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みえないものを、みる視点。

現代に蘇る先駆的なデザイン哲学:Aalto大学訪問記

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 9月7日(月)、フィンランドの誇る名門、アアルト大学を訪問してきた。モバイルメディア研究者の岡田先生(関西大教授)がちょうど客員教授として滞在されているので、いろいろ案内して頂く。なお、岡田先生とは初対面だったのだが、サバティカル先に当初は僕の滞在しているITUを考えていたそうで、逆に僕もアアルト大は候補のひとつだったので、世間は狭い。(引き合わせてくれた森さん、ありがとう!)

 

アアルト大は、それぞれ歴史のある3つの単科大学が合併して2010年に出来たばかりの新しい総合大学であり、フィンランド政府が国策としてイノベーションを生み出すために創り出した教育実験機関として世界的に注目されている。アート&デザイン、ビジネス、エンジニアリングの関わり合う学際領域というのは、新しい異種交配を生むための理想的な構成で、その組織によって実際にどんな研究・教育が行われているのか、とても興味があった。

 

 以下スナップ。

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同行した上松先生とメディアラボのarkiリサーチグループの定例ミーティングに混じる。その後にディレクターのkari-Hansに時間とって頂いて議論させていただくことができた。Kari-Hansとお会いしたのは、いつのまにかもう10年以上前か。Kari-Hansは親日的な人で、発言も「福岡の活気は今面白いね」とか「xx大学は戦略的に動いていて、うまいぞ」とか「日本の大学教員は忙しすぎて気の毒だ」とか、やたら日本の事情に詳しい。

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彼らのウェブサイトで関心持っていたツールキットの話を振ったら、現物を頂いた!ありがたい。こっちからも送らなきゃ。上のパンフは、九州大とアアルト大の共同プロジェクト、Redesign of Society

 

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メインのOtaniemiキャンパスにある、デザインファクトリー。大規模な空間に機器も充実しており、これは実に羨ましい。他にもメディア・ファクトリー、サービス・ファクトリーがあって、それらが学部横断的なプロジェクトで使えるように独立して運営されていることがポイントらしい。

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有名なインキュベーション施設、スタートアップサウナ。イベントスペースとコ・ワーキングスペースになっていて、学生だけでなくだれでも利用できるそうだ。リラックスしながらビジネスを生み出すために空間が工夫されている。スタートアップらしきチームが(起業にむけてか)せっせと仕事していた。

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サウナは喩えかと思っていたら、本当にサウナらしきスペースがあって笑った。サウナ内にホワイトボード完備。由来を知らなかったが、これは学生たちの始めたサークルが母体のNPOだという。フィンランド全体のスタートアップの盛り上がりもあり、情報発信地かつ起業家と投資家をつなぐコミュニティとして徐々に成長してきたようだ。

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午後から、ちょっと離れた所にあるアラビアキャンパスに移動。こちらはイッタラの工場跡地だそうで、アートスクール系の学科がたくさん入っていた。アアルト大にも伝統的なコースたくさんあるんだな。

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大学院修士Creative Sustainability学科。学際を狙っているからこそ可能な領域に挑戦している。

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テキスタイルの学科もとても立派な設備がずらり。それらをつかって学生達が熱心に織っていた。

 

岡田先生に一日丁寧に案内していただいて、研究内容に加えてなによりもコラボレーションを前提として作られた大学だけあって、組織の設計がすばらしいことがよくわかった。うーん、さすがに教育王国フィンランド。新しいことを生み出すために何が大事なのかがよくわかっている。

 

そして、その組織ビジョンをだれがいったいどうやって作ったのか気になって調べてみた。すると、2005年に当時のヘルシンキ芸術大学学長に就任したYrjö Sotamaa氏が、就任の演説で提唱した構想がルーツだということがわかった。Yrjö Sotamaa氏は元々デザイナーで、1970年頃、ヴィクター・パパネックの招きでパデュー大学に勤め、パパネックやバックミンスター・フラーと数年間コラボレーションしていた人だそうだ。なんと、アアルト大の設立の背景には、パパネックやフラーらのデザイン哲学が脈々と繋がっている!だからこそ、目的指向かつホリスティックな組織が"デザイン主導"で構想されたのだ。これには驚いた。

I learned from my mentors and collaborators Victor Papanek, Buckminster Fuller and Antti Nurmesniemi that it is our obligation to take reponsibility of the future development of our societies and the planet. Papanek told us to ask «do we use our resorces for solving the right problems», Fuller told us to «think globally» and Nurmesniemi tought us to «understand the great potential of design in building better societies».

www.designagenda.me

 

しかも彼は80年代にLivingLabにいち早く着目し、アラビアンランタ地区の産学コミュニティにそのコンセプトを取り入れた、という。Yrjö Sotamaa氏のことは全く知らなかったけど、この先見の明は凄いな。

 

フィンランドの生んだ世界的建築家、アルヴァ・アアルトの名前にちなんだアアルト大学であるが、その組織のビジョンの背景に、いち早くデザインの学際性と社会性を主張した賢人達の影響を見て、時代を超える思想の重要さを思い知る。思想は抽象的なものだが、それが熟成されて次の時代に具体化され、実を付けることもある。素晴らしいキャンパスを思い出しながら、そんなことを考えた。

 

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 ヴィクター・パパネック「生きのびるためのデザイン Design for the real world」(1971)の図版より

 

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