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みえないものを、みる視点。

古い船をいま動かせるのは、古い水夫じゃないだろう

https://www.aalto.fi/sites/g/files/flghsv161/files/styles/2_3_1380w_600h_n/public/midgard/images/1e7da723b1ccf34da7211e79ccba5d22419a6cba6cb-yrjo-sotamaa1_en_en.jpg?itok=Eb4LsMz6

フィンランドにYrjö Sotamaa(ユルヨ・ソタマー)という人がいる。フィンランドの名門大学・アアルト大が生まれるきっかけを作った重要人物である。

 

4年前に訪問した際に書いたブログ記事より。

研究内容に加えてなによりもコラボレーションを前提として作られた大学だけあって、組織の設計がすばらしいことがよくわかった。うーん、さすがに教育王国フィンランド。新しいことを生み出すために何が大事なのかがよくわかっている。
そして、その組織ビジョンをだれがいったいどうやって作ったのか気になって調べてみた。すると、2005年に当時のヘルシンキ芸術大学学長に就任したYrjö Sotamaa氏が、就任の演説で提唱した構想がルーツだということがわかった。

kmhr.hatenablog.com

設立の経緯は、Wikipediaにも掲載されている。

当時ヘルシンキ美術大学の学長であったユルヨ・ソタマーは、2005年の学長就任演説にて、既存の大学を合併しアールト大学を創設するという提案を行った。そうすれば、ユニークかつ学際的な大学が誕生し、革新的な考えを生み出すことができるようになるとソタマーは考えたのである。

フィンランド教育省はこの構想に注目し、金融省のトップであるライモ・サイラスに声をかけ、大学合併の可能性を探る調査官に任命した。サイラスのグループは、合併はフィンランドのアカデミズムと経済にとって有益であると報告した。この調査結果をもとに、フィンランド政府は2007年11月11日、合併プロジェクトを進めることを決定した。

 

ソタマーは、ヴィクターパパネックの生徒でもあったそうで、名著「生き延びるためのデザイン」には若き日の作品が掲載されている。

 

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まだ誰もピルのパッケージにデザインの課題があるとは思ってなかった頃の取り組みである。(1960年代)

 

 そんなある日、現在アアルト大の大学院に留学している川地君が以前「フィンランドデザインと文化;独立とデザインの歴史」という記事で興味深い事を書いていた。

その中の最も熱量あふれる学生グループが行動を起こし、他の北欧諸国で同じような憤りを感じる学生に働きかけ、国際的な組織を作りました。彼らは当時の教育を風刺するような展示や政府への嘆願書に加え、シンポジウムの開催により、デザインをより道徳的、社会的、環境的な影響を考慮したプラクティスに昇華させるに至りました。 (このシンポジウムに関しても非常に面白いのですが長くなるので割愛)

 

note.mu

 ふむふむ、それは興味深い・・・と感じて、この学生グループに興味を持ち、いろいろ調べてみた。そうすると、このソタマー氏こそがこの学生運動を牽引した議長だったことを知った。以下のプレゼンテーションの中で、自ら語っている(12分頃)

youtu.be

 Scandinavian Design Students’ Organizationの活動やその影響は以下の論文に詳しい。

Make us more useful to society!’ The Scandinavian Design Students’ Organization (SDO) and Socially Responsible Design, 1967-1973

Alison Clarkehas shown that Papanek’s involvement with the Nordic design scene formed thebasis for his seminal book Design for the Real World –Human Ecology and Social Change from 1971(Clarke 2013a,161).

 

学生達がパパネックをフィンランドに呼び、パパネックがそれに影響受けて、「生き延びるためのデザイン」の主張の原型ともなった(!)とか、学生達が自分たちで雑誌を発行して言論活動を行い、それが北欧のデザインの潮流になっていったとか、政治活動化して組織が崩壊して解散していく過程とか、そんなことがまとめられている。

 

最後の33Pにある注釈には、上の講演の言葉を引用して

The significance of the seminar is underlined in the following quote from Yrjö Sotamaa:“Suomenlinna Seminar can be seen today as a pilot project for the present Aalto University. The challenges Aalto wants to answer, relate to the key themes of Suomenlinna to ’building a better and more responsible future, interdisciplinary approach combining design, technology and business in education and research and enhancement of the innovativeness of Finland"

と書かれている。若き日に諸分野を繋いだ経験があったからこそ、専門の学部を繋ぎ、全体で学際的な問題に取り組んでいく大学をつくろう、という発想ができたわけだ。半世紀前にはられた伏線が、講演の中で見事に回収されていることに驚かされる。

 

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現状を変えて行こうとする学生たちの活動から始まって、今の先進的なフィンランドのデザイン文化が形成されるに至ったという話。

 

7/23の夜、一時帰国中の川地君を囲む会合(於:渋谷のカラオケボックス)があり、そこで芸大デザイン科の院生である平山君にお会いした。

note.mu

彼はデンマークのコリングデザインスクール留学からの帰国直後で、芸大の現状に対して問題意識を持ち、学生と教職員が対話できる場をデザインできないか、と考えているそうだ。

このエントリを、未来をつくろうと行動している日本の学生達に捧げます。

 

古い船には 新しい水夫が 乗り込んで行くだろう
古い船を いま動かせるのは 古い水夫じゃないだろう

なぜなら古い船も 新しい船のように 新しい海へ出る
古い水夫は知っているのさ 新しい海のこわさを
(イメージの詩/吉田拓郎 1970)