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みえないものを、みる視点。

人々が議論を楽しめるような仕組みを作ること:スイスで見た二つの展示

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バーゼルの歴史博物館に立ち寄った際、「Point de swiss」というとても興味深い展示をやっていた。パブリックスペースとインターネットで収集したデータをベースにした統計のアートプロジェクトである。国民にプレイフルなサーベイ方法で根掘り葉掘りいろんなことを聞き、それを視覚化することで議論の材料にする、というわけだ。ちょうど国の選挙の1週間前、というタイミングだったこともあり、政治に関する関心を高めるための企画らしい。

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「誰or何が、将来のスイスで影響をもつべきか?」調査結果では州、国民投票、が拮抗している。ふむふむ、スイスの直接民主制も州単位で考えていくべきと考える人が多いのだな。

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 いわゆるポリティカルな質問だけでなくて、ところどころ極めてパーソナル質問があり、回答している人々の人生が浮かび上がってきて面白い。右パネルの質問は「近しい友達は何人いますか?」。

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会場のパネルはスイス国旗の朱赤と白で統一されていて美しい。このキューブのイスは街中で宣伝になるように(?)、運搬・組み立て可能なかたちで売店で販売していた。ツールとして機能するように考えられていて、細部までこだわっているのがさすが。スイス・スタイルのデザインが展開され、今日ではこういった(デザイナーが関わらなかったであろう)場でも活躍しているとは。

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ディスカッションの会場。この外側の壁は、20年後のスイスはどういう国でありたいかを個人が自由に書き込みできるようになっていて、書き込みの豊富さが印象に残った。

 

このプロジェクトは、スイスのアーティスト(Com&Com,IIPM)とリサーチャー(バーゼル大学の社会学者)たちによって発想され、彼らのコラボレーションによって実現されているとのこと。

 

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そしてもうひとつ。前日にチューリヒで見た展示もメモ。こちらはU-TT(Urban-Think TANK)という学際的なデザインチームによるもので、U-TTはスイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)の都市デザインの研究室でもあるらしい。

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中央でコアな質問を投げかけ、さらに天井ではYesとNoのそれぞれの視点を提示し、さらにその先には彼らの取り組んだ事例がある、という展示の仕 掛け。

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 観客に単に作品事例を紹介するのではなく、疑問を投げかけ、ディベートに参加しているような感覚で入り込めるのが大変面白い。こういったかたちで、 意図的に挑発するのが彼らのスタイルらしい。

彼らのデザイン哲学は"トップダウン戦略とボトムアップ戦略を包含するカタリスティック(触媒)アプローチ"と説明されていた。

"UT-Tは、デザイナーたちはもはや消極的な姿勢ではいられないと主張する。彼らは自分の仕事が意味のある違いを作れようが作れまいが、自分自身と世界全体に問うべきである。イエスかノーか。"(展示パネルより)

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この日はホテルにチェックインしたあと、すぐ近くにETH Zurichがあることに気付いた。アインシュタインが教鞭をとっていたことでも知られる世界屈指の名門大学である。そしたら偶然そこのエントランスでこの展示をしていたというわけである。

 

二つの展示では、スイスの人々が相互に議論するために、それを楽しめるような仕組みを創り出していることが興味深かった。うん、ここにはリアルなデザインがある。予期しないことに出会えることは旅の醍醐味であるが、自分の関心事に近い展示に出会えたことはラッキーだった。