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みえないものを、みる視点。

デザインと人類学の境界領域を探る会議:The Design Anthropological Futures

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8月の13日(木)と14日(金)、王立デザインスコーレで国際会議The Design Anthropological Futuresが開催された。いつもお世話になっているThomasたちが主催していることもあり、地元コペンハーゲン開催だしと気軽な気持ちで出かけたが、会場に行ってみたら、世界中から錚々たる研究者が集まっていた。参加者は100人の制限で、アジア人は、僕とAalto大のPhDの学生(中国人)だけ。

 

会議のテーマは、「デザイン人類学」という境界領域を立ち上げて、何を議論すべきか、みんな何に興味あるかについてのいろいろな見解を集めることと、研究者間のネットワークを作ることらしい。感覚的には人類学・デザインリサーチャ7割で、デザイナー3割といったところか。

 

"デザイン"を一言で言えば(※ すみません、強引ですので詳細はご容赦を)「人の目的(≒人間中心)を考慮してなにかをつくりだすこと」で、"人類学"は、「人間の人間たる営為の仕組みを探求すること」だとすると、そもそも両者は人に対する焦点の当て方の違いであり、相互補完関係にあると言える。そういうわけで、近年は、デザインはエスノグラフィーの方法を取り入れているし、人類学の方は、創造的なダイナミズムというあたりに研究者の関心がシフトしているようで、それぞれ刺激しあっているのが面白い。

 

ところで僕はあまり人類学のトピックを知らなかったが、未開社会などのエスノグラフィーはもうクラシックで、今の若い研究者はもっと今の社会の様相を明らかにするようなテーマにも取り組んでいるらしい。会場で仲良くなったアメリカ人のPhDの学生は、なんとファイナンスを人類学的に分析していると言っていた。だからこそ、デザインという営みも立派な人類学の対象でもあるのだな。

 

 デザインと人類学が融合する領域は、世界的に見ても相当活発だし研究が求められている分野ではあるが、まず2年前に以下の本(そのへんの話題をチョイスした論文集)が刊行されており、下準備がされていた。今回はそれが広まったのを受けて、リアルに議論しようとするもの。

Design Anthropology: Theory and Practice

Design Anthropology: Theory and Practice

 

会議のプログラムや論文は以下の公式サイトから手に入れることが出来るので、関心のある人はどうぞ。

kadk.dk

 以下会場のスナップ。簡単にキャプションつけておきます。

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オープニングの基調講演。伝説的な著作Design for the real world(生きのびるためのデザイン)のパパネック周辺の話。

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ディスカッション風景。バウンダリーオブジェクトからの解釈も活発だった。(日本でこういう議論しておいてよかった、岡部先生ありがとう!)

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学校の共有スペースをCo-Designアプローチで探るワークショップツール。f:id:peru:20150817024847j:plain

やはり、ゲーム的手順ですすめる。

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レーザカッターでのものづくりがこういうツールにも影響あたえている。南デンマーク大のタンジブル・エンカウンター取り組み1。ディスカッションのムードなどのパラメータを自分で調整できるようなもの(?)

 

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タンジブル・エンカウンター取り組み2。経済や物流をトレースしてみる(?)

 

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タンジブル・エンカウンター取り組み3。エネルギー問題を議論する道具。日本の電力事情をはなしたら、みんなかなり関心持って聞いてくれた。

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離れて暮らす家族のための関係を深めるための儀式的道具。遠隔で同期する。

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スカイプ社との共同研究。次世代のスカイプ体験のプロトタイプ。

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みんなで非同期で繋いで関心を見えるようにする道具。

 

 

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リオ・デ・ジャネイロでの民主的なデザインアプローチによる公共スペースデザイン手法。

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そのワークショップで使っているツール。

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王立デザインスコーレの修士プロジェクト。隠された個人的な習慣をあきらかにしてデザインにつなげる。IDEOのスーリさんの取り組みに近い。

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パーソンズデザインスクール(米)のワークショップ。小さな部屋を移動しながら個人的な問いを深めていくという、もはやアトラクションレベルの凝りよう。

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ディスカッションのためのシートをデザインする。今回は移民問題をテーマにしたがとても使いやすかった。

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エンディングキーノートより。スピーカーも「私は落としどころがよくわからなかったし、この問にはとても答えられませんねぇ」と正直に言って笑いを誘っていた。

 

というわけで、講演・ディスカッション・ワークショップとものすごく濃密な2日間だった。国際会議と言っても名前だけの学会発表ぽいのも多い中、とりあえず今回のは「あたらしい学際領域を立ち上げる」という目的も明確で、これまで参加した中で最も刺激的だった。もっと頑張らねば。