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みえないものを、みる視点。

高校生向け1DAY デザインワークショップを実施

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8/6(日)に,高校生を対象にした1DAY デザインワークショップを実施した.実施に至った経緯として,今の日本には高校生が情報デザイン周辺のことを学びたいと志望する以前に,そのようなことに思い至るきっかけすら少ないという事情がある.そこでわれわれの学部でも高校生に対してデザインを学ぶ機会を積極的につくってみようということで,試しに1日がかりのワークショップをやってみることになったというわけだ.

参加者は課程連携の高校生と,公募で集まった高校生達で計16名.高校生向けのデザイン教育については,先日も書いたように今後の必修化に向けて内容を充実させるためにもいろんな方向から検討されるべきだと思うので,まずは自分の事例を公開してみることにする.

 

1.題材について

1日まるまる使って企画して良いという好条件だったので,アイデア提案だけでなくてちゃん"ゴールまで進めた達成感"(目的1)を感じれる内容にすることをめざした.そして高校生がデザインしてみることを楽しめるものは何か・・・・を念入りに検討した結果,研究室の学生達の助けをかりながら「Tシャツ」という題材を探り出した.今の高校生達には,クラスTシャツ文化というのが広く根付いているんだそう.自分たちに馴染みがあり,作り手と使い手の立場を経験しているものだからこそ,改めてそれをフレーミング(違う枠組みで捉え直すこと)してみることに意味がある(目的2).

T シャツは形状から来た名前なので,ここでは会話を生み出す"Cシャツ"という造語をつくってみた.設定としては,無人島で高校生達を集めたプロジェクトのキャンプが開催されるとして(つまりクラスやクラブ活動などの所属コミュニティを外した一期一会の場で),Tシャツを媒介してどんなコミュニケーションを起こすことができるか,が主な課題ということになる.簡単そうに見えてもけっこう奥は深い.

 

2.一日を4つのフェーズに分割する

今回のワークショップは,優秀な個人の発想力や表現力に認定を与えることが目的のひとつでもあった.とは言え固定観念を外すためにはチームで考えることも大事なので,最初はグループワークでリサーチをはじめて,最後は個別ワークで終わるようにした.オーソドックスなデザインプロセスではあるが,僕はデザインのトレーニングにおいては「因果関係をつなげる視点を持つ」(目的3)ことが不可欠な条件だと考えているので,

このワークショップは「モノをリユース(再利用)して新しく価値を作りだすこと」を大きな目的としていますので,可能な限り新しく新品を買うのではなく,自分の家に眠っているもので使えそうなものを見つけるか,もしくは身近な人たちから譲り受けてもらえればとおもいます.(実はデザインは,素材をみつけることからもう始まってます)

という指令を事前に出した.どこからともなく素材が用意されているのはよろしくない.

 

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そういうわけで4つのフェーズに分ける.説明するときに気を付けたのは,4つのフェーズで「抽象的な世界」と「具体的な世界」を往き来することを意識させたこと.しばしばデザイン思考系ワークショップでも「プロセスを学んで、手続きにそって作業していけば答えにたどり着く」ような誤解が生まれるのだけれども,普通に横に進んでいくような図だと,ベルトコンベアみたいに目の前の流れだと思い込んでしまうんじゃないかと思うのだ.

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8ページの冊子をつくった.グラフィックにもこだわりたかったが,それよりも準備することが山ほどあり,間に合わせのレイアウトで何とかした.

冊子データはSlideShareで公開.

 

 

僕のワークショップに参加したことがある人は,ストーリー仕立てのイントロとか最後のページのチームメンバーのサインとか,いろんなところにこれまでの経験を使い回しというかノウハウを投入しているのが分かるかもしれない.どさくさに紛れて観光大使を任命されている阿久根市にある阿久根大島をアピールしておいた.

 

1.「しらべる」フェーズ

集合してグループ分けして題材の説明の後,まず「しらべる」ことに取り組む.

1)自分たちの経験を相互にインタビューする

2)ちょうどオープンキャンパスが開催されているので,学内をフィールドワークして人々が何をどのように着ているかを観察する.

という二つの方法で気づきを集めていく

 

せっかくの他校生と話す機会なので昼食時には楽しく会話して欲しいな,ということでチームで食事しながら学食の中で観察し続けることを指示.なお,これは初対面同士という,今回の題材にある無人島キャンプでのコミュニケーションを疑似的に体験することでもある.題材がリアルな状況の中で重なるはず.

 

2.「ねらいをさだめる」フェーズ

オープンキャンパスが開催されている10号館から移動して,ネットワーク情報学部の演習室が集まる1号館へ.そして午後の部「ねらいをさだめる」フェーズが開始.みんなフィールドワークをやってみたら想像以上に面白かったようで,いろいろと各自で発見したことを報告してくれた.

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気付いたことを単位化しつつ,ホワイトボードで一覧化して考え始める.

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だんだん打ち解けてきて,どのチームも意見を交わすのが楽しくなってきているようだ.

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高校生もいろんな視点だしているのだね.ポストイットがとても面白かった.

ここでの抽象化はやろうと思えばどんどん深くはまってしまうので,手短に整理しつつ個人の中で気になったことをピックアップして題材にするという方法にした.

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準備したワークシートにあわせてコンセプトを絞り込んでいく.リサーチから気付いたことを使って,特定のシーンを決めることがポイントである.

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吹き出しを貼りあわせて,想定される会話のシミュレーションしてみる.

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ダメ出しを受ける.

ねらいをさだめつつ,どんな風につくるかのアイデアスケッチをはじめる.

 

3.「つくりながら考える」フェーズ

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いよいよ本制作.卒業研究で外来植物をつかったデザインワークショップを進めている上平研究室のOさん(4年)が布に関する着色や加工についての説明をする.

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各自,アイデアに従って,プロトタイピングして考えていく.フリーハンドで本制作する場合は,FABRIER(ファブリエ)という樹脂顔料を使って描画する.

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またはIllustratorをつかってアイロンプリントのデータをつくる.Illustratorの使い方も教える必要があるので,受講生16人に対して在学生アシスタント10人を動員,それでも大変だった・・.

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 わっせわっせとアイロンでプリントする.ちゃんと定着させるのは結構難しい.

そしてあっという間にタイムアップ.

4.「みんなで共有」フェーズ

全員でコンセプトと制作物のプレゼンテーションをする.終盤はちょっとバタバタしたけども,ちゃんとリサーチからコンセプトを決めてから表現したことが生きていて,単なる飾りつけではない成果物になった.みんなとても面白い.

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こちらは,何箇所かにプリントされた図柄をつかってゲームのような形式でグループ分けができるというアイデア.この生徒さんは午前中のリサーチの時点からいい視点を持っているな,と思っていたが,やっぱり制作物も面白かった.

 

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 僕がいちばん感心したのはこの生徒さん.背面にもユニークな仕掛けがあるのだが,首元に首飾りのようなビジュアルで,その人が「呼ばれたいニックネーム」がプリントされているというもの.最初はインスタのアカウントで考えていたそうだが,自分でよく考えた結果,キャンプという非日常の場においては,目の前で会って名前を呼ぶ,ということが一番のコミュニケーションの原点ではないか,と思い至ったそう.シンプルなアイデアだけれども見落としがちなことだし,安易にSNSと繋げないで「いま,ここ」にある対面の会話の価値を何より大事にすべきだ,という主張は傾聴に値する.

 

経験値の少ない高校生のデザインでも,ちゃんと思想が込められたものは美しいし,彼らがそういうことに挑戦する機会を社会の中でもっと用意することが大事だろうと改めて思った.

 

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完成したものは,ビニールバッグに入れ,表面にステッカーを貼ってパッケージにして持ち帰る.(中に入っているTシャツはダミーです)

コルクの製品タグにはDesigned by _____と参加した生徒の氏名が刻印されている.ロゴは学生のSさん(3年)がデザインし,タグ作りはY君(2年)が担当してくれた.つくったものをそれっぽいかたちに位置づけることも,けっこう大事.

 

最後にはTシャツ着て屋外でカメラマンによる写真撮影する.そこからポストカードに印刷して持ち帰るというのまで企画してたけども.これはさすがに時間不足で断念.

 

最後に使うはずだったが使わなかったスライドより.

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デザインとは何か,なんてなかなか説明しても伝わらないものだけど,実際にやってみた直後だと,こう言った抽象的な言葉もちょっと腑に落ちたりするもの.デザインとは単に見た目や印象の話しではなく,how it works(どう動作するか)だ,というのはこのワークショップでも全く同じことである.(※how it worksを「どう機能するかだ」と訳してるサイトが多いが,機能という言葉だとだいぶニュアンス変わる気がするのであえて直訳にする)

 

まとめ

もうちょっと制作環境を整えないと,つくりながら考えるところの密度は高くならないが,リサーチを取り入れることで「ただ好きなモノをつくる」にはならず,「状況を考えながらつくる」ことに繋がっているとは言えそうだ.

とりあえず,1)「ゴールまで行く達成感」,2)「リフレーミングする」,3)「因果関係をつなげる視点を持つ」という当初の目的3つについては,わりと達成できたのではないかと思う.材料や制作環境などの準備に必死でアンケートをとりそびれたのが大きな反省点で,ワークショップを通して高校生が何に気づき何を考えたかを把握するためにも次はちゃんとデータ取っておかなければ,と思った.