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みえないものを、みる視点。

【LOUISIANA #1】好奇心は育てるもの:建築&都市デザインのワークショップ

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友人のArki_labのみなさんがルイジアナ現代美術館からハウスアーティストとして任命され、プロジェクトを企画しているとのこと。デモクラティックなアプローチを得意とする彼ららしく、地域の具体的な問題解決に取り組みながらも、地元の4つの学校と連携し、そのプロセスに子ども達を巻き込むことで建築に対する理解を深めるという、教育的側面の両方を成り立たせることを狙うようだ。

 

それは実に興味深い・・・。と思っていたら、彼らの好意でワークショップに僕も見学者として参加できることになった。感謝のかぎり。これから4回に分けて書いてみる。

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9月2日(水)の朝、BIBLIOTEKET Rentemestervejという図書館に集合。参加者は、13歳の生徒達。日本でいえば中1だけど、デンマークは小学校と中学校が別れておらず、同じ教育機関の7年生なんだそうだ。

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ワークショップのテーマは「私たちの周りにある建築(architecture around us)」。

この日はイントロとして、建築のさまざまな目的を理解するという最初のステップに当てている。Rasmusの指示で、Function(機能)、Material(材料)、Right and shadow(採光と陰影)、Storytelling(物語る)、User group(ユーザグループ)の5つの観点のどれかをグループで担当し、建物と建物の周辺を五感を澄まして観察する。

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図書館なんて日本人からするとあまり面白みが無さそうだが、そこはさすがにデンマーク。普通に地域にある図書館でありながら、デザインのこだわりは半端ない。これは図書館の中にあるカフェ。素敵すぎる。

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児童書コーナー。こんな遊び心あふれる空間、初めて見たw

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このBIBLIOTEKET Rentemestervejは、気鋭の建築事務所、COBEが設計した図書館だという。4冊の本を重ねたような形態。本を収蔵し、貸し借りする場所としてだけでなく、地域の人々が集い、クリエイティビティを生むような場所になることを目指して作られている。

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そして、図書館のユーザとは?たしかに建物ばかり見ていると、人への視点は抜け落ちがちだ。本を借りに来た人だけではなく、気を付けて見てみると、いろんな人達がいる。中庭では談笑しているムスリムの人達がいた。この辺はいろんな国籍の人が多い。今回のプロジェクトはそういった地域の抱える課題を発見することにも目を向けている。

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Rasmus先生とJeanette先生。生徒達が各グループで観察を通して見つけてきたことをシェアする。ふむふむ、ポイントを決めて別々に採集してみんなで統合するというのは"ジグソー法"みたいなやり方だな。発表の様子を見ていると、生徒達は初めての経験でまだ戸惑っている感じがするし、気付いたことはほんの表面的なことのようだけど、二人はそれをうまくすくい上げながら即興で解説を付け加えている。全チームに丁寧なフィードバック返していてとても感心した。

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次は10分ほど歩いて、近くのKvartersparkenという公園に移動。小高い丘に登って次のワークに移る。次はこの公園をさっきと同じく5つの観点で、ここをフィールドワークする。

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とあるしゃれたマンションに隣接しているこの公園は、SLA landscape architectsによる設計。いまは全くそう見えないが、この地域はあまり評判のよい場所ではなかったらしい。それを変えるために、住民の子供と大人たちを巻き込んだ長いインクルーションのプロセスを通して、彼らの願いを叶えるような公園としてつくられたそう。そういうわけで、ここには住民たちが参加して共創したいろんな仕掛けが施されているようだ。

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地面には、なにやら文字が書かれている。詩かな?

素材グループにJeanetteがいろいろ問い掛けている。やりとりを通して、生徒達がだんだん好奇心を持ち始めているのは外見的にもはっきりわかる。

 

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公園には"1001本"の木が植えられている。たくさんある街灯のポールのいくつは、手を叩くと光が点滅するというインタラクションが仕込まれているそうだ。

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生徒達がなにやら黒い彫刻をのぞき込んで遊んでいる。

何かの遊具かな、と思いきや。

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 のぞいた先に開いている穴から、北極星の星座がみえるという装置だった。

公園のあちこちに五角形の星のマークが施されているのは気がついたが、なるほどいろんな仕掛けは「星」を共通のコンセプトとしているのか。会話のきっかけや物語る(ストーリーテリング)コミュニケーションを生む仕掛けが埋め込まれているということだ。建築や都市デザインは、人工物をかたちづくるだけではなく、人と人の関係を含めて総合的に考えていくもの、という良い事例である。

 

それをプロの立場から一方的に教えるのではなく、生徒達自身に観察を通して自分で発見させるところも、この題材を選ぶ彼らのチョイスも素晴らしい。

 

このワークショップは正規の学校のイベントとして組み込まれているそうで、移動しな がら、担任の先生にカリキュラムの位置づけの話を聞いてみた。科目は日本と同じでアートとデザインは別れていないようだが、その中でも建築の学習というのはやはりデンマークといえども、けっこう珍しいらしい。そして「これはめったにないプロジェクトだと思うから、クラス全員つれてきているよ」、とのこと。

「日本だと興味がある生徒に対して選択科目か、自由応募ならありえると思うけど、全員つれてくるってのは難しいだろうなぁ」と僕が反応したら、それは違う、と反論された。先生曰く、「興味はみんな最初からあるわけじゃない。その興味をつくるために教育の場があるんじゃないか」と。全くもってその通り(汗)。発現する子供の興味には、かならずきっかけがあることをわすれてはならない。

 

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そして初日が終了。生徒達は面白さに気付いたのか、たった数時間で明らかにみんな態度が変わり、好奇心が高まっていることがわかる。子供の吸収力はどの国でも高いな。

 

次のワークショップでは、ここで理解したことをもとに制作に入るようだ。

 

(続く・・・)