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Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

「労働者博物館」における体験のデザイン

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先日書いたエントリに関連して、参加型デザインが成立した社会的な背景を調べている。その中で「労働者博物館」なる変わったミュージアムがあることを知ったので、早速訪問してみた。

 

この博物館は街の中心部の良い場所にあるのだが、エントランスをくぐると、いきなり豪快に洗濯物が干してある。今時どんな一般家庭でも外に洗濯物を干すことはなくて、もちろん演出である。

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入場料は65クローネ(約1200円)と安くはないが、館内は当時の街の様子や、デンマークの労働者たちの日常生活の様子を細かく再現していて、かなり気合が入っている。日本で言えば、お台場の台場一丁目商店街とか、ラーメン博物館とかと同じ系統のタイムスリップする展示と同じ路線だ。まるで昔のコペンハーゲンの通りに迷い込んだかのよう。

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写真は当時のキッチン。他にも住空間は各部屋で詳しく再現されている。19世紀後半の産業革命の頃、農村から出てきて困難に立ち向かいながら生活をしていたコペンハーゲンの普通の人々の生活に焦点を当てているとのこと。どの国も同じだが、昔の人々はとても質素で貧しい生活をしていたわけだ。

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そして、あちこちに蝋人形の労働者がひっそりと存在している。無言で背中を丸めていたりと、すさんだ雰囲気までリアルに感じられて、かなり怖い。

決して楽しそうに見せようとしていないのに、こだわりが真剣すぎてジョークに見えてくるのが面白いところだ。労働組合の成立していくまでを扱っている博物館なので、まあ完全に「左巻き」の視点であるが、退屈にならないように工夫しているのだと思う。

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訪問の一番のお目当ては、この辺の工業製品が大量生産になっていく時代の労働環境や生産プロセスを調べること。デンマークの誇るハイセンスな高級オーディオBang&Orfsenの製品も、労働者たちがコツコツと手で作っているのだ、ということを主張するように展示されていた。

 

参加型デザインアプローチの重要なポイントとして、60~70年代の頃、労働運動をもとに生産プロセスに労働者を参加させ始めた、という流れがあるのだが、残念ながらその辺は展示では触れられてなかった。(あまり知られていない話だが、参加型デザインは決して利用者のユーザビリティ向上が出発点ではなく、なんと工場労働者と経営者の交渉から始まっている)

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8時間労働制を主張する闘いの旗。ヨーロッパはどの国も労働時間が短いが、自然にそうなったわけではなくて、勝ち取ったものだということが分かる。

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貧しいワーキングチルドレンの問題なども細かく扱っているが、たぶんこれは現代の小学生の見学にあわせた展示なのだろう。説明もかなりやさしく書いてある。アンデルセン童話の「マッチ売りの少女」が示しているように、昔は貧しい子達がたくさん居たわけで、現代の手厚い福祉社会は人々の努力の結果だということは、それが当たり前になってしまった子ども達には、こういった機会でも作らないとなかなか理解しにくいものかもしれない。

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ミュージアムショップもとても充実していた。ロシアアバンギャルドっぽいノリのポスターやプロレタリアな「赤い」グッズがたくさん売られている。労働系のグッズなんて一見つまらなさそうだが、ネタっぽいものばかりだ。

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思わず買ってみた。昔の牛乳瓶と、社畜ばりの熱いブリキ標語。

 

デンマークは美しいインテリアデザインや福祉のイメージで語られがちだけれども、その背後には日本とは全く異なる社会の仕組みがある。外国人の観光の視点ではまず見えてこない街の時間的な変遷や、人々の願望の深部をうまく可視化しつつ、来場者と当時の人々の目線を重ねながら共感させていく工夫がとても興味深かった。来場者への体験のデザインの点でこの博物館は秀逸だと思う。とりあえず自分は労働問題にはほとんど関心がなかったが、デザインミュージアムの飾り物の展示室よりも、生活のコンテクストに沿ったデザインを感じた。

 

www.arbejdermuseet.dk