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みえないものを、みる視点。

「公共のデザイン」についての重要な論文が公開

 5月9日, クリスチャン・ベーソン(デンマークデザインセンターCEO)がコペンハーゲンビジネススクールに博士論文を提出して博士号を授与されたとのこと,

 

 クリスチャン・ベーソンといえばデンマーク政府のイノベーション機関であるMIND LABのヘッドからデンマークデザインセンターのヘッドに移籍すると,ただちにそれまでの家具や照明などのインテリアといったモノ中心の"デンマークデザイン"の看板から,サービスを中心にしたコトのデザインへと方向性を大胆に切り替え,それを主導してきた重要人物.公共政策へのデザイン導入の取り組みはデンマークは世界的にも進んでいるけれども,それはベーソンのリーダーシップによるものも大きいと言える.(余談だが,デンマークデザインセンターには以前は地下には国立デンマークデザインミュージアムよりも充実したコレクションギャラリーがあったのに,彼がヘッドになってからバッサリと断捨離してしまい,伝統に対するその未練の無さぶりに僕はあっけにとられた)

 

その彼が公共のデザインに関する論文をまとめたというからこれはニュース.そしてコペンハーゲンビジネススクールのサイトで博士論文は全文(381ページ)が無料公開されている.

 

 アブストラクトだけ訳してみたので,ご参考までに.

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「公共のデザイン」を先導する:公的な統治を変革するためにマネージャーはいかにデザインに取り組むか

近年,デザインは先進国から新興国にわたって公共政策や公共サービスを形づくるひとつのアプローチとして浮上することになった.しばしば高まる改革への要請に応じて、国際機関,国,地方公共団体,財団法人,慈善団体,ボランティアやコミュニティ団体、教育機関など、あらゆるレベルの組織は,デザイン領域に触発された様々なアプローチを取り入れてきた。
しかしながら、それらデザインのアプローチが公共のイノベーションにどのように影響するのかーそれが公的機関のマネジャーの役割をどのように変え、どのようにマネジャーが新しいアイデアやソリューションを生み出すのを助けるのかーそれは一部の人々がこれまで提唱したように,新しい政治モデルやパラダイムの台頭を示唆しているかもしれないのだが―これらの問いは、これまでいくつかの例外を除いて厳密に探求されたことがなかった.この博士論文では、デザインアプローチの利用を開拓したパブリック・マネジャーの経験を調べることによって、これらの問題を探究する.


具体的には、著者は次の3つの問いに取り組む。
1)デザイン実践の特徴づけ:公共部門の組織内でデザインアプローチの適用に必要とされるものは何か? なぜパブリック・マネージャーがデザインに期待を寄せ,デザインを作動させるのか? どんな道具、技術,プロセス,およびメソッドが使用されているか?
2)変化の触媒としてのデザイン:パブリック・マネージャーがイノベーションのための問題や機会にどのように関与するかが影響するとすると,どのようにデザイン・アプローチを行うのか?デザイン・アプローチを取り入れることは,パブリック・マネージャーが賢明に努力している変化を達成するために,どの程度まで役立つのか、そしてそれは何故か?
3)新たな公共統治の形態:デザイン・アプローチの結果として生じるアウトプットはどのような形状をとるのか?デザインアプローチと,新しい種類の公共のソリューションと統治モデルの出現との間には何が関係しているのか?

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以下はScience Direct誌によるベーソンへのロングインタビューより.

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This figure shows the ways managers engage with an issue, and this is actually something they do before design enters the picture, at least to some extent. Sometimes they invite designers to help them challenge their own assumptions about the problem. But they have a history of doing so without the help of design. But the issue is sort of prompting them to say, “Hmm, how do we know this, how do we know what the users, or X culture, or Y age range want or feel? I don’t know this, how do we know that for certain?” So, here is where they engage with ethnographic research. And then they invite in design, and then the empathy or the richness that the ethnography provides is what they use to engage their staff and employees and say, “We need to address this.” And then they begin to steward the organization’s divergence—they support exploration away from what the organization currently knows toward new ideas and visions. And they are using design processes to support that navigation of the unknown.

Christian Bason: Design for Public Service - ScienceDirect

 

日本でも公的な場においてデザインのアプローチを取り入れる試みに関心を持っている若い人たちが徐々に増えているが.こういった優れた事例を参考にして新しい取り組みが加速することを期待したい.

 

そういえば,デンマークでベーソンに会った際,CoDesignのベースになるdemocracyのマインドを日本人が育むためにはどうすべきだと思うか,と彼に意見を聞いてみたところ,「きっと君の求めるヒントはデューイにある.彼の思想は参考になるはずだよ」とアドバイスを頂いた.彼からもらった宿題のままだな・・・と思い出していたら,彼の論文のイントロダクションはデューイの引用から始まっていた.ちゃんと勉強しなきゃ.

 

kmhr.hatenablog.com