読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

クリエイティビティを生む多層的な仕組み:エグモントホイスコーレン訪問

f:id:peru:20151025031629j:plain

10月22日(木)。エグモントホイスコーレンを訪問してきた。ホイスコーレンとはデンマーク独自の教育制度で、年齢制限をクリアすればだれでも学びにいくことができる学校である。比較的短期間でも在籍できるので、デンマークの人々は自分の可能性をさぐるために参加したり、ジョブチェンジの合間に自分をふりかえって考えるために通ったりする。詳しくはNaoya君(ITU)の記事を参照。

hyggelig-news.com

f:id:peru:20151025031619j:plain

そして、エグモントホイスコーレンは、障害者と健常者が共に学ぶことができる特殊なホイスコーレンである。コペンハーゲンからは電車とバスで4時間ほど、オーフスからは1時間ほど。Odderというとても小さな街にある。

f:id:peru:20151025031622j:plain

到着してみてびっくり。なんとモダンな建築!サイン計画も素晴らしい。長年ここの教員として活躍されている片岡さんに案内して頂いた。

f:id:peru:20151025031633j:plain

エグモントの地図。在籍者全員で200人超とのことだが、全寮制なので宿舎も敷地内に併設されており、沢山の建物がある。

f:id:peru:20151027221123j:plain

ちょうど体育館ではボルダリングの演習中だった。この体育館にしても特設プールにしても、長年障害者たちと共に得てきた経験値が惜しみなく投入されていて、あちこち仕掛けが張り巡らされていて本当に素晴らしかった。

f:id:peru:20151025031700j:plain

エグモントホイスコーレンは、直接デザインの学校というわけではないが、デザインのフィールドとしてはこの上ない良質のコミュニティになっている。いわゆる障害者向けデザイン、という矮小化するような固定観念を外して、もうすこし広い文脈から解釈してみると、このコミュニティを形成している仕組みは大変興味深い。

 

1)ここは学校である。語学からスポーツ、アートまで各種授業が展開されている。この日学生から聞いたところによると、いっしょにボードゲームをする、という授業まであるようだ。ITやハードウェアの進化によって障害者もハンディキャップを軽減することができるようになったわけで、平等な態度(Equality)で同じ科目を学びあい、世界中からやってきた仲間達と相互理解を深めることができる。学生は数ヶ月〜数年で少しづつ入れ替わるため、新陳代謝もある。

 

2)ここは(学校に在籍している期間限定の)施設である。障害者ができるだけ苦労しないですむように、校舎や設備、人的ケアも充実していることはもちろん、障害者の学生は健常者の学生をヘルパーとして雇うことが出来る。健常者の学生は身近でケアの直接経験を得られることに加えて、ギャラも支払われ、お金をもらいながら学校に行けるというメリットもある。

 

3)ここはラボである。学校生活を営む上で障害者が対面するであろう、さまざまな問題点が日々発生し、それらに対する解決案をみんなで考えている。さらに利用者と人工物が長期的に接する生活のコンテクストの中で、機器のデザインに関する問題点の改善や、エクストリームユーザから新しい発想を得られる場となる。

f:id:peru:20151025031636j:plain

例えば彼は電動車椅子で自由に校内を移動し、指を使うことなく、タブレットiPhoneを同時に使いこなしてコミュニケーションをとることが出来るようだ。なんてハイテク。

f:id:peru:20151025031642j:plain

例えば、ある部屋にはヨーロッパでは珍しいウオッシュレットが完備されているが、使われていないという。それはなぜか。答えはナイショだけど、便利になるであろうことを願って作られたものがなぜかうまく機能しない理由を現場のコンテクストを丁寧に調べるで理解することができる。そして、メーカーサイドにとっては新しいインサイトを得られる場でもあると言える。

f:id:peru:20151025031647j:plain

4)ここは開かれたリゾート地である。敷地内にはコテージが10棟ほどあって、だれでも借りることができる。自然も素晴らしく、砂浜も近い。海辺近くにはサウナもあり、人々が出会うことができる。例えばエグモントに通っている障害者の家族が滞在して一緒に過ごしたり、バカンスを楽しむことが出来る。

 

・・・まだまだ挙げることはできるが、こんな感じで、創造的な活動を生み出す母体として、この多層的な仕組みとそれぞれの層の特性は理想的なぐらいにとてもよくできている。直接に障害者を対象にしなくても、いかに組織的にデザインをしていくかを考える上で様々なヒントが埋まっている、と僕は思う。

f:id:peru:20151025031653j:plain

公的な機関でありながら産業界と連携してつぎつぎと先進的な試みを行っており、経営も上手く行っていることがなお凄い。もちろんこの仕組みは裏に仕掛け人が居て、このLauth学長夫妻である。前職はデンマーク文部大臣の特別顧問だったそうで、そこから経営が危なくなってきたこの学校に転職して、隅々まで改良出来ることを考えてライフワークのようにこの学校を少しづつ育て上げてきたとのこと。この学長の仕事のスケールには圧倒される。

 

素晴らしい事例を見れて大変勉強になった。片岡さん、Lauthさん、柴田さん、小林さん、お忙しいところご対応くださり、ありがとうございました。

 

 

追記。

エグモントにやっとくることができて感慨深い。ここは研究室の学生含めて日頃学ばせて頂いているデザイナーの磯村さん(株式会社グラディエ)が5年ほど前に在籍されていたところであり、彼にデンマーク福祉思想を実現している場所であることを教えてもらった。そして僕は当時磯村さんが日々書いていたブログによって、デンマークへの関心を持ち始めた。今僕がブログを書いているのは、彼の影響でもある。僕が磯村さんのブログがきっかけであったように、このブログもいつかだれかのきっかけになればいいな、と思って書いている。

 

isoamu.exblog.jp