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Kamihira_log at 10636

みえないものを、みる視点。

想像上の秩序

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読書メモ.



サピエンス全史ー文明の構造と人類の幸福ー」(上)
第6章 神話による社会の拡大

以下引用
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b. 想像上の秩序は私たちの欲望を形づくる
たいていの人は,自分たちの生活を支配している秩序が想像上のものであることを受け入れたがらないが,実際には誰もがすでに存在している想像上の秩序の中へと生まれてきて,その人の欲望は誕生時からその秩序の中で支配的な神話によって形づくられる.したがって,わたしたちの個人的欲望は,想像上の秩序にとってもっとも重要な砦となる.
<中略>
人々がごく個人的な欲望と思っているものさえ,たいていは想像上の秩序によってプログラムされている.たとえば,外国で休暇を過ごしたいという,ありふれた欲望について考えてみよう.この欲望には自然なところも明白なところも全くない.チンパンジーのアルファオスは,近隣のチンパンジーの集団の縄張りに出かけていって休暇に出かけるために自分の力を使おうとは絶対に思わないだろう.古代エジプトのエリート層は巨額の費用をかけてピラミッドを建設し,自分の亡骸をミイラにしたが,バビロンに買い物に行くことやフェニキアに休暇ででかけてスキーを楽しむことなど決して思い付かなかった.今日の人々が外国での休暇にたっぷり時間を注ぎ込むのはロマン主義的消費主義の神話を心の底から信奉しているからだ.
ロマン主義は人間としての自分の潜在能力を最大限発揮するためには,できるかぎり多くの異なる経験をしなくてはならない,と私たちに命じる.自らの束縛を解いて,多種多様な感情を味わい,様々な人間関係を試し,慣れ親しんだものとは異なるものを食べ,違う様式の音楽を鑑賞できるようにならなくではならないのだ.
これらすべてを一挙に行うには,決まり切った日常から脱出して,おなじみの状況をあとにし,遠方の土地に旅するのが一番で,そうした土地では他の人々との文化や匂い,味,規範を「経験」することができる.「新しい経験によって目を開かれ,人生が変わった」というロマン主義の神話を私たちは幾度となく耳にする.
消費主義は,幸せになるためにはできるかぎり多くの製品やサービスを消費しなくてはならない,とわたしたちに命じる.何かが欠けている,あるいはしっくりこない,と感じたら,おそらく私たちは製品(自動車,新しい服,自然食品)あるいはサービス(家事,対人関係療法,ヨガのクラス)を買ったり受けたりする必要がある.どのテレビのコマーシャルも何らかの製品あるいはサービスを消費すれば人生がよくなるという小さな神話なのだ.ロマン主義は多様性を奨励するので,消費主義と完璧に噛み合う.両者が融合して無限の「市場経験」が誕生し,その上に現代の観光産業が打ち立てられた.観光産業はたんに飛行機のチケットやホテルの部屋を売るのではない.経験を売るのだ.パリは都市ではなく,インドは国ではない.両者はともに経験であり,それを消費すればわたしたちの地平線が拡がり,人間としての私たちの可能性が満たされ,私たちはもっと幸せになれるはずだ.その結果,百万長者は妻との関係がぎくしゃくしたときにはパリの高価な旅に連れて行く.その旅は何か独立した欲望の反映ではなく,むしろロマン主義的消費主義の神話を熱烈に信奉する気持ちの反映だ.
<中略>
想像上の秩序から逃れる方法はない.監獄の壁を打ち壊して自由にむかって脱出したとき,じつはわたしたちはより大きな監獄の,より大きな運動場に走り込んでいるわけだ.
(p148-149)

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我々が無自覚に使いがちな「経験」という語を背後から支えている価値観に対するなかなか辛辣な描写.旅の経験にせよ.民主主義や資本主義にせよ,それらの秩序が人々に信じさせるためには,それが想像上のものだとは決して認めてはいけないし,その虚構を信じることができたからこそサピエンスはここまで繁栄した,とユヴァルは言う.このなんだか夢から無理矢理醒めさせられるような読後感は,エイドリアン・フォーティの「欲望のオブジェ」を思い出させる.

 

 

 

 

【ワークショップ参加者募集】デザイン実験の場を構想するためのダイアログゲーム

 

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昨年,デザイン実験の場を構想するための対話ゲームの試作版を作りました.欧州や北米で盛んなリビングラボの視点を取り入れ,専門家と参加者がゲーム的に楽しく対話しながら協働のデザインの場作りに必要なことを学習し,発想していくものです.ですが,ワークショップ等で使う機会が少ないため,改善していくためのフィードバックをなかなか得ることができていません.そういうわけで,今回は株式会社ACTANTのイベントACTANT FRIDAYの場をお借りして,試験的に小規模なワークショップを実施してみたいと思います.CoDesignに御関心をお持ちの方,どなたかご協力いただけないでしょうか.このキットはまだプロトタイプですので,いろいろと足りない点もあるかとおもいます.どうしたらもっと面白くなるかをいっしょに考えて下さる方を希望します.


■日時
2017年3月24日(金) 18:00~20:00

■場所
株式会社ACTANT
東京都渋谷区神宮前2-18-3 元吉ビル201
(JR原宿駅or地下鉄明治神宮前から徒歩10分)

■参加費
無料(ドリンク類提供)


■題材
「託児施設を活用したラボの構想」です.
一時的に預けられた子供達を,ただ時間つぶしに遊ばせるのではなくてプロダクトやサービス開発のコ・クリエイターと位置づけられないか,というテーマです.テーマを自分たちの身近なところから発想するバージョンは,過去に産技大人間中心デザインプログラムの「デザイン態度論」にてトライしましたので,今回は対象が決まったテーマの場合にどのように機能するかを試してみたいと考えています.

■募集人数
4〜8名
上記題材に関心のある方ならどなたでも可です.
応募者多数の場合は抽選とさせていただきます.

■応募方法
 
上平までメール kamihira@isc.senshu-u.ac.jp (※@を半角に変えてください)

でお申し込みをお願いします.各種SNSでのメッセージでもかまいません,


道具は人の気持ちを変える

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学内にて。桃の花かと思って近付いたら、どうやら梅の花のよう。

GRをポケットに入れるようになったら、目に入る自然を観察するのがちょっと楽しくなってきた。

いいカメラを手に入れると散歩したくなる。人は道具によっても変わる。

手間暇とバランス

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今日は終日学部内の会議とミーティング。同僚とランチしながら研究と教育のバランスをいかにとるかの話になった。業績をあげるためには時間確保は重要なポイントになるのでみんな考えるところがあるようだ。

 

昔聞いた、工学部の実験の話で印象に残ったことがある。難関大の学生たちは自分で考えたがるので、あまり細かいことは指示しないほうがよくて、そこから(世間一般でいう)難易度が下がるにつれて「あれをやって」「これを記述して」「何文字書いて」という手順などのインストラクションが増え、変数は減っていくという話。美術系の演習でも当てはまるし、広義には義務教育でも当てはまると言える。誤解の無いように強調すると、これは能力差や指示の量に対する是非ではなくて、目の前にいる学習者一人一人の発達に応じて適切なハードルが設定されるべきだよね、という話だった。ちなみに例えば教育困難校などの場合は教員の負担が大きいのは事実だろうが、優秀な学生がそろう学校の教員も決して楽という訳ではない。

 

↓某名門中学教諭のあすこま先生のつぶやきより

 

これは怖いw 教員も人間なので自分の能力にみあわない場にいるとすると、ストレス半端ないことになる。

 

われわれの大学の場合は、指示された要件はちゃんと守って真面目に取り組む学生がほとんどだが、その先の"創造的に思考する"部分にはそれなりに手間暇がかかるため、僕も同僚達もみなその部分にはかなり時間がかかっている(PBLのような答えの用意されてない取り組みしているところはどこも似た問題を抱えているだろう)。そこで教員は、自分の研究と教育を近づけるか切り分けるか、のジレンマを抱えることになる。

 

僕は去年、学外に呼び出されることが多くて学生と関われる時間をあまりとれず、それがやはり学生達の志気に跳ね返ったことを反省して「来年はもうちょっと一緒に考えよう」というモードなのだが、ある先生は学生対応で疲れ果ててて「もう学生と一緒にやるのはやめとこう」というモードになっている・・・というのが今日の話題。

 

みんな大変なのだ。そんな中で日本のあちこちの大学で学生達と活発なプロジェクトの実績を残している先生方は本当にすごいとおもう。常葉大の安武先生、実践女子大の松下先生はじめ、各大学の先生方、頭が下がります。

 

 

 

個人的な知識はいかに管理できるのか

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一昨年、コペンハーゲンビジネススクールで友人のlianaと議論したときに、「パーソナル・ナレッジ・マネジメント」という言葉を教えてもらった。個人情報(電話番号やパスワード)などではなくて、もうすこし経験則も入ったやり方やテクニックなどの実践的なものが該当する。

組織の中での知識管理については、それぞれ決まり事をつくって他人が分かるように共有できるように努力することは普通だし、経営学の分野でも多く議論されているが、個人的なものはそもそも共有されないし、ちゃんと管理する習慣をもっている真面目な人はたぶんそこまで多くない。なのでみんなそれぞれ属人的な方法で解決していると思う。日々の生活ではあまり意識されないが、パーソナルコンピュータが普及して20年以上経ち、どんどん物忘れが激しくなっていく我々中年はだんだん膨大な過去の自分の知識にどう対処するか、という問題と向き合わざるを得なくなっている。

 

例えば、

1)増え続けるメールや写真データをどのように管理するか。外部記憶装置に保存しっぱなしではなく、取り出したい状況でただちに取り出せるような方法をつくるか。

 

2)ネットで購入した本やモノなど、購入したきっかけや文脈などを思い出せるようにするか。「これは、たしかだれかが薦めていたのでぽちった気がするんだけど・・・何で見たんだっけ?思い出せない・・・」と苦しんだことがある人は、僕だけではないはずだ。リアル店舗の買い物は体感した分手がかりが残ることも多いが、ネットショップは注文履歴しかのこっていない。

 

3)仕事の自分用メモ(例えばなにか作ったものの制作物のレシピや、ソフトや機材のパラメータや設定などの記録)をちゃんと記録を残せるか、忘れた後でもすぐに引っ張り出せるようにするか。

 

4)テキスト検索できない情報(たとえば顔は思い出せるがどうしても名前を思い出せない知人のメールアドレス)をいかにして見つけるか。

 

などなど。リチャード・ソール・ワーマンが唱えた情報の整理整頓や見つけ方はいまや専門家だけでなく個人でも必要になっていることがわかる。考えてみれば若者達はこの先およそ50年分以上の個人データや知識の管理と向かい合わなければならないわけだ。他人が干渉しえない領域だから誰も助けてくれないし、誰にも指摘されないだろうけども、みんなどうやっていくんだろうね。

 

あと、今はSNSが発達して、いろんなネットワークが個人を拡張して共有されている分、人間関係のメンテナンスはめんどくなっている気がする。この間、とある人が恋人と分かれたそうなので、(酒飲みながら)「分かれた後でもお互いSNSでそれぞれが何しているかが見えてしまうことに、どう対処しているのか」という疑問について聞いてみたのだが、やはり簡単に割り切れない葛藤があるようだった。いろんなことがITによって便利になっているけど、我々の脳の感情的な部分も総容量も、一日で使える時間も、友人に会える時間も増えているわけではない。目に見えにくい歪みはそれぞれの個人の中でどんどん大きくなっている。

 

 

 

地域アイデンティティ構築をソフト面から攻める街

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機会があって、豊岡市兵庫県)の企画である「親子運動あそび・コミュニケーション教育ワークショップ」に参加してきた。会場は都内で、市のプロモーション活動として位置づけられたものである。あの平田オリザ氏が直接ファシリテーションするということで超楽しみにしていたのだが、彼の指導は小学生以上の部だけとのことで涙をのむ。

内容は幼稚園でやったことがある親子体験のものとそれほど変わりはないな、と思ったが、身体をつかったゲームの中に、全身の筋肉を動かし、身体をコントロールする経験がうまく埋め込まれているのは興味深かった。我々は全く意識していないが都市生活しているとせいぜい歩いたり座ったりぐらいで全身の筋肉を使うことは少なくなっている。あと、インプロワークショップの進行とも通じる部分が多々あり、個人的に勉強になった。扉写真は、子どもとペアで参加者間で「こんにちは!」と挨拶するゲームなのだけど、親にだっこされつつ子供たちは仰向けになってつぎつぎに挨拶していくというもの。(僕のインプロワークショップを受けた人たちには、何が通じるのかわかるだろうw) 

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豊岡市地域活性化事業では、四国の神山とか北海道の東川などと並んで広く知られているが、「人がどのようにいきいきと生活をするか」のソフト面から自分たちの街の独自性を創ろうとしている取り組みが素晴らしい。なんとこの春からはオリジナルな演劇教育を全市で一斉に導入するという。ちなみに僕が参加したこのワークショップも市の取り組みを広く知ってもらう移住促進活動としての開催だ。街が一丸となってオリジナルな表現教育に取り組むというのは、イタリアのレッジョエミリアを彷彿とさせる。

豊岡市の芸術文化参与である劇作家の平田オリザさんが中心となり進めているプロジェクトが、演劇を使ったコミュニケーション教育である。2015年度から試験的に一部の学校で導入してきたが、この2017年春からは豊岡市内全ての小中学校の授業で開始される。特に合意形成能力を高めるには演劇の手法は有効であり、子どもの時から身体感覚として会得していることの意味は大きい。同時に全ての公立の保育園・幼稚園・こども園では、英語遊び保育も始まる。

www.projectdesign.jp

 平田オリザさんは次のように語られています。
「演劇の役割として注目されているのが”合意形成能力”。一定の時間内に話し合いをして、アウトプットしたり、自分の役割をきちんと果たしたり、誰に何を伝えるかを意識したりする能力で、演劇はこれらを楽しみながら身につけることができるんです。」と。

tonderu-local.com

カメラは軽いに限る

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GR2はコンパクトなのが素晴らしい。

まだ試し撮り段階だけど、すごーい!たのしーい!

ポケットに忍ばせられれば、また昔のように写真熱高まるかな。

 

 

コミュニティが生まれる前

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(2008年2月19日の浅野先生, 横浜反町の焼肉屋にて)

 

先日、とある人から情報デザインフォーラムができる前のことを指摘されてびっくりしたので、ちょっと懐かしくなって過去の写真とメールをあさってみた。

 

・はこだて未来大で開催された「はこせみ2005」に、吉橋先生(多摩美)、寺沢先生(当時未来大)、小池先生(東京都市大)、福田先生(札幌市立大)、僕が参加(2005年夏)。

・その後、吉橋先生、小池先生、寺沢先生、上平の4人で情報デザイン教育に関する私的な勉強会を始める(2006年頃)。

専修大のコンテンツデザインコース2年生の成果発表会を開催した際、たまたま来場してくださった吉橋先生と浅野先生がその後二人で飲みに行き、「学会や学校単位ではなく、もう少し広い視点で次世代の情報デザインを考えよう」という話でもりあがる(2008年1月)

・その夜の話を起点に、山崎先生、小池先生や上平らが集まり、横浜デジタルアーツにて勉強会を開催。その場で6月に一般公開の研究会をしよう、ということに決まる(2008年2月19日)

・扉写真はその日の打ち上げでご機嫌な浅野先生。山崎先生がおなじエプロンを着けて焼き肉を食べながら、「こういうのはさっさと適当な名前を付けちゃうのがいいんだ、"情報デザインフォーラム"とか」。

・第1回情報デザインフォーラム開催(2008年6月4日、千葉工大

・その後、コアメンバーが入れ替わりながらも20回のフォーラムを開催し、2冊の本を出版し、Xデザイン学校へと発展的解消。(2017年5月)

 

 というのが大まかな経緯である。すっかり忘却していたが、なんと専大の発表会は起点のひとつだったのだ!そして「大事なことは飲み会で決まる」という格言があるが、本当にその通りだった。

 

振り返ってみれば、僕自身は情報デザインフォーラムには半分ほどしか参加出来てないことに気付いてしまったが、たまたま上の世代の先輩達の近くに居合わせて、ちゃっかりと混ぜて頂いたことでたくさんのことを勉強させてもらったし、その時その時の自分の身の丈を越えたことに挑戦できたことは間違いない。貴重な知見(大事なことは常に、書籍やウェブ、セミナーなどで公開されていない、インフォーマルなところにある)を頂いたことを考えれば、それ以上のことを下の世代にお返ししていかなきゃいけないな、と思う。

 

 

 

異なるパースペクティブから光をあてる

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先日、下北の街中にて。この怪しい人達はどうやら小劇場の公演の宣伝のようだ。こういった舞台の中の虚構と現実空間を撹拌することが街の中で普通に起こっており、受容されているのは下北らしいといえば下北らしい。

 

演劇の持つパワーのひとつである「虚構(フィクション)の実体化」はなかなか面白い。月曜に某社の方とミーティング中に演劇とサービスデザインの発想の関係について議論した際に、Forum Theatreのことを思い出したのでメモ。どこかで試すかもしれない。

 

シナリオを具体化して、アクティングアウトで利用者の視点に変換するというのは日本でも普通に行われてきたが、もうひとつ、北欧でデザインツールとして使われている方法としてForum Theatre(Stop-Go)という演劇の方法がある。

<中略>

つまり、傍目にはアクティングアウトみたいなものではあるが、観客が見ているだけでなく、流れを止めることができるという観客参加型で、アクターと観客が一緒に問題を掘り下げていく。2つのパースペクティブから同時に進められていくのがなかなか興味深い。

kmhr.hatenablog.com

 

 

 

トークイベント「デザイン思考"以後"とクリエイティビティの行方」開催報告

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2月24日(金)、東京ミッドタウン・インターナショナルリエゾンセンターにて「デザイン思考"以後"とクリエイティビティの行方」を開催した。プレミアムフライデー初日ながら、勉強熱心な方々約60名に集まって頂いて大変熱気のあるイベントとなった。

 

そもそもの発端は、3ヶ月前に遡る。11月下旬に書いた「デザイン思考の今後」という記事が多くの人にシェアされて(トータルで10,000viewは行ったと思う)、意外にみんなこの話題に関心があるんだなあ、と気付かされたことと、この記事にGKの柴田さんが手短なコメントを下さったことである。

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ここからいろんな人に構想を話しているうちに、いつの間にか第一線の話題提供者および気鋭のヴィジュアルファシリテータの内諾を頂き、会場は日本デザイン振興会から東京ミッドタウン中にある品位ある場まで提供して頂く、という多くの方々の援助を得て、あれよあれよと運良くも実現に向かって進んでいった次第。チケットも速攻で完売し、なんとか開催まで漕ぎ着けることが出来た。

 

僕自身の問題意識としては、「デザイン思考」という言葉に特別な思い入れがあるわけでなくて、イベントの開催概要に書いたように、概念ややり方を得たことで安心していないでどんどん自分たちでアップデートしていかなきゃいけないはずのに、その辺を共有したり議論したりする機会が(少なくとも自分が)少ないということだった。あまり知られていないが、デザイン思考という言葉は、世界では地域性を取り入れながら独自に解釈されている。(例えばTakramの佐々木さんが書かれている「シカゴ派のデザイン思考」、 北欧の「Design Thinking (Democratic Design experiments)」など。両者とも、もともと育んできた地域の文化と融合していることがポイントだ)翻って日本の場合はどうなんだろう?本場のやりかたを有り難がるよりも、間違いを恐れずに自分たちの文化の中で受容して、そこで新しく解釈して言葉を生み出していくことが大事なのではないか、ということを時折考えていた。そういうわけで、そのヒントを得るために、自分が参加したいイベントを自分で作ったということになる。

 

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話題提供者1:武山政直先生(慶應義塾大経済学部教授)「政策および公共サービス改革へのデザインアプローチ」。サービスデザインはビジネス分野から公共分野(パブリックセクター)に拡がっており、政策決定プロセスという抽象的なものにデザインを積極的に活用していく欧州での取り組みを紹介して頂いた。

なかでも英国のPolicy Labの事例が大変興味深かった。大規模な政策をいきなり運用するのではなく、切り出したコミュニティの中で実験や学習を行い、実行のループに移行していくというアプローチを、デザイナーが主導してデザインしているそうである。先にプランを決めてしまわないで反復しながら探索していく、というのは予期できないやっかいな問題を進めていくためには重要な姿勢である。

Applying Design Approaches to Policy Making: Discovering Policy Lab. University of Brighton , Lucy Kimbel

(リンク先のレポートPDFはグラフィックデザイン的にも大変面白いので必読) 

Policy Lab uses an approach and expertise based in design to help the policy community explore and develop new capabilities in generating and interpreting early-stage insights, engaging with delivery partners, specialists and stakeholders, and closing the delivery gap between policy intent and outcomes.

こういったデザイン主導の考え方は、日本の行政ももっと真剣に考えなければならないことだろうし、ついでに立案の関与者だけではなく、失敗は絶対に許されないという社会的な圧力はもっと問題である。共有ボードのコメントに書かれた「何もしないことは後退であり、多少の失敗は学びで進化に必要なプロセスという文化が求められるように思います」というのは正しくその通りだと思う。

 

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話題提供者2:柴田厳朗氏(GKリサーチイニシアチブ取締役)「異邦の鳥・野生・その他」。文学的なタイトルで内容がさっぱり読めないことが個人的にツボで(笑)大変楽しみにしていたが、今回のイベントの問いに真摯に応えて下さって大変刺激的なトークだった。柴田さんはスライドを共有して下さったのでリンクする。

 

speakerdeck.com

当日のアンケートでも反響が一番大きかったのだが、われわれが聴き入ったのは漠然と思っているようなことを次々と言い当てていくようなコンテンツに加えて、語り口も大きかったと思う。長年デザイン業界にいらっしゃる経験や幅広い教養をもとに、思索を重ねられていることがよく伝わってきた。デザイン思考も長い歴史を参照してみれば取るに足らない概念だし、人の観察や共感でわかる「不満」なんてものはほんのちっぽけなもので、その水面下には膨大なことが埋め込まれているという指摘はその通りで、表面的なデザインワークでは問題点をすばやく解決しようと急ぐあまりしばしば「無いこと」にしてしまうが、(素人もプロも)その厚みをよく考慮する必要があるはずだ。

 

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話題提供3:佐宗邦威氏(株式会社ビオトープ代表取締役) 「ビジネスとデザインの交差点の先にみえてきたもの」。デザイン思考と言えば、佐宗さんは大きな存在感を放つ人。多忙を極めており、基本的に講演の類は受けていないとのことだが、今回のイベント主旨に共鳴して下さり、かなり無理してお越し頂いた。

さて、佐宗さんの著書「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」はベストセラーにもなっているが、執筆を終えた時には著者はもうそのテーマからは卒業している、というのはよく聞く話。佐宗さんもやはり「"創造的問題解決"と言ってきたけど、今やっていることには合っていない」と認めていた。顧客視点から事業を始めたが、現在経営者視点で組織風土開発を中心に手がけているきっかけとして、岡田監督(元サッカー日本代表監督)とのお仕事での出会いと岡田氏の語る言葉に感銘を受けた経験を挙げられた。一般の人々の持つイメージを脱ぎ捨てて大きく取り組みを変えていることが印象深かった。

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 ここで軽食。ドリンクとサンドイッチ、フリートークで気分転換。

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 第二部のディスカッション。申し込みされた方々のリストを眺めながら、ここまで面白い方々がたくさんいらっしゃるのだから、話題提供者のパネルディスカッションではなくて、いろんな人にマイクを振りまくっていこうと決めた。富田さん、佐宗さんと相談しながらシートをつくり、来場者のみなさんから事前に集める。1枚名は「デザインに対してもやもやしていること、物申したいこと」など。2枚目は、「"これまでのデザイン"と"これからのデザイン"」に関する持論のキーワードを書いたもの。多様な回答が集まって見応えがある。これをもとに来場者を含めて議論していく、というものである。そして、ある疑問に対してもっとも適切なコメントをするであろう人をピンポイントで指名したりしながら、無理矢理進めてみたけど、結果的には僕の司会力不足で撃沈。そもそもこの多様な話題をまとめるのは無理があるが、発言者の話を聞きながら次の内容を同時進行でさばくのはとても難しかった。でもみんなが今何を考えているのかが見えたのは、自分で主催したからこそというか、大きな収穫だったと言える。

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 この日の話題提供、議論、参加者のシートなどの全記録は、東海大富田研究室によってリアルタイムで記録された。6名のカーソルがミツバチのように飛び交い、記録されていく様子はなかなか壮観だった。(記録はちょっと文脈が途切れているところもあるので、データは一般公開はせず、来場者のみの共有となります。読みたい方は富田先生にお問い合わせ下さい)

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 最後はフリートークとネットワーキング。

反省点ばかりであるが、みなさん大目に見て下さり、なんとか盛りあがってよかった。こういうイベントは普段の行動範囲では会わないような人と出会えることも魅力の一つである。(内閣府経産省の方も来られていたので、武山先生はじめこの場に集ったデザイナー達のネットワークも霞ヶ関へと繋がり、新しい接点が生まれることも期待したい)

 

長くなりましたが、最後に。いろんな人から「まとまってないから、是非続編を!」との叱咤激励を頂きましたが、続編は考えていません。次にまたなにか新しいネタがある時に企画を考えたいと思います。参加者のみなさま、関係者のみなさま、ご協力ありがとうございました。

 

過去の上平企画のイベント

vol.1 DESIGN GAME from Denmark to Japan ( 2013.2.2 コクヨ)

vol.2 Sociology meets UX モバイルUXを分析するWS  ( 2013.9.11 ロフトワーク)