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みえないものを、みる視点。

【前編】ノンデザイナーは、いかにデザインに関わっていくか?

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ちょっと間が開いたが、ブログ読者からのお問い合わせに答えてみよう、の第2弾。質問者の方は大学では文系の学問を学んでいたそうで、社会人になってしばらく経ってからデザインを学びたいと考えておられるそう。そこで頂いた質問は、「いわゆる"デザイン"のバックグラウンドがない者ができることには,例えばどんなことがあるのか」。

 

近年、"デザイン思考"という言葉が普及したのに伴って、デザインは「デザイナー」だけがやるものではない、という共通理解も徐々に出来てきたように思います。しかしながらその一方でデザイン思考を学んでも旧態依然とした社会の中でどのように活かせるのかのイメージが持ちにくいというのは多くの人が感じていることでしょう。特に「どういう仕事に繋がるのか」が見えないようで、学生達にもよく聞かれることです。というわけで指導してる立場としては、この質問にはちゃんと答える必要性を感じています。

 

結論から先に言えば、医療、教育、介護、看護、自治体、農業、林業、漁業、飲食店経営・・・・数え切れないほどの多くの社会の現場でデザインの力は必要とされていますし、そういった場で多くのデザイナーが越境して問題の創造的解決に取り組んでいます。ですが、本当はデザイナーじゃなくて問題の「当事者」がデザインできるのであればそうするのがいいはずですし、どんな関心事にもデザインを学んだことはきっと活かせるはずです。

 

ユニークな取り組みを5つほど紹介してみましょう。いつもはデンマークの事例ばかり紹介していますが、今回は身近に感じれるように日本人の個人レベルの事例に絞ってみます。いずれも以前からあるような仕事ながら、あたりまえを疑い、自分で魅力的な仕組みをつくりあげた人達です。こういった取り組みに、僕はデザインマインドを感じます。

 

 

1:メサグランデ

カフェ経営にもデザインはあります。運営している田代美香さんは僕がとても尊敬している人で、カフェという場を起点にして食と農を通じた地域コミュニティづくりを実践しています。誰でもカフェを開けるワンデイシェフや、夏休みに給食が無く困っている親子のためのサービスなど、地域密着型だからこそできる、興味深い取り組みばかりです。

mesa-grande.blogspot.dk

 

2:小泉農園

農業におけるデザインは世界的に見てもホットなトピックです。研究室でもお世話になったことがありますが、小泉農園の小泉博司さんは農園フェスを企画するなど、斬新な試みを続けています。

www.advertimes.com

 

3:未来食堂

だれもが当たり前だと思っている「食堂」をリフレーミングして新しい価値を創り出した、一種のスタートアップです。

www.projectdesign.jp

 

4:マミオン有限会社

高齢者のパソコン教室とシニアマーケティング業を併置するというありそうでなかったビジネスモデルを持つ会社です。パソコン教室にやって来た高齢者達にお願いしてリサーチに協力してもらい、そのデータを活かしてコンサルティングする。高齢者はテストに協力することで安く学べるという互酬性があります。

mamion.net

 

 5:専修大附属高校 杉山比呂之先生

高校の日本史教員・・・と聞くと、デザインとは全く関係のない人のように見えます。それでも面白い人は独自の取り組みを行っています。知人の杉山先生は、土曜講座という私立高校独自の仕組みを活用して、高校生向けにチームビルディングのワークショップや大学生と連携したワークショップ活動を行っています。大学に進学した教え子たちを巻き込んで、異年代交流のコミュニティを創り出し、相互に刺激を生みだしているのがとても上手いと思います。

www.s-teamdesign.org

u17.shingaku.mynavi.jp

 

 

さて、ここまで紹介したところで、これらの人々は創造的であるとはいえ、いずれもデザイン(含むデザイン思考)を学んだ結果として生みだした、というわけではないことに気付かれたでしょうか。そう言う意味では答えになってないのかもしれません。ですが、デザインを学ぶことは、上の事例のように、誰もが当たり前だと思っていたことの関係を組み替えていくようなマインドセットの基礎となるはずだ、と僕は信じています。

 

デザインというのは専門性を持った縦軸というよりは横軸であるというのが僕の解釈です。最も大事なことはそれぞれの場所にいる人々に対する視線であり、さらに言えば"愛"です。デザインマインドを携えることで、「自分の目の前の仕事を創造的に変えるプロ」になれるはずです。ですので上に挙げたような仕事だけでなく、デザインが要ると思われてない未開拓な職種ほど、チャレンジングな可能性を内包しているのではないでしょうか。

 

 

後編では、デザインに関係するけれどもトラディショナルなデザインとはスキルセットが異なる専門職種をいくつか紹介したいと思います。

kmhr.hatenablog.com