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みえないものを、みる視点。

笑いを教えるということ:お笑いコンビ・モクレンの講演より

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6/13(火)のこと,若手お笑い芸人のモクレンのお二人をお招きして,1年生250人に対しての講演と,その後に学生と教員有志に対しての即興コメディのワークショップを実施した.モクレンのお二人とは先日グラグリッド社で行われたフォーラムシアターでの実験で知り合い,ちゃっかり大学へもお願いしてお越し頂いた次第である.彼らは単なるお笑い芸人ではなく,教育のバックグラウンドを持っており,そしてインプロと笑いを融合させた新ジャンル,「即興コメディ」を標榜し,日本即興コメディ協会という組織を立ち上げるという活動も行っている.

 

 ワークショップも進行やワークの展開がすべて即興で成されていくのが大変に素晴らしかったのだが,その前の講演がとてもよくて,僕の心に残ったのでメモを残しておきたい.

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題目は「笑いを教えるということ」というもので,おまかせで依頼したので僕もどんな内容になるのか知らず(おい),笑いの原理や方法を教えるのかな,と思っていた.ところが話しの核心に入って紹介されたのは,実に深いエピソード.

 

ちょうど講演の1週間ほど前に,二人はとある高校へ講演しに行ったのだそう.そして講演が終わり,その後の質疑のときに,ある生徒が「何か一発芸やってくださいよ」みたいなことを(たぶん失礼な態度で)発言したらしい.

 

それに対してモクレンの矢島さんは,その発言を受けてそのまま芸をするのではなく,「君の手には乗らないよ.だいたい君は僕が何をやっても笑わないつもりでしょう.そうやって安全圏から人に無茶振りを命令して,うまくいかなくて滑ったところを一方的に笑いものにしようという姿勢は,間違っていると思うよ」とピシリと叱ったという.

 

「笑いのプロ」として講演に呼ばれた先で生徒を「叱る」とは,いやはや矢島さんはものすごい漢だと思わず唸ったが,彼によると,その背景には昨今のテレビ番組で氾濫している「いじり・いじられ」がある.実際にはいじられている芸人さんはあくまで設定の上で演じているだけであって,実際の姿というわけではない.リアクション芸人に対しても収録が終わったらみんなビシッと整列して『出川さん,ありがとうございました!』とか『上島さん,申し訳ありませんでした!』と挨拶するそうで,みんなプロの演技に敬意をもって接しているわけだ.でもそういった舞台裏はお茶の間までは届かない.なので視聴者側としてはたぶん多くの人が舞台上のフィクションとしてやっていることと本当の人物の姿を区別することはできない.今の若者達は日常的にそういった番組を見て育っていて,その結果,いじって笑いものにする風潮,つまり「嘲笑」のふるまいを一般的な笑いの作法として学んでしまい,普段のクラスメイトとのコミュニケーションにも大きな影響を与えているんだそうだ.もっと言えばそれらはいじめの発端にもなっているということである.

 

「適切な笑いはコミュニケーションの潤滑油にもなるけど,間違った使い方をすると,人を貶め,ひどく傷つけることにもなる,だからその状況でいじられた方がどんな気持ちになるのか,みんなもよく考えなきゃいけないよ」ということを矢島さんは力説していた.そしてうちの学生達もみなこれまでの学校生活で思い当たるフシがあるようで,みんな水を打ったように静かになった.

 

確かによく考えてみれば,「笑いの作法」は,社会の中の誰も教えてはくれない.小中学校では生活指導は大きな要素だが.成長するにつれて先生が教えるのは主に教科の内容だけになっていく.生徒同士のプライベートな会話は先生には見えない.親も子供同士がどんな会話をしているのか知らない,(僕もそうだが)知りたくても家からは見えない.

 

また,笑いは非常に文脈的で感覚的なものであるがゆえに,普通の人は違和感を感じたとしてもなぜそう感じるのかを適切に言語化できるわけじゃない.でも言語化する努力をしなければ,「なんでいけないの」ということを子供が納得する言葉を用いてただしていくことは難しい.誰かが,笑いの構造を言葉でちゃんと説明する必要があるのだ.

 

フィクションはメディアを経由して静かに我々の常識を侵蝕していく.それらを通してこども達が「学んでいく」ことは実際の社会同様に光と影があるのは避けられないとしても,それに対して,大人の側にも規範の基準を持って諭していく必要があるのだよな,決して「自分はよくわからないから」と人任せにしてはいけないな,ということに気付かされた一時だった.

 

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二人は今週木曜から単独ライブを開催するそうです.

natalie.mu

 そして今月.矢島さんは本を出版されるそう.

yajimatalklive.peatix.com

 上平はモクレンの二人を応援しています.