ロンドンでは念願の地下鉄、通称Tubeに乗った。木村さんの会社名、TubeGraphicsのTubeはここから取ったそうだが、インフォグラフィックスマニアとしては聖地(?)でもある。見つけたTube Mapに、ハアハア。僕は鉄ヲタではないが、この整然とした美しさは思わず興奮してしまう。
路線毎の案内図。ミニマムによく考えて作られていると思う。
セントマーチンズのキャンパスでは古いものが壁面に常設展示してあった。今でも学生へのお手本なのだな。
中心の図をアップ。これは鉄のボードに印刷されている。ハリーベックの初期デザインというわけでなく、たぶん1986年度版。現行版(トップ画像)と比較すると、路線が少なかったり、ゾーンの背景レイヤーがなかったりする。
ハリー・ベックが1931に考案したこのマップが斬新だったのは、実世界ベースの位置関係ではなく、ある場所からある場所への行き方に絞った情報提供をしたところである。
ベックは地下鉄の従業員であったが、地下鉄はほとんど地下を走るため、ある駅から別の駅への行き方(鉄道路線のトポロジーだけ)を知りたいと思っている利用者にとって駅の物理的な位置は意味がない、ということに気付いていた。
これに加えて、直行グリッドと45度グリッドに要素を絞ることで画面のシステムが安定することは、デザインを学んだ人ならだれでも知っている知識だと思う。その一方で、この路線図は人々の距離感覚を狂わせた、という指摘もある。このマップが人々の意識に浸透するとともに、中心部が拡大されて郊外が縮小されたトポロジー的な空間がいつのまにかメンタルモデルになってしまい、「なんだ、郊外はすぐ行けそうじゃないか」と、都市生活者を週末に郊外へと連れ出すことに荷担した、そして鉄道がますます儲かることに繋がった・・・という説だ。(アドリアン・フォーティ「欲望のオブジェ」より)確かに見落とされがちだが、たしかにそういう一面もありそうだ。それくらい実際の位置関係から異なっている。
路線図と実際の地図の違いは、このサイトが面白いので参照。どのくらい歪んでいるかに驚くだろう。
あたらめて見てみると、東京と比較してロンドンは図にするのに密度がちょうどいいんじゃないか、とも思ったが、東京の路線図もデザイン次第ですっきりしているし、やっぱり複雑な情報をシンプルに見せる画面設計の妙なのだろう。
ロンドン地下鉄はエレベータどころかエスカレータも少なく、ベビーカーも車椅子も一部しかアクセス出来ないというバリアの極みで、担ぐために大変な思いをしたが、マップのデザインは最高だ。なんてことを思いながら路線図に見とれていたら、お約束のように電車に乗り遅れた。