままである。見えないものを見るためには、対極にあるような状況や立ち位置を通して見てみることが大事だろうと思う。今の時代に、デザインについて考えるならーまして人間中心を標榜するならーば、その「人間」をどのように捉えるかをより真剣に問わなくてはならない。
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On being asked what he had gained from philosophy, Diogenes replied, "This at least, if nothing else -- to be prepared for every fortune."
(哲学から何が得られたかと問われて、ディオゲネスは、「他に何もないとしても、少なくともどんな運命に対しても、心構えができているということ