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みえないものを、みる視点。

〈読書メモ〉多層的な参加の構造

http://filmart.co.jp/wp-fa/wp-content/uploads/2015/03/9784845914500.MAIN_-203x300.gif

 

「ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門」フィルムアート社(2015)より。

原点の題名は、Education   for Socially Engaged Art: A Materials and  Techniques handbook (2011) 著者の多くの実践経験を元に、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの光と影を、教育学・社会学・哲学などの理論を幅広く参照しながら、批評的な視点で考察した本。

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以下引用

 

B|多層的な参加の構造

「参加」は包括的な言葉であり、芸術の周辺ではその意味を見失いやすい。単に展示室に入ればそれは参加になるのだろうか?それとも作品の制作に関わる時に限って参加者になるのであろうか?自分自身が芸術作品の制作過程のまっただ中にいながら、関わることを拒否する場合には、それは参加していると言えるだろうか?
「参加」には先に議論したように、SEA(ソーシャリー・エンゲイジド・アート)と同じ問題がある。
<中略>
高度に洗練されたSEAの中には、鑑賞者のエンゲイジメントのレベルに従って多様な参加の層を提供しているものがある。参加の層を以下のように試験的に分類してみよう。


1)名目的な参加(Nominal Participation)
来訪者や鑑賞者は、内省的に、受動で孤立したかたちで作品を凝視する。


2)指図された参加(Directed Participation)
来訪者は作品作りに貢献するためにシンプルな課題をこなす。例えばオノヨーコの〈Wish Tree〉


3)創造的な参加(Creative Participation)
来訪者はアーティストが設定した構成に基づき、作品の要素となるコンテンツを提供する。例えばアリソン・スミス〈The Muster〉


4)協働の参加(Collaborative Participation)
来訪者はアーティストとコラボレーションや直接対話を通して作品の構成やコンテンツを展開させる責任を共有する。例えばキャロライン・ウラードの〈Our Goods〉

「1:名目的な参加」と「2:指図された参加」は、たいてい一度きりの出会いで終わる。一方で「3:創造的な参加」と「4:協働の参加」は、より長期間にわたって展開する傾向がある。1と2のレベルの参加を組み込んだ作品の方が、3または4を特色とする作品よりも多かれ少なかれ思い通りに行くが、魅力的になるとは限らない。


それでも、参加レベルの区別を心にとどめておくことは重要だ。それは少なくとも以下の3つの理由からだ。第一に、その区別は、ある参加の枠組みにおいて可能なゴールの範囲を明確にするのに役立つ。第二に、後述するように、それは作品の意図がどの程度実現したかを評価するときに参照する枠組みをつくりだす。第三に、ある作品に要する参加のレベルを考慮することはその作品がコミュニティ体験をつくりだすときの手法の価値判断と密接に結びついている。

参加のレベルに加えて、個々人が個別のプロジェクトにどのような気持ちで参加するのかを認識することも同じく重要である。ソーシャルワークの場合、ソーシャルワーカーが交流する個人やコミュニティの傾向は、以下の3つのグループに分類される。

1:積極的に喜んで活動にたずさわる人々=自発的(Voluntary)
例えばフラッシュモブのようなタイプ

2:強要されて、または命令によってたずさわる人々=強制的(Non-Voluntary)
例えば高校の1クラスの生徒が活動家のプロジェクトとコラボレーションする

3:公共空間で、偶然(アートプロジェクトだという)状況をあまりよく知らないで遭遇する人々=非意図的(involuntary)

(P49-52)

<中略>


目的が明確に設定されていれば、きわめて限られた時間内のエンゲイジメントでも、実りあるものに出来る。コミュニティ・プロジェクトにおける問題の多くは、予想される時間的な投資に対して非現実的なゴールが設定されることによって起こる。SEAプロジェクトは、アーティストに対して著しく多大な時間と努力を要求しがちだ。
(P56)

 

引用ここまで。


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アートをデザインに読み替えれば、CoDesignとほとんど共通する話だ。建築だけでなく現代アートでも社会に開かれていく動向があるのがなかなか興味深い。

 

たしかにこの本は、理論書でもなくハウツー本でもない。「むしろ彼は、人々とエンゲージするアートを実践する上で、教育学や社会学、コミュニケーション論、現代思想など、人と人の関わりを軸とする研究分野における多くの成果からSEAにいかせるであろう知識や情報を共有することに力を注いでる。そしてそれを表現の自由への制約や足かせとするのではなく、アーティストの活動を理論的も実践的にも支えるものにしようとしているのだ」(訳者あとがきより)

こういったアカデミア発の書籍のスタイルは参考になる。

 

そして、積読を消化したちょうどのタイミングで、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」展が開催されることを知った。

会期:2017年2月18日(土)〜3月5日(日)
開館時間:11:00〜20:00 (最終入場19:00)
休館日:なし
会場:アーツ千代田3331
観覧料:一般1000円/大学生以下500円(要学生証)

​http://sea2017.seaexhibition.site/

近年、アートの新しい潮流として注目されている「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)」は、現実社会に積極的に関わり、人びととの対話や協働のプロセスを通じて、何らかの社会変革(ソーシャル・チェンジ)をもたらそうとするアーティストの活動の総称です。本展では、とくに3・11以降顕著となった、社会への関わりを強く意識した日本人アーティストの活動に注目し、アイ・ウェイウェイ、ペドロ・レイエス、パーク・フィクションなど海外の代表的な作家やプロジェクトとともに紹介。東京を舞台に5つのプロジェクトも実施します。日本で初めての本格的なSEAの展覧会としてご期待ください。

http://www.art-society.com/researchcenter/wp-content/uploads/2017/01/SociallyEngagedArt.jpg