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みえないものを、みる視点。

【過去記事再掲】学生と一緒に出演した教育映像「tunnel man」が公開

この記事は、2012年7月7日に書かれた以前のブログ記事を再掲しているものです。
 
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教育映像Tunnelman シリーズの "TunnelMan Episode 5 Permafrost history" が公開されました.2010年の夏にアラスカのフェアバンクスに滞在していた時,ちょっとしたご縁で僕と当時の研究室の学生2名と飛び入りで撮影に参加させて頂いたものです.よろしければご覧下さい.(写真は当時の学生だったO君とN君)
 

youtu.be

 

テンポが速く,ストーリがちょっと理解しにくいかもしれないけど,人類がアフリカを出たグレートジャーニーの始まりの頃からの気候変動が トンネルマンのバッジに記録されており,そのデータによると地球は絶え間ない大きな気候変動を続けてきたのだというおおまかな話.今は沈静化した感もある が,構想された2年前は地球温暖化で世界中が大騒ぎしていた.僕とO君,N君が出たのは,人類がシベリアに到達して偶然弓矢を発明した頃という設定である w


トンネルマンシリーズは,永久凍土の研究者,吉川謙二先生(アラスカ大)を中心として,アラスカのネイティブ(エスキモー)の子供達への教育を目的として作られたものだ.エピソード5まで作られ,今回のエピソード5が完結編となる.(エピソード2が一番完成度高い)(もうひとつ,ほのぼのとしたNG&未使用映像集


トンネルマンは,イントロだけ見るとチープなネタ動画と思われがちだし,実際,関係者で作っている一種の自主制作映画のようなものではあるのだが,よく解説を聞くと,非常によくデザインされた研究と地域を繋ぐ仕組みでもある.今回はその辺を少し書いてみたい.

まず前提として,普通に授業のような形式で説明すれば分かってくれる子供達ではないのこと.映像の中で扱っている内容は,アラスカ地方特有の地学の知識、例えば,永久凍土層がどうしてあるのかとか,永久凍土層の上にある氷柱の上に家を建てると,後日氷が溶けて家が傾いていくので建ててはいけないとか,彼らがそこに住み,住居を建てるために知っておかなけれなならない知識なのだけど,小さな村では,そういった真面目な話をしても,なかなか聞いてもらえないそう だ.

要するに教育困難校と同じような状態なのだが,吉川先生によると深刻な事情もあるらしい.エスキモーの生活が近代されて,従来の文化 には存在しなかったアルコールが持ち込まれたことによって,抵抗することもできずアル中になってしまう人が多いという.そしてさらに妊娠中であってもお母 さんは酒をセーブできず,その結果,生まれてくる子供達に発達上の問題がうまれてたりする,という話.(アルコールシンドローム

そんな 子供達は,彼らは黙って人の話を聞く集中力が5分と続かないようだ.そこで短い時間を出来るだけ有効に使って楽しく理解してもらおうと,吉川先生自ら謎の アメリカンヒーローに扮し,こどもたちをストーリーの中に誘う.見えにくい部分やわかりにくい部分は,CG研究者の協力を得てできる限りビジュアル中心に 説明する. そして大事なことを歌詞に埋め込み,彼らの遊びの中で覚えて歌ってもらえるように,過去のシリーズでは地元のミュージシャンによるラップ調の歌詞がつくら れたりもした.

しかしながら,吉川先生は,本業は教育者ではなく永久凍土などの極地の自然環境を研究されている方である.では,なぜ,研究者が子供達のためにそこまで情熱を注ぐのか?

吉 川先生の研究は,アラスカ(含む世界中の寒冷地150箇所)のポイントごとに大きな穴を掘って地中深い部分の温度を測定し,その変化のログをデータとして 記録するデバイスを埋め込むという,途方もなく大変な方法によるものである.その過程では必然的に地道な肉体労働が必要となり,とても一人の研究者だけで はできない.そこで吉川先生は地元の村の人々や子供達に研究の意義を理解してもらい,彼らの協力を得て,みんなで楽しく穴を掘るという住民参加型のワーク ショップ的な戦略を採られている.その一環として子供達をあつめてこの映像を上映するというわけだ.

タイムカプセルのように地中に埋め込まれたロガーはゆっくりと何十年も記録を続ける.時が経ち.やがて村の大人となった当時の子供達のおぼろげな記憶と伝承によって掘り起こされる.昔,自分の小さな村に特別に来てくれたアメリカンヒーローのために・・・.

僕はその話を聞いて感動した.こんな大きなスケールで世界の人々を巻き込んでいく日本人がいたとは.

吉 川先生は研究者でありながら,実は半端無いクラスの探検家でもある.南極点まで徒歩で到達したり,北海道からアラスカの北の端まで小さなヨットで航海して 氷漬けになったりと,とさまざまな探検のエピソードを持ち,知れば知るほど,今の日本人に,こんなタフな探検家がいたのかと驚かされる.なんといつの間に か,英語で伝記まで出版されてしまった.それだけ人を元気にさせる物語にあふれた魅力的な人だということであろう.

短い時間だったが,お会いできて良かった.想像通りパワフルでカッコいい人だった.引き合わせていただいた青木先生ありがとうございます.


以下,懐かしくなったので,当時の思い出の写真を掲載.

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吉川先生の家に早朝に集合し,朝ご飯を頂く.
アラスカのサーモンで作った手作りのイクラ!異様にうまい.
 

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訪問したのは9月頃で,アラスカは急ピッチで秋になっていく最中.柔らかい陽射しの庭にて吉川先生を囲み,しばし歓談.

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吉川邸は庭が広くて羨ましい.というかアラスカの家はどこもこんなものだけど.子ども達はサッカーを楽しんでいる.

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クルマでロケ地まで移動.いい天気.

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このへんはツンドラ地帯よりも少し自然が豊かなタイガ地帯とよばれる平野が広がっている.適当な平地を見つけてロケ開始.やおら原始人になりはじめる日本人達w


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僕も原始人に.
肌の白さとかメガネとか・・・・原始人じゃないな・・.

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トンネルマンからかわいがられるO君とN君.終始ノリノリである

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一段落して,地ビールのパブに連れて行ってもらった.

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アメリカンな雰囲気もよいが,いい汗かいたのでビールもうまい.

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夕食にはステーキ屋へ.
僕は年のせいで肉は好きじゃないので小さいのを頼んだのだが,学生2名はノリで最大のものを注文し,信じられないほど大きな肉が来たw

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もちろん食いきれるはずもなく,タッパーでお持ち帰り.そのへんは日本人にも親切だった.

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腹がはち切れるほど食べて,僕がホームステイしていたアンドレさんの家に送ってもらった頃には,オーロラがキレイだった.それはもう幻かと思うほど.

2年近く前のことだけど,今でも新鮮に覚えている体験です.